著者
荻原 成騎
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2019年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.16, 2019 (Released:2019-07-03)

Yooperlite とは、2017 年の夏に Superior 湖の湖岸にて発見された“紫外線蛍光を示す石ころ”である。Yooper とは、発見された場所である Michigan 北部の Upper Peninsula、略して U.P. に由来する。Yooperlite の紫外線によるオレンジの蛍光は、まことに麗しく神秘的であり、パワーストーン愛好者を魅了している。岩石学的には、Syenite の円礫で、蛍光の原因は Sodalite である。蛍光する Sodalite について、特に区別して Hackmanite と呼ぶことがある。Greenland や MontSaint-Hilaire、コラ半島などからの産出が知られるが、いずれも母岩は Syenite である。これらの Hackmanite 蛍光の原因として S や Be が指摘されている。岩石学的には、珍しい石ではない。本研究では、薄片観察に基づき、Sodalite の産状を記載し、XRD による結晶学的特徴付け、EPMA および LA/ICP-MS による主成分/微量成分分析により蛍光の起源を明らかにする。Yooperlite は湖岸に転がる石ころの中でも稀な石であり、現在ではほぼ取り尽されている。そのため現地調査は行っていない。Yooperlite は氷河堆積物中の円礫であるため、礫の母岩である Syenite の産状は見ることはできない。顕微鏡観察に基づく Syenite の特徴は、nepheline を欠くことである。Nepheline については、XRD からも検出されなかった。顕微鏡観察から、Sodalite は matrix を充填しており、もともと nepheline があった場所に置換して分布しているように見える。Sodalite が matrix の Nepheline を置換していると考えると、Sodalite の成因は、単純に Nepheline とアルカリの反応3NaAlSiO4 + NaCl → Na4Al3Si3O12Cl(3Nepheline + NaCl →Sodalite)で説明できる。本研究における Sodarite の分析の結果格子定数 a=8.8594(49)組成 Na3.49Al3.15Si3.07O12Cl1.22発表では、Sodalite 中の蛍光に関与している微量元素組成について言及する。研究で用いた Yooperlite は、Mr.Stone 吉田様から提供された。質問などは ogi@eps.s.u-tokyo.ac.jp まで
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2019年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.11, 2019 (Released:2019-07-03)
参考文献数
3

2018 年の宝石学会(日本)でカラーチェンジ・ガーネットについて考察した中で、マダガスカル Bekily から産出するパイロープ-スペサルティン・ガーネットには、バナジウムを多く含有することで、ガーネットには存在しないとされた青色を、D65 光源下では示すものを紹介した。それはまさにアーサー・コナン・ドイルの小説 「The adventure of the blue carbuncle」 で描かれた青いカーバンクルを連想させるものだった。しかし、その内容や時代背景を考えるとドイルのブルー・カーバンクルは、青いカーバンクル(ガーネット)というよりブルー・ダイアモンドとして有名なホープ・ダイアモンドがそのモデルとなっていると考えられ、検証を行った。ドイルが描いたブルー・カーバンクルにはガーネットより、ホープ・ダイアモンドとの多くの共通点が見られる。第一に、青いカーバンクル(ガーネット)は、当時存在を知られていなかったこと。第二に、その宝石についてホープ・ダイアモンドと共通する記述が多くあること。第三に、その小説が発表された 1892 年以前に、ホープ・ダイアモンドはドイルの住むイギリスで所有されており、人々の注目を浴びるものであったことである。第一の、青いガーネットの存在が知られていなかったことは、Bekily のカラーチェンジ・ガーネットの発見が 1999 年のことであり、他のカラーチェンジ・ガーネットについて報告されたのも 1970 年代以降のことであることから、当時は青いガーネットは認識されていなかったことがわかる。(K. Schmetzer 1999)第二のホープ・ダイアモンドとの共通点については、結晶した炭素であること(”crystallized charcoal”)、ガラスをパテのようにカットすること(”It cuts into glass as though it were putty”)、ブリリアンシーのあるシンチレーションが強い青い石であること(”brilliantly scintillating blue stone”)などの記述が当てはまることなどである。第三の時代背景については、この小説が発表されたのは 1892 年であるが、それ以前のホープ・ダイアモンドについて調べると、1851 年のロンドン万国博覧会で公開されており、広く人々の注目を集めている。そして 1887 年には Henry Thomas Hope 氏の孫の Francis Hope 氏が相続することが裁判で決定される中、相続問題と裁判が数多く報道された。そのため、執筆時のドイルの目に触れたことは容易に想像できる。このような観点から、ドイルが小説の中で描いたブルー・カーバンクルは、ホープ・ダイアモンドがモチーフになったと考える。