著者
笠井 勝子
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145976)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.19-62, 2006-03-01

ルイス・キャロルは『不思議の国のアリス』を出版して1 年半後の1867 年にロシアへ旅行をした。その時の旅行日記を翻訳し、また現在と当時の生活や習慣の違いなどによって説明が必要と思われる事項にはできるだけ注を付し注釈付き翻訳とした。翻訳に先立つ序のなかでは、旅行をすることになった経緯と、一緒に旅をしたヘンリー・パリー・リドゥンとキャロルとの関係、またリドゥンの宗教上の立場などについて解説した。この旅行日記ではその頃の英国の大学人が初めて外国を訪れて出会った驚きがユーモアを交えて語られていて、キャロルが普段つけていた日記とはちがい読み手を想定していることが窺える。事実キャロルの死後に他の日記は親族の手を経て大英図書館に入ったが、旅行日記はそれとは別に米国へ渡り、単独であるいは他の作品と一緒に全集の中に印刷されてきた。ロシア語を知らなかったキャロルはロシア語の僅かな単語だけで話を通じさせようとしている。キャロルがメモしたロシア語の一部には彼の勘違いもあると指摘を受けたので注に記しておいた。
著者
磯山 甚一
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.25-56, 2001-01-01

1983年に開園した東京ディズニーランドには,「カリブの海賊」という名称の人工空間が造営されている。それを一つの例として,今日の日本には「カリブ海域」に関わる言説が多方面に見られ,英文学史上の小説作品として知られる『ロビンソン・クルーソー』もその一つである。ところがロビンソン・クルーソーの物語のテクストは,17世紀後半のカリブ海域をめぐる言説であることが隠蔽されて今日の日本に流通している。ロビンソン・クルーソーの暮らす島が「絶海の孤島」であるというのは,何かの理由によってつくりあげられた思い込みによる誤解である。コロンブスの新大陸「発見」を契機にして西ヨーロッパの列強が新大陸に競って進出し,全地球を巻き込む「近代世界」というシステムをつくりあげた。そのシステムの形成過程のなかに位置付けることによってロビンソン・クルーソー物語を理解することが重要である。
著者
遠藤 織枝
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145977)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.12-23, 2006-10-01

戦時中の雑誌の用語研究の一環として、天皇関連の敬語使用の実態を報告する。戦時中の皇室に関する敬語には特殊なものが多くあり、また、その使用については厳しい強制があった。戦後まもなくの敬語の見直しで、それらの特殊性が浮き彫りにされた。しかし、その使用された当時の実態に関する報告は少ない。今回の戦時中15年間の雑誌のグラビアの文章を通して明らかになったのは、尊敬にも謙譲にも二重三重の敬語が使われ、過剰・誇張と思われるほどの敬語使用が日常であったという事実である。