著者
小長谷 幸平 藤野 正也
出版者
富士山科学研究所
雑誌
富士山研究 = Mount Fuji Research (ISSN:18817564)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-16, 2019-02-01

本研究の目的は、明治時代から戦後にかけて、駿河湾を隔てて富士山を見る視点はいつ、どのようにして変化していったのかを明らかにし、富士山を見る視点の変化を論じることにある。明治後期から戦前の期間に発行された絵葉書を対象に、画面構成要素を記録してデータベース化し、クラスター分析と主成分分析を実施して絵葉書を分類し、富士山を見る視点および三保松原を含む景観を見る視点の変化を検証した。 その結果、駿河湾を隔てて富士山を見る視点は、「富士山を含む俯瞰景」という意味では衰退することなく評価されてきたと考えられた。その理由として、俯瞰景としての清見潟のエリアは視対象として衰退することがあったとしても視点場として損なわれることはなかったこと、また同様の俯瞰景を享受できる日本平エリアの視点場が開拓されていったことが要因として考えられた。一方、低地からの三保松原を前景とする富士山の景観は失われてきたことが示唆された。要因としては清水港湾内の開発・工業化が考えられた。
著者
芹澤(松山) 和世 金原 昂平 米谷 雅俊 渡邊 広樹 白澤 直敏 田口 由美 神谷 充伸 芹澤 如比古
出版者
富士山科学研究所
雑誌
富士山研究 = Mount Fuji Research (ISSN:18817564)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-6, 2015

緑藻シオグサ目のフジマリモは富士五湖のうち山中湖、河口湖、西湖の 3 湖ではその生育が確認されているが、精進湖と本栖湖では未確認であった。しかし、西湖・精進湖・本栖湖はもともとひとつの湖であったものが富士山の噴火により分断されてできた湖なので、精進湖や本栖湖にもフジマリモが生育している可能性が高い。そこで、本研究では精進湖と本栖湖にフジマリモが生育しているか否かを確認することを目的に採集器や潜水による調査を行った。その結果、2012 年 6 月に精進湖の水深 2 〜 5 m で、2013 年 11 月に本栖湖の水深 17 〜 22 m でマリモ属様の糸状緑藻を発見した。顕微鏡観察を行った結果、藻体には枝と不定根が認められ、細胞内部には円盤状の葉緑体や多裂型のピレノイド、複数の核が確認された。これらはマリモ属の特徴に一致し、細胞の大きさと形、産地などから、本種をフジマリモと同定した。また、リボソームDNA の塩基配列(ITS 1 - 5 . 8 S-ITS 2 領域)は既知のマリモの配列とほぼ一致した。したがって、本研究により精進湖と本栖湖にもフジマリモが生育していることが明らかになった。
著者
芹澤(松山) 和世 安田 泰輔 中野 隆志 芹澤 如比古
出版者
富士山科学研究所
雑誌
富士山研究 = Mount Fuji Research (ISSN:18817564)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.13-18, 2009-03

2007年9月に山中湖で大型藻類の潜水調査を行ったところ、湖北岸東部のママの森地先の水深1-5mと北東端の平野ワンドの水深2mの湖底で、礫上に着生する糸状緑藻を発見した。その外部形態および内部形態の詳細な観察を実体顕微鏡および生物顕微鏡を用いて行なったところ、マリモの特徴と一致し、フジマリモであると判断した。山中湖ではフジマリモの発見以来、その分布に関する調査が数回行われているが、その分布範囲の縮小や生育環境の悪化が懸念されてきた。そして1993年の調査を最後に本湖ではフジマリモは確認されなくなった。今回、わずかではあるが山中湖では絶滅したと思われていたフジマリモが再発見され、本種の保護と回復のための何らかの対策の必要性が感じられた。
著者
萩原 康夫 桑原 ゆかり 猪俣 瞳子 松永 雅美 長谷川 真紀子
出版者
富士山科学研究所
雑誌
富士山研究 = Mount Fuji Research (ISSN:18817564)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.29-32, 2019-02-01

富士北麓ではキシャヤスデ(Parafontaria laminata armigera)の仲間であるオビババヤスデ(Parafontaria laminata laminata)の群遊が観察されている。しかし、その周期性や群遊が見られる地域の詳細は明らかにされていない。そこで、2003年10月に群遊が見られた精進口登山道2合目の山小屋周辺を周期解明のための調査定点とし、2004年以降本種の群遊が確認される秋期の9~11月と、同じ個体群が翌年に産卵のために再び群遊する初夏期の5~7月に確認調査を行った。 その結果、2009年の秋期と2010年の初夏期、2015年の秋期と2016年の初夏期に群遊が確認され、本種の群遊は基本的に6年周期で発生するものと推定された。また、本種は富士山麓において広範囲に生息していることが確認されたが、地表面に大多数の成虫が出現する群遊は北西麓の標高1,300~1,800mの範囲に限られていた。