- 著者
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浅田 晴久
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.52, 2008 (Released:2008-11-14)
1.はじめに
インド東北地方は国内でも最も開発が遅れている地域の1つである。バングラデシュ、ミャンマー、ブータン、チベット(中国)に囲まれたこの地域は多数の少数民族が暮らしており、現在も独自の文化を守り続けている。1980年代以降、政情が不安定であったため外部の研究者が立ち入ることは難しかったが、近年、治安が落ち着いてきたこともあり調査が可能となっている。京都大学東南アジア研究所・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科はアッサム州のゴウハティ大学地理学科と学術協定を締結し、インド東北地方の農業・生態・気象・疫病を対象とした学際的なプロジェクトを開始している。
本研究はインド東北地方の中でも面積・人口ともに最大のアッサム州において、州の主要産業である稲作の動態を明らかにすることである。アッサム州には東西を横切る形でブラマプトラ川が流れており、雨季になると毎年のように洪水が発生し稲作に被害を及ぼす。またヒマラヤ山脈の南縁に位置し、将来の環境変化による影響が危惧される。
2.調査地の概要
調査地として選ばれたR村はアッサム州東部(上アッサム)、ブラマプトラ川の北岸(右岸)に位置する。本村はチベットを源流としヒマラヤ山脈を越えて流れてくるスバンシリ川に近接しており、過去には堤防が決壊して大洪水が起こったこともあった。また、年間降水量は3000mmに達し、6~9月の雨季には降雨のため田に植えられた稲が被害に遭うこともある。
R村の世帯数は約110、人口は約600人になる。住民はタイ系のアホム(タイ=アホム)である。アホムは現在の中国雲南省から移動を開始しミャンマーを抜けて、13世紀にブラマプトラ渓谷に定住したとされている。ヒンドゥー教徒でアッサム語を話す。R村は1910年代から開墾が始まり、現在は開拓世代の子・孫の世代が村の中心となっている。
3.調査方法
発表者は2007年7月 ~ 11月、2008年1月 ~ 7月の期間中、のべ260日間調査村に滞在し現地調査を行った。村びとの家に下宿しながら、質問表を用いた全戸調査、観察、聞き取りを実施した。全戸調査の際には助手として村人に同行してもらい、聞き取りにはアッサム語が使用された。
4.結果
結論から述べると、R村の稲作はよくいえば伝統的な、近代的稲作からかけ離れたものである。村には灌漑設備がないため、雨季の期間しか稲作がおこなわれず、稲刈り後の乾季は牛が田に放牧されている。調査地周辺を見回しても同じような景観が続いていることから、上アッサムには未だにR村のような未開発の村が多く残されていることが推測される。これは乾季作(ボロ稲)・灌漑・機械化など近代技術が進んでいるアッサム州西部(下アッサム)とは対照的である。
村内で栽培されている稲はアフ(3 ~ 6月)、バオ(3 ~ 11月)、ハリ(7 ~ 11月)の3種類である。このうちハリ稲はすべての世帯で栽培されるが、アフ稲は屋敷付近の高位田で、バオ稲は低位田で比較的小規模に栽培されている。
稲の品種を調べたところ、村全体で50種類以上の品種が植えられていることが確認された。各世帯で植える品種数は5種類が最も多く、なかには10種類以上の稲を植える世帯もある。田の比高の差によって品種を植え分ける必要があるほかに、コメの利用法の観点からも品種数が多くなっている。
田の土地所有をみると、各世帯の田は高位田と低位田を含む細長い長方形になっている。低位田は水と肥沃度が高く高収量が見込め、高位田は洪水のリスクが少ない。しかし土地は均等に相続されるため、水田所有の細分化が問題となっている。