- 著者
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河村 美穂
山地 瑞紀
松岡 文子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第57回大会・2014例会
- 巻号頁・発行日
- pp.59, 2014 (Released:2015-01-10)
研究目的 家庭科の時間が減少するなかにあって、調理実習では調理技能の習得は難しいと考えられるようになっている。本研究は限られた調理実習でも適切な指導法により確実に包丁を使う技能を習得することを可能するための方策を考えたい。なぜなら包丁を使う技能は生徒にとって料理ができると実感しやすい技能であり、その後の食生活を主体的に営むための基盤となると考えるからである。限られた時間の中で効果的に包丁を使う技能を習得する方法を示すことができれば、その後の生活で有用となるためにどのような学びが必要なのかが明らかになり、調理実習という家庭科固有の授業の意義もより一層明確にできると考えた。 そこで、本研究では中学校の家庭科授業において2回のりんごの皮むき調査を実施し、中学生の技能実態を測定し、技能の習得に関わる要因を探究することを目的とする。具体的には、食生活領域の授業の一環として冬季休業前後に2回の包丁指導(兼調査)を行い冬季休業中の課題も含めて生徒の学びの実態を多面的に検討する。研究方法 公立中学校1年生60名(男子33名女子27名)を対象として、食生活領域の学習に1.包丁の使い方(リンゴの皮むき・技能調査事前)2.冬季休業中の皮むき・料理課題 3.フルーツポンチをつくる実習(含リンゴの皮むき・技能調査事後)を組み込み実施した。技能調査は各班にビデオカメラを固定して授業時間内に録画し、この録画記録をデータとしてA親指の位置、B手の動き、C皮のむき具合についてそれぞれ3段階の評価基準を設けて評価した。さらにこの授業の前後で家事の参加度、料理の頻度、調理技能に対する認知について質問紙調査を行った。本授業の授業記録及び冬季休業中の課題記録からも可能な範囲でデータを収集した。データ収集に際しては、研究目的とともに事前に生徒に説明し了承を得て行った。実施時期は、2013年12月~2014年1月である。結果と考察収集したデータの分析結果のうち次の3点を示す。1包丁技能に対する認知(質問紙調査)得点:調理技能のうち包丁技能の認知得点だけは有意に得点が上がった。2技能評価(録画記録)得点:事前事後で有意な差はなかった。3むいたリンゴの廃棄率:事前事後で有意な差はなかった。 そこで、事後の技能評価得点(9点満点)をもとに日常生活で有用な包丁技能の習得という観点から対象者を4群に分けて習得の実態を詳細に検討した。A群:包丁技能が十分と考えられる群(9点/9点満点)B群:ほぼ大丈夫だがもう少しの群(8~7点/9点満点)C群:不十分な技能である群1(6点/9点満点・前後差無)D群:不十分な技能である群2((6~0点/9点満点・前後差有)以上の群ごとに比較すると廃棄率は事前事後とも大きな変化は見られず、包丁技能に対する認知はD群以外の3群で事後に有意に高い得点を示した。 ここで特徴的なD群は、技能に対する認知得点が事前で高く事後に変化がなかったが、実際には事前から事後へと技能評価得点3項目すべてにおいて有意に低下した生徒により構成されている。この得点の低下、つまり下手になるという状態は録画記録を分析した結果、むく手の親指を刃先にのせず刃をスムーズに動かせないという現象として認められた。 ちょっとやってみて器用にできたと思っても、それが継続的に身についた技能となるためには、自分の技能の状態を正しく認識することがカギとなる。偶然できたことを評価するだけではなくどのようにしてできたのかを科学的に理解するということが大切なのではないだろうか。