著者
細見 彰洋 三輪 由佳 真野 隆司
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.215-221, 2013 (Released:2013-10-12)
参考文献数
20
被引用文献数
4 8

果実品質向上,凍害や獣害防止など,複合的な機能を期待して考案したイチジクの主枝高設樹形で,地上 180 cm の主枝から結果枝を垂下させる新樹形を考案し,栽植密度を変えた異なる樹勢条件で,‘桝井ドーフィン’樹の生育と果実生産への影響を調査した.新樹形樹では,従来の一文字整枝樹(対照樹)に比べて展葉日が 2~3 日早くなった.また,新樹形樹では新梢先端部の肥大生長(先口径,比葉重)が抑制されたが,新梢の伸長生長は対照樹と差がなかった.結果枝上の副梢や結果枝以外の新梢は,栽植密度が高まるほど多発し,特に前者は,従来樹形樹に比べ新樹形樹で秋季に多発した.強勢な新梢の基部に発生し易い不着果は,新樹形樹の方が抑制された.果実の着色は,新梢の先端付近では新樹形樹の方が抑制されたが,基部付近では向上した.また,果実肥大は,全般に新樹形樹の方が抑制される傾向にあった.果実着色や果実肥大におけるこれらの特徴には,新梢の垂下による採光条件の変化が作用している可能性が考えられた.以上,考案した新樹形については,えき芽の多発や果実の肥大不足を避けるための,より適切な新梢誘引法の検討が必要なものの,新梢下位節の果実の着生や着色を促進する利点が明らかとなった.
著者
細見 彰洋 草刈 眞一
出版者
関西病虫害研究会
雑誌
関西病虫害研究会報 (ISSN:03871002)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.9-13, 1995-05-01 (Released:2012-10-29)
参考文献数
6
被引用文献数
3 1

成熟直前のイチジクの果実腐敗における, 酵母菌の関与について調査した. 1. 圃場では, 果実全体が軟化腐敗し果皮に菌そうが生ずる, 黒かび病特有の腐敗果と, 果実内部が淡褐色に軟化腐敗し菌そうのない腐敗果が認められた. 前者からは, Phizopus nigricansが分離された. 後者からは長楕円形 (Type-L) と楕円形 (Type-O) の2種類の酵母が分離され, Type-Oを接種した果実切断面の果肉に部分的な腐敗が発生した.2. 圃場の軟腐果実に来訪していた昆虫は, ほとんどがキイロショウジョウバェ Drosophila melanogaster 成虫であった. 本虫を歩行させたPDA培地からは, R.nigricans Type-O に類似した酵母が分離された. 両菌をイチジク果実に接種した結果, R. nigricans では, 果実の開口部と果肉の何れに接種しても, 著しい腐敗が発生した. 一方, 酵母では, 果肉に接種した場合にのみ部分的な淡褐色の腐敗が発生した. 3. ファイトトロソ内の樹上のイチジク果実に, 圃場の軟腐果実から採取したキイロショウジョウバエの成虫を遭遇させた結果, 酵母 (Type-O) の接種で見られたものと同様の腐敗が高率に再現された. 以上から, 本邦におけるイチジクの成熟直前の腐敗については, その主な要因は, R.nigricansによる黒かび病である. しかし, 一部には酵母の一種による腐敗が, 単独もしくは複合して存在し, この媒介には少なくともキイロショウジョウバエが関与していると考えられた.
著者
細見 彰洋
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.469-474, 2007 (Released:2011-01-20)
著者
細見 彰洋 三輪 由佳 磯部 武志
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.197-203, 2015 (Released:2015-06-30)
参考文献数
26

イチジク株枯病抵抗性を有する‘Ischia Black’や‘Negronne’台木とした,イチジク‘桝井ドーフィン’の接ぎ木苗を,緑枝接ぎを使って1年で育成することを目的に本研究を実施した.両台木品種の挿し木の生育は,挿し穂の採取時期(12月,3月)よりも採取部位の影響が大きく,前年枝の比較的基部を挿し穂とすれば,展葉は遅れるものの発根は速やかに進行し,結果として緑枝接ぎ可能な台木苗を早く準備できた.一方,両品種の台木と穂木品種‘桝井ドーフィン’の緑枝接ぎでは,接ぎ木が遅いと接ぎ穂自体は生存しても年内の接ぎ木活着率は低かった.また接ぎ穂は,登熟が始まっている部位より,未登熟部を利用した方が展葉開始が早く,初期に障害葉を生じ易いものの,穂木生存率が高かった.以上から,緑枝接ぎによる当年育成の生育良好な苗を得るには,なるべく基部由来の挿し穂を用いて台木の挿し木苗を養成し,接ぎ木をできるだけ早く,穂木品種の未登熟部分を利用して行うことが望ましいと考えられた.
著者
瓦谷 光男 三輪 由佳 磯部 武志 細見 彰洋 岡田 清嗣
出版者
地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所
雑誌
大阪府立環境農林水産総合研究所研究報告 (ISSN:21886040)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.20-22, 2014 (Released:2020-04-02)

培地上の株枯病菌は25℃前後に生育適温があり,34℃で生育が停止し,40℃で1日培養すると死滅した.菌叢片または子嚢殻は,45℃120分以上,47℃30分以上,50℃7分以上の熱処理により死滅した.イチジクの素掘り苗(土なし)は,45℃4時間,47℃30分間,50℃20分間の温湯処理により,また,ポット苗(土付き)は42℃1日の湿熱処理により株枯病防除が可能と考えられる.
著者
細見 彰洋 安永 昌代
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センター
雑誌
新近畿中国四国農業研究 (ISSN:2433796X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.67-78, 2019 (Released:2019-03-18)
参考文献数
19

殺虫・殺菌剤を使わず栽培した無防除区の露地栽培‘デラウェア’樹では,べと病の蔓延が目立ち収穫期ごろからの落葉が多発した.果実品質ではやや酸度が高い特徴が観察された以外,慣行栽培樹と異なる傾向は認められなかった.しかし,新梢は冬季の枯れ込みが多く,供試樹は年々衰弱して結果母枝の確保が困難となった. 落葉被害が無防除区の特徴であったことから,立木や鉢植え樹を使って様々な時期や規模で人為的に葉を切除し,果実品質と新梢生育への影響を確認した.その結果,果実生長第Ⅰ期に相当する5 月末~6 月中旬に全葉を切除した場合に果粒の肥大や着色,糖度の低下,酸度の増大が認められた.一方,葉の切除が部分的な場合や,果実生長第Ⅲ期である7 月中旬以降の場合には明らかな影響は認めなかった.一方で,冬季の枯れ込みは5~6 月よりも7 月の葉の切除で助長された. 以上から,露地栽培‘デラウェア’において,殺虫・殺菌剤の不使用で顕在化した葉の損傷は,果実生長第Ⅲ期以降の同化養分の供給を阻害し,果実品質への影響は少ないものの,冬季の枯れこみを助長し,年数とともに樹体を衰弱させたものと推察された.
著者
細見 彰洋
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.185-191, 2019 (Released:2019-06-30)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

イチジク株枯病抵抗性がある ‘セレスト’,‘ネグローネ’,‘イスキア・ブラック’,‘キバル’ を台木としたイチジク ‘桝井ドーフィン’ 接ぎ木樹について,本病汚染がない圃場での生育と果実生産性を,いや地耐性のある ‘ジディー’ 台樹を参考に加えて自根樹と比較した.健全圃場において定植2年目から4年目ないし5年目まで調査した結果,結果枝の全長と基部径は ‘セレスト’ 以外の台木使用樹で自根樹を上回る年があった.また,果実生産性(着果率,成熟日,1果重,果皮色,果肉糖度)は,基部節付近(1~5節)において,‘ネグローネ’台樹,‘キバル’台樹,‘ジディー’ 台樹の着果率が,また,‘ジディー’ 以外の台木使用樹の果肉糖度が,それぞれ自根樹を下回る年があった.しかし,これらは限定的で,大半の特性に自根樹との差異はなかった.また,イチジク株枯病の発生はないものの,いや地が生じている圃場で,定植2~4年目の生育を比較した.その結果 ‘ネグローネ’,‘イスキア・ブラック’ 台樹の生育は,‘ジディー’ 台樹には劣るものの,自根樹とは有意差がなかった.以上,イチジク株枯病抵抗性の4品種いずれを台木として使用しても,自根樹に比べて穂木 ‘桝井ドーフィン’ の生育や果実生産性が大きく変化することはなかった.よって,これら4品種の台木としての価値は抵抗性の強弱を第一として評価され,この点で優れる ‘キバル’ や ‘ネグローネ’ の選択がふさわしいと考えられた.
著者
細見 彰洋 瓦谷 光男
出版者
The Kansai Plant Protection Society
雑誌
関西病虫害研究会報 (ISSN:03871002)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.29-32, 2004 (Released:2011-09-12)
参考文献数
10
被引用文献数
8 6

いや地対策として選抜され,台木としての利用が普及しつつあるイチジク‘Zidi’や‘King’について,イチジク株枯病抵抗性の強度を明らかにするため,抵抗性が強いとされる‘Celeste’と,抵抗性が弱く本病の被害が問題になっている主要品種‘桝井ドーフィン’との間で抵抗性の比較を行った。1. 予めPDA培地で前培養し,培地ごと直径5mmに打ち抜いた株枯病菌Ceratocystis fimbriata の菌そうを直径8cmに切った供試品種の葉片に付傷接種した。その結果,接種部位からの病斑の広がりは‘Celeste’で遅く,‘King’や‘桝井ドーフィン’で速く,‘Zidi’はその中間にあった。2. 予めPDA培地で培養したC. fimbriata の菌そうを,培地ごとミキサーで粉砕して蒸留水に懸濁し,供試ポット苗の用土にかん注接種した。その結果,何れの品種においても病斑が形成され,C. fimbriata が再分離された。但し,‘Celeste’は接種後90日間ほとんど枯れなかったのに対し,‘Zidi’や‘King’は‘桝井ドーフィン’と同様に62%~89%の苗が枯死した。以上の結果から,いや地対策の台木として開発されたイチジク品種のイチジク株枯病抵抗性は,明らかに‘Celeste’より弱く,これらの台木を使った栽培においても,本病に対する注意が必要と考えられた。
著者
細見 彰洋 磯部 武志
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.133-139, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
32

調査した農家圃場のイチジク ‘桝井ドーフィン’ 樹は,5年ほどの間に年々樹勢が低下し,いわゆる「いや地」被害の状況にあった.これらの樹に,緑化樹の枝葉を素材とする木質堆肥を,1 m2当たり約0.4 m3の量で樹冠下の地表にマルチ施用した.その結果,施用2年目には無施用に比べて樹勢の衰弱が軽減され,その効果は施用6年後も持続していた.また,無施用樹でみられた着果数や果実肥大の減退も回復が見込めた.木質堆肥を施用した土壌は,無施用に比べてCECや腐植が高く,三要素の中では硝酸態窒素と交換性カリウムの濃度が高かった.本調査から,木質堆肥の施用が,いや地被害で衰弱したイチジク樹の樹勢回復の一助となり, その効果に, 少なくとも木質堆肥施用による土壌の理化学性の改善が関与している可能性が考えられた.
著者
細見 彰洋 内山 知二
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.44-50, 1998-01-15 (Released:2008-01-31)
参考文献数
16
被引用文献数
7 8

ネコブセンチュウが生息し, かつ生育障害の発生している大阪府下のイチジク栽培圃場から土壌を採取し, これを接種していや地を起こさせた圃場の土をいや地土壌として実験に供した.いや地土壌, あるいはこれを添加した用土でのポット試験では, 挿し木イチジクの萌芽や発根が阻害されて活着率が低下し, 活着した個体の生育も著しく劣った.いや地土壌を予め60℃で2時間湯煎し, いや地土壌に含まれるネコブセンチュウを死滅させた場合, このような生育阻害は軽減されたが, 対照土壌に比べると活着率が低く, 活着しても新梢や根の生育が劣った.ネコブセンチュウ幼虫を, ポットで生育中の挿し木イチジクの用土に添加すると, 新梢や根の生育が抑制された.しかし, この抑制程度は, ほぼ同数のネコブセンチュウ幼虫を含むいや地土壌を添加した場合に比べてはるかに軽微であった.静止液法による養液栽培で生育中のイチジクに対し, 培養液にいや地土壌の懸濁液を添加すると, 根部へのセンチュウの寄生がなくても新梢や根の生育が著しく抑えられた.この生育抑制は懸濁液をメンブレンフィルターで濾過したり電子レンジで2分間の加熱処理することで消滅した.以上から, 本実験で使用したいや地土壌には, センチュウ以外の強い生育阻害要因が存在すると考えられた.この要因が単一のものかどうか不明だが, 生育阻害が, いや地土壌やその懸濁液を熱処理することによって軽減もしくは消滅したり, メンブレンフィルターによる濾過で消滅することから, この要因は微生物に由来する可能性が高い.
著者
細見 彰洋 三輪 由佳 古川 真 瓦谷 光男
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.159-165, 2012 (Released:2012-04-17)
参考文献数
19
被引用文献数
11 12

日本の主要イチジク品種‘桝井ドーフィン’については,病原菌(Ceratocystis fimbriata)によるイチジク株枯病(以下,株枯病)が深刻である.そこで本病抵抗性が期待される‘Celeste’,‘Boldido Negra’,‘Ischia Black’,‘Negronne’の 4 品種の耐病性を検証し,‘桝井ドーフィン’用の抵抗性台木としての能力を検討した.砂礫 350 mL を培地とする根箱の‘Celeste’苗は,培地への病原菌の接種直後から根の伸長が抑制され,根の呼吸速度は接種 2 ヶ月後には低下し,細根は伸長が停止して病斑を生じた.用土 3.5 L で鉢栽培した 4 品種は,病原菌の土壌かん注 5 ヶ月後の調査で地下部には病斑が確認された.しかし,全個体は生存し,大量の菌を接種しなければ根の呼吸速度は低下せず,‘Celeste’以外では葉重,新梢重および根重の有意な減少はなかった.4 品種を台木とする‘桝井ドーフィン’樹を用土 22 L のコンテナで栽培し,病原菌を接種すると,2 年目には一部の個体が枯死し,全般に接ぎ穂や根の生育が減退する傾向にあったが,‘Negronne’台木には,枯死や有意な生育の低下は認められなかった.4 品種を台木とする‘桝井ドーフィン’樹は株枯病汚染ほ場でも枯死が少なく,定植後 5 年間はその大半が枯死を免れた.この間,穂木‘桝井ドーフィン’の生育に,経年的な明らかな樹勢衰弱はなかった.以上から,4 品種については,株枯病の被害を受けながらも生存を維持する「ほ場抵抗性」が実証され,台木の耐病性は‘Negronne’が最も期待できた.