著者
木村 素子
出版者
宮崎大学
雑誌
宮崎大学教育文化学部紀要. 教育科学 (ISSN:13454048)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.45-62, 2010-03-30

本稿は、アメリカ通学制聾学校史研究における研究視点とその変遷を整理するとともに、そのような視点から研究が行われた教育的、社会的背景について明らかにすることを目的とする。日米の研究を対象に検討した結果、アメリカでは1920年代〜1950年代の聾教育再編期、特殊教育確立期の研究は沿革史的研究が中心で、その後は、1975年のPL94-142施行の学校措置への影響を検証する視点からの研究が少数見られた。1980年代からは聾教育史を手話・聾者復権的視点から編纂する意図による研究が行われ、しばらく聾児のインクルージョンを強力に批判する研究が行われるが、1990年代半ばからは多様性に寛容なインクルージョン理念の世界的普及を背景に、一次資料、とくに聾者によるメディアの資料等を用いて、通学制聾学校史を捉え直す研究が行われた。一方、日本では、1970年代〜1980年代は、特殊教育分野での統合教育の試行、聾教育分野での口話法の改良の機運を背景として、研究がなされた。1990年代からは、公立学校問題、都市社会問題と関連づけながら、聾の特殊学級として通学制聾学校に着目する研究が着手される。さらに、2000年代に入ると、複数都市の横断的検討によって資料の制約を補完する方法論の下、一次資料を用いた研究が始まる。この時期の研究の背景には、インクルージョンが進展する中で、特殊教育、とりわけ特殊学級の再評価が必要になってきたことが挙げられる。