著者
中須 晴南 湯川 夏子 中西 洋子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第57回大会・2014例会
巻号頁・発行日
pp.62, 2014 (Released:2015-01-10)

【目的】中学校技術・家庭科の技術分野において、新学習指導要領より「生物育成」が必修となった。「生物育成」の中には、野菜の栽培も含まれる。また、家庭分野の調理実習においては、野菜を使った料理を取り上げることもできる。したがって自分たちで食材を栽培し、調理して食べるという技術科と家庭科の連携の授業ができると考えた。しかし、どの野菜が栽培と調理実習の連携の教材として適しているのか、またどのように連携授業を行えばよいのか明らかではない。そこで本研究では、「生物育成」で栽培する野菜の検討及び連携授業の提案と実践を行い、その教材の教育的効果を検証することを目的とした。【方法】2012年5月~2013年8月に、中学校技術科の教科書に記載されている野菜を中心に、16種類の野菜を栽培し、評価を行った。評価の結果、適していると考えられた野菜の一つである万願寺とうがらしを用いた教材を提案し、授業実践を行った。授業実践は2013年10月に、京都府内のA中学校の第1学年(124名、4クラス)を対象とし、講義と調理実習の授業実践と、授業実践前後にアンケート調査を行った。調査内容は、万願寺とうがらしの知名度や好き嫌い、イメージ等、である。【結果】栽培と調理実習の連携授業を行うにあたっては、「収穫しやすく、かつ一度に多く収穫できる」野菜であり、「50分間という短い時間でも可能な調理実習内容」という課題を解決する必要があることを我々は明らかにした1)。そこで、栽培をした野菜について1.簡単さ、2.面白さ、3.時季、4.関係性、5.調理への応用、という5つの観点から評価した結果、ピーマン、万願寺トウガラシ、シシトウ、ミズナ、コマツナ、ホウレンソウ、ジャガイモがその条件を満たしており、かつ総合的にも栽培と調理実習の連携に適した教材であることが分かった。 これらの野菜の中から、京野菜でもある、万願寺とうがらしを選び、育ち方や旬、京野菜についての講義と、短い時間でもできる「万願寺とうがらしと厚揚げの炒め煮」の調理実習を提案し、授業実践を行った。授業後にアンケート調査を行った結果、万願寺とうがらしに対するイメージの変化や好みの変化が見られ、講義や調理実習を通して生徒の意識を変え、可能性を広げることができた。また、京野菜の一つである万願寺とうがらしの学習をしたことで、他の京野菜にも関心をもつきっかけにもすることができた。本授業の目標は、「万願寺とうがらしについて理解を深め、万願寺とうがらしを使った料理を作ることができる。」であったが、調理実習に意欲的に取り組んでいたことからも授業の目標は達成できたといえる。調理実習は、4クラスとも50分間で片付けまで終わらせることができていたことも含め、「万願寺とうがらしと厚揚げの炒め煮」は教材として適しているといえるだろう。 以上のことから、万願寺とうがらしを用いたこの教材の教育的効果は認められ、栽培と調理実習の連携の授業として有効であるといえる。今後は、栽培と調理実習の連携の授業を推進していくために、「収穫しやすく、かつ一度に多く収穫できる」野菜を用いた、「50分間という短い時間でも可能な調理実習内容」等の調理実習教材を開発することが必要である。また、京都府以外でも実践できる「地域の食文化」の内容と関連づけた、各地域の特産物や郷土料理を用いた教材を開発することも必要であろう。そして、教員自身の意識を高め、「生物育成」と調理実習の連携を推進していきたい。 引用文献1)中須晴南ら;教育実践研究紀要 Vol.14,印刷中(2014)
著者
河村 美穂 山地 瑞紀 松岡 文子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第57回大会・2014例会
巻号頁・発行日
pp.59, 2014 (Released:2015-01-10)

研究目的 家庭科の時間が減少するなかにあって、調理実習では調理技能の習得は難しいと考えられるようになっている。本研究は限られた調理実習でも適切な指導法により確実に包丁を使う技能を習得することを可能するための方策を考えたい。なぜなら包丁を使う技能は生徒にとって料理ができると実感しやすい技能であり、その後の食生活を主体的に営むための基盤となると考えるからである。限られた時間の中で効果的に包丁を使う技能を習得する方法を示すことができれば、その後の生活で有用となるためにどのような学びが必要なのかが明らかになり、調理実習という家庭科固有の授業の意義もより一層明確にできると考えた。 そこで、本研究では中学校の家庭科授業において2回のりんごの皮むき調査を実施し、中学生の技能実態を測定し、技能の習得に関わる要因を探究することを目的とする。具体的には、食生活領域の授業の一環として冬季休業前後に2回の包丁指導(兼調査)を行い冬季休業中の課題も含めて生徒の学びの実態を多面的に検討する。研究方法 公立中学校1年生60名(男子33名女子27名)を対象として、食生活領域の学習に1.包丁の使い方(リンゴの皮むき・技能調査事前)2.冬季休業中の皮むき・料理課題 3.フルーツポンチをつくる実習(含リンゴの皮むき・技能調査事後)を組み込み実施した。技能調査は各班にビデオカメラを固定して授業時間内に録画し、この録画記録をデータとしてA親指の位置、B手の動き、C皮のむき具合についてそれぞれ3段階の評価基準を設けて評価した。さらにこの授業の前後で家事の参加度、料理の頻度、調理技能に対する認知について質問紙調査を行った。本授業の授業記録及び冬季休業中の課題記録からも可能な範囲でデータを収集した。データ収集に際しては、研究目的とともに事前に生徒に説明し了承を得て行った。実施時期は、2013年12月~2014年1月である。結果と考察収集したデータの分析結果のうち次の3点を示す。1包丁技能に対する認知(質問紙調査)得点:調理技能のうち包丁技能の認知得点だけは有意に得点が上がった。2技能評価(録画記録)得点:事前事後で有意な差はなかった。3むいたリンゴの廃棄率:事前事後で有意な差はなかった。  そこで、事後の技能評価得点(9点満点)をもとに日常生活で有用な包丁技能の習得という観点から対象者を4群に分けて習得の実態を詳細に検討した。A群:包丁技能が十分と考えられる群(9点/9点満点)B群:ほぼ大丈夫だがもう少しの群(8~7点/9点満点)C群:不十分な技能である群1(6点/9点満点・前後差無)D群:不十分な技能である群2((6~0点/9点満点・前後差有)以上の群ごとに比較すると廃棄率は事前事後とも大きな変化は見られず、包丁技能に対する認知はD群以外の3群で事後に有意に高い得点を示した。  ここで特徴的なD群は、技能に対する認知得点が事前で高く事後に変化がなかったが、実際には事前から事後へと技能評価得点3項目すべてにおいて有意に低下した生徒により構成されている。この得点の低下、つまり下手になるという状態は録画記録を分析した結果、むく手の親指を刃先にのせず刃をスムーズに動かせないという現象として認められた。  ちょっとやってみて器用にできたと思っても、それが継続的に身についた技能となるためには、自分の技能の状態を正しく認識することがカギとなる。偶然できたことを評価するだけではなくどのようにしてできたのかを科学的に理解するということが大切なのではないだろうか。