著者
重光 司
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.27, 2006 (Released:2007-03-13)

電気刺激を臨床に応用しようとする研究は、1950年代の保田等による骨の圧電気現象の発見と微小電流による電気刺激が仮骨を形成させるという報告に端を発しており、電気を用いた治療が整形外科における一手段として定着するようになってきた。一方、1979年に疫学研究により磁界曝露と小児白血病の発症との間に関連性があることが報告された。このような経緯から電磁気現象の生体に及ぼす影響が有益および有害の両面から注目された。近年は、低周波電磁場を中心とした変動磁場ならびに直流磁界の安全性に社会的な関心が集まり、一方では磁場の有効利用の立場から医学への応用についての研究がなされるようになってきた。電磁場の安全性については、問題の発端に関連する発がん実験を始めとして、生殖・発育、行動・感知、神経内分泌等に対する影響を明らかにするため、マウス、ラット、ハムスター、ヒヒならびヒツジなどの動物を用いた研究が行われている。ヒトを対象にした疫学研究や直接曝露実験も行われてきた。動物実験からは安全性、ヒトの健康に有害な影響を及ぼす結果は得られていないが、国際がん研究機関(IARC)は、疫学研究に着目して、「低周波磁場はヒトに対して発がん性を持つ可能性がある(グループ2B)」と結論付けた。一方、低周波電場、直流電磁場については発がんとの関連性はないとされた。 臨床応用としての電気刺激は、低周波領域の電磁場が使われており骨の治癒に対する多くの報告がなされており、骨組織以外の治癒促進を狙った電磁場の応用についても基礎的な研究が行われている。しかし、明確な作用メカニズムは確立されていない。電磁場に関する研究は、安全性および医療への応用を意図した両面からの研究がさらに進められることが期待される分野である。
著者
槌田 謙 久木原 博 柳原 啓見 小松 賢志
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.158, 2006 (Released:2007-03-13)

DNA鎖間架橋 (Interstrand cross-links : ICLs)はDNA二本鎖がDNA架橋剤によって架橋された構造のDNA損傷であり,転写,複製,組み換えを阻害する。我々は真核生物のICL修復機構の解明を目的にICLの高感度定量法(Psoralen-PEO-biotin excision assay: PPBE法)を開発し,様々なDNA修復遺伝子欠損細胞でのICL除去速度を測定した。正常細胞は細胞当たり2500個のICLを24, 48時間後でそれぞれ77, 93%除去した。この除去反応はDNA複製の阻害によって低下することからICL修復はDNA複製時に行われることが示唆された。DNA架橋剤感受性を示すファンコニ貧血細胞であるFA-G,-A相補性群細胞では正常細胞と比べICL除去速度に有意な低下が見られた。一方,FA-D2相補性群細胞ではICL除去速度は正常細胞とほぼ同じであったことからFA-D2タンパク質はICL除去には関与しないことが示された。相同組換え(HR)関連遺伝子欠損細胞はDNA架橋剤感受性を示すがICL除去速度は正常であったことからHRはICL除去後の修復に関わることが示唆された。さらに損傷乗り越えDNA合成(TLS)に関与するREV3の欠損細胞ではICL除去速度が低下することからTLSがICL除去に関与することが示唆された。
著者
渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2006 (Released:2007-03-13)

放射線による細胞がん化の第一標的は、DNAであると信じられてきた。しかし、そのことを直接的に証明する結果はない。我々は、これまでシリアンハムスター(SHE)細胞を用いた細胞がん化実験系を用いて放射線による細胞がん化誘導機構を追跡し、グレイあたりの細胞がん化頻度が平均的な体細胞突然変異頻度の500~1,000倍高いことを報告してきた。このことは、細胞がん化が複数の突然変異の集積で生ずるという“多段階突然変異説”と矛盾するものである。 我々は、この矛盾を解決するためにSHE細胞を用いて細胞がん化に関連する細胞内標的を探索したが、その結果、高密度培養や放射線被ばくによって細胞内酸化度が昂進し、それに伴ってセントロメアあるいはセントロゾームの構造異常を生じることがわかった。それらの細胞集団では、染色体構造異常は起こらないが染色体異数化が高頻度に見られる。 これらの結果は、放射線による細胞がん化の主たる標的はDNAではなく、セントロメアあるいはセントロゾームなどの染色体安定性維持機構を構成するタンパク質である可能性を示唆している。
著者
西村 義一 武田 志乃 金 煕善
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.301, 2006 (Released:2007-03-13)

【目的】ラクトフェリン(LF)は「牛乳の赤いタンパク質」として、スウェーデンで発見され、ヒトを含む哺乳類の乳、分泌液、成熟好中球の顆粒などに含まれる分子量約8万のタンパク質で、2~3個のシアル酸からなる糖鎖を持っている。LFは血液中の鉄蛋白であるトランスフェリンと同様、Fe3+を二個分子内にキレートする性質がある。先の学会で LF添加飼料で飼育したマウスにX線を全身すると照射後30日目の生存率はLF給餌群で85%、対象群で62%とLF給餌群で放射線抵抗性が観察された。またLFはヒドキシラジカルに対するラジカルスカベンジャーであり、放射線防護剤としての利用が期待できることを示した。一方、放射線照射後、腹腔内投与することで放射線防護効果のある物質が報告されているが、そのメカニズム等、詳細については明らかにされていない。今回はマウスX線全身照射後のLFの放射線防護効果に関する実験を行い、興味深い知見が得られたので報告する。【方法】8週齢のC3H/Heマウス、52匹に6.8Gy のX線を全身照射した後、半数のマウスにはLF4mg/匹を腹腔内投与した。投与後、マウスには完全精製飼料を与え、30日間の生存率を観察した。また、脾臓細胞のアポトーシスなどについても観察を行った。【結果】C3H/Heマウスに6.8Gy全身照射後、LFを腹腔内投与すると、LF投与群ではほとんど死亡せず、照射後30日目の生存率は92%であったのに対し、対照群では50%であった。また、マウスにX線を全身照射後、1, 2 ,4 hr後にLF腹腔内投与すると、脾臓細胞のアポトーシスと骨髄細胞の損傷を抑制した。一方、腹腔内マクロファージュについては有意な変化は認められなかった。
著者
藤波 直人 古賀 妙子 森嶋 彌重 早田 勇 中村 清一 菅原 努 ZAKERI Farideh
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.115, 2006 (Released:2007-03-13)

低線量放射線の健康影響調査の一環として、ラムサール高自然放射線地域住民の外部被ばく線量調査を行った。2005年に2回、高自然放射線地域(Talesh Mahalleh)の住民15名と対照地域(Katalom)の住民10名に電子式個人線量計を1日間携帯してもらい、その間の積算線量を調べた。また、NaI(Tl)サーベイメータを用いて屋内外の線量率を測定し、居住係数を用いて積算線量を推定し、実測値との比較・検討を行った。さらに、同じ住民にOSLバッジを約1箇月間携帯してもらい、その間の積算線量を調べた。 2回行った電子式個人線量計から得られた線量には良好な相関が認められ、これらの実測値と屋内外の線量率からの推定値の間にも良い相関が認められた。したがって、電子式線量計によって得られた1日間の積算線量は妥当であると考えられる。 しかし、OSL線量計バッジによる1箇月間の測定から得られた線量には、電子式個人線量計から得られた線量や、屋内外の線量率から推定した線量とは大きく異なる値が認められた。これは、線量計を長期間常に身に付けるのは非常に煩わしく、着替え・脱衣等の際に外され、部屋の片隅に置かれたままになったことが原因と考えられる。Ramsarの高自然放射線地域では、自然放射性核種濃度の高い建材が住居のどの部分に使用されているかで、屋内の線量率は不規則に大きく変化するため、線量計が置かれてしまった場所によって、結果が大きく変動することになる。 したがって、屋内外の線量率の測定と行動パターンの聴き取り調査による推定値で確認を行えば、感度の良い電子式線量計による1日間程度の測定を季節毎に複数回実施する方が、長期間の測定を行うよりも信頼できる個人線量が得られる可能性がある。