- 著者
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中嶋 彩乃
古屋 正貴
- 出版者
- 宝石学会(日本)
- 雑誌
- 宝石学会(日本)講演会要旨 2022年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
- 巻号頁・発行日
- pp.13, 2022 (Released:2022-07-08)
- 参考文献数
- 2
昨年の宝石学会でミャンマー産のピンク・ジェダイトの着色原因について調査を行った。以前のミャンマー産だけでなく、国石でもある日本産でもピンクのジェダイトはないかと考えた。しかし、市場で糸魚川産のピンク・ジェダイト(ひすい)として販売されているものも見られたが、実際それらは翡翠ではなく着色された処理石を除くと、チューライトかクリノチューライトであり、ジェダイトは見られなかった。文献ではこれらのピンク色の石について、ピンクのゾイサイトであるチューライトとしているものもあれば、ピンクのクリノゾイサイトであるクリノチューライトと記載されているものも見られた。そこで、市場で販売されている糸魚川近郊から産出したとされるピンク色の石を5石ほどラマン分光や FT-IR の検査を行ったところ、1石はチューライトで、4石はクリノチューライトであった。FT-IR では反射のスペクトルを計測すると、ゾイサイトとクリノゾイサイトはかなり近いスペクトルだが、 1046cm-1の付近のピークに違いがあり、今回のチューライト、クリノチューライトでも同様に違いが確認された。また、直方晶系のゾイサイトと単斜晶系のクリノゾイサイトは、結晶系の違いによる分類であるが、 G. Funz(1992)によると、それはAl3+と置換した Fe3+が多くなると、クリノゾイサイトになると説明されていた。今回のサンプルは少ないながらも、蛍光 X 線による成分分析で Fe2O3 がチューライトのものでは1.17wt%であるのに対して、クリノチューライトのものは 1.88~2.51wt%と違いが見られた。糸魚川近郊を産地とするピンクの翡翠は見つけられなかったが、天然の鉱物としてはチューライトやクリノチューライトが見られ、それらがピンクの翡翠と勘違いされていることが確認された。