著者
松本 邦彦
出版者
山形大学法学会
雑誌
山形大学法政論叢 = Yamagata University, the journal of law and politics
巻号頁・発行日
no.33, pp.35-73, 2005

はじめに 2004年4月にイラクでおきた国際協力活動家の高遠莱穂子氏と今井紀明氏、ジャーナリストの郡山総一郎氏ら日本人3人の「人質事件」では、被害者とその家族に対して一部の政治家とメディアから集中的に批判・非難がおこなわれた。これについては、「在外邦人保護」をめぐる法的側面から、日本社会論について、またその重要な舞台の一つとなったインターネットについて、など各方面から分析・考察がおこなわれている。この「イラク人質事件」においては「自己責任」論が脚光を浴びたが、国際協力活動にたずさわる当のNGOの側がこの事件をどう受け止めていたかに着目すると、そこには単純な責任の有無ではとらえきれない状況が見受けられるように思われる。本稿は、「イラク人質事件」をめぐる言説について、被害者たちがおこなおうとしていた活動の側面つまり「NGO」「ボランティア」「国際協力」等の側面から整理をおこなうものである。なお文中で引用・参照する文献については、単行本は著者名・発行年『書名の一部』、新聞・雑誌記事は筆者名・掲載誌の発行年「記事名の一部」のような略号で示し、末尾に文献リストを付した。