著者
尾崎 良太郎 丸飯 虎太朗 門脇 一則 小田原 和史
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2022年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.6, 2022 (Released:2022-07-08)
参考文献数
2

真珠の構造色は、表面の真珠結晶層内のアラゴナイト結晶層とコンキオリン層で発生する光の干渉によって発色することが知られている。一般的な構造色では、反射光の干渉が色彩を決めることが多いが、アコヤ真珠の場合は、特に透過の干渉色が重要であることを小松氏は指摘している。我々は、透過の干渉色と反射の干渉色のメカニズムを光学の視点から考え、そのモデル化に成功した。真珠の光学特性は、透過と反射と散乱の組み合わせである。真珠核および真珠結晶層での多重散乱は Kubelka-Munk 理論で計算し、アラゴナイト結晶層とコンキオリン層での干渉は、 Transfer Matrix 法で計算した。計算で得られたスペクトルを色情報に変換し、その色情報に基づき OpenGL シェーディング言語で作成したプログラムで可視化した。図 1 は、コンキオリン層を 20 nm として、アラゴナイト結晶層が 360 nm のときの結果である。上段が写真であり、下段がコンピュータグラフィックス(CG)であるが、撮影角度に伴う干渉色のグラデーションの変化をよく再現できている。また、アラゴナイト結晶層を300 nm、 360 nm、 400 nm としたときの結果を図 2 に示す。結晶層厚の変化に伴う、干渉色のグラデーションの変化も再現可能である。今後は、 CG の更なる高度化を目指し開発を進める予定である。【謝辞】本研究は農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」の支援を受けて行われたものです。
著者
田澤 沙也香 山本 亮 佐藤 昌弘 矢﨑 純子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2022年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.5, 2022 (Released:2022-07-08)

蛍光観察では、アコヤ真珠の浜揚げ珠は黄色、漂白珠は青白色などの特徴があり、鑑別でも用いられている。しかし真珠は生体生成物であるため個々のばらつきがある。また、一般的な紫外線ライトは、点滅がわかるように青色等の可視波長の色が加えられているため、観察真珠の蛍光色に青が加わり、本来の色とやや異なって見えている場合も考えられる。本発表では、まず目視で可視波長カットのフィルターを用いた長波紫外線(365nm 付近)照射時の試料真珠の蛍光を観察した。次に、観察した試料真珠の 3 次元蛍光分光測定を行い、目視観察との比較検討を行い鑑別への応用を検討した。1.アコヤ真珠浜揚げ珠と漂白珠浜揚げ、漂白試料真珠を長波紫外線照射下で観察すると、浜揚げ珠は黄色味を帯び、漂白珠は青白色である。紫外線カットフィルターを通して照射したところ、漂白珠にもやや黄色味は確認できたが、浜揚げ珠に比べ青みが強い。次に、試料真珠の 3 次元蛍光分光測定を行ったところ、漂白前後で明らかなピークの変化が見られた。浜揚げ珠は、励起波長 290nm付近で 345nm 付近の蛍光ピークが現れ、漂白を行うことでこの蛍光は減少し、励起波長380nm 付近で 450nm 付近の蛍光が強くなり、漂白後に蛍光の青みが強くなる現象が測定された。アコヤ真珠の浜揚げ珠は、いわゆるアコヤ吸収と呼ばれる 3 つの小さな吸収があるが、年月で消失するとも言われ、蛍光測定の併用で、より正確に浜揚げ珠(未処理珠)の判別ができるようになると考えられる。2.その他の試料真珠放射線照射によって蛍光が弱くなることが報告されているが、処理真珠と未処理ブルー珠についても同様に観察測定した。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2022年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.13, 2022 (Released:2022-07-08)
参考文献数
2

昨年の宝石学会でミャンマー産のピンク・ジェダイトの着色原因について調査を行った。以前のミャンマー産だけでなく、国石でもある日本産でもピンクのジェダイトはないかと考えた。しかし、市場で糸魚川産のピンク・ジェダイト(ひすい)として販売されているものも見られたが、実際それらは翡翠ではなく着色された処理石を除くと、チューライトかクリノチューライトであり、ジェダイトは見られなかった。文献ではこれらのピンク色の石について、ピンクのゾイサイトであるチューライトとしているものもあれば、ピンクのクリノゾイサイトであるクリノチューライトと記載されているものも見られた。そこで、市場で販売されている糸魚川近郊から産出したとされるピンク色の石を5石ほどラマン分光や FT-IR の検査を行ったところ、1石はチューライトで、4石はクリノチューライトであった。FT-IR では反射のスペクトルを計測すると、ゾイサイトとクリノゾイサイトはかなり近いスペクトルだが、 1046cm-1の付近のピークに違いがあり、今回のチューライト、クリノチューライトでも同様に違いが確認された。また、直方晶系のゾイサイトと単斜晶系のクリノゾイサイトは、結晶系の違いによる分類であるが、 G. Funz(1992)によると、それはAl3+と置換した Fe3+が多くなると、クリノゾイサイトになると説明されていた。今回のサンプルは少ないながらも、蛍光 X 線による成分分析で Fe2O3 がチューライトのものでは1.17wt%であるのに対して、クリノチューライトのものは 1.88~2.51wt%と違いが見られた。糸魚川近郊を産地とするピンクの翡翠は見つけられなかったが、天然の鉱物としてはチューライトやクリノチューライトが見られ、それらがピンクの翡翠と勘違いされていることが確認された。