著者
天本 宇紀 豊岡 達士 山田 丸 柳場 由絵 王 瑞生 甲田 茂樹
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.125-133, 2023-05-20 (Released:2023-05-25)
参考文献数
25

目的:職業性疾病であるけい肺の原因物質とされる結晶質シリカは,粒径や表面特性等の粒子特性が異なる多種多様な製品(粒子)が製造されている.我が国において,これらの製品は,2018年の労働安全衛生法施行令の一部改正につき,表示・通知義務対象物質である結晶質シリカとして一律に管理されるようになったが,粒子特性によってその毒性が変化することが報告されており,事業者は,シリカ粒子ばく露による予期せぬ健康障害を防止するためにも,製品ごとに適切なリスクアセスメントを実施することが望まれる.本研究では,シリカ粒子による炎症反応のきっかけになると考えられているリソソーム膜損傷を赤血球膜損傷に見立て,炎症誘発性を有する可能性があるシリカ粒子のスクリーニングの指標としての赤血球溶血性の利用可能性を検証することを目的とした.方法:粒径,結晶度,表面官能基の異なるシリカ粒子について,健常者ボランティア男性の血液から単離した赤血球を用いて溶血性試験を行った.また,シリカ粒子と他元素粒子間における溶血性の比較や,市販の結晶質シリカ粒子製品27種類において試験的なスクリーニングを試みた.結果:シリカ粒子の溶血性は,非晶質よりも結晶質の方が高く,粒径が小さいほど上昇した.他元素の粒子はほとんど溶血性を示さず,シリカ粒子の表面に金属イオンが吸着すると溶血性が抑制された.産業現場で使用されている結晶質シリカの製品群では,製品間で溶血性が大きく異なった.考察と結論:本研究は,粒径,結晶度,表面官能基といった粒子特性が,シリカ粒子の溶血性に影響を及ぼすことを明らかにした.中でも特に,シリカ粒子特有の表面官能基(シラノール基)が溶血性に強く関与しているであろうと考えられた.また,産業現場の製品群においても,溶血率を基準にしたグレード分けが可能であり,溶血性は,炎症誘発性を有する可能性があるシリカ粒子のスクリーニングにおける評価指標の一つになりうることが示唆された.
著者
柳場 由絵 豊岡 達士 王 瑞生 甲田 茂樹
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-116, 2020 (Released:2020-09-09)

【背景・目的】国内の化学工場において膀胱がんの発症が多数報告された事例では、芳香族アミン類が主に皮膚経路で吸収され、がんを誘発したと疑われている。現場で生じた膀胱がん症例の一部は、オルト-クロロアニリン(OCA)のばく露歴もあり、またインビトロ実験でこの物質は強い遺伝毒性が観察された。しかし、OCAについては、その経皮吸収に関する報告や定量的情報はなく、体内に入った後どの臓器に分布するかは不明である。そこで本研究では、ラットを用いて、OCA 経皮投与後のOCAの全身への分布・動態等について検討した。【方法】雄性Crl:CD(SD)ラット(7週齢)を用い、イソフルラン麻酔下で背部を剪毛、毛剃毛し、[14C]OCA経皮投与液を50mg/748kBq/4ml/kgの用量で塗布したリント布を用いて、8時間、24時間経皮投与した。投与終了後、リント布を剥離し、イソフルラン吸入麻酔下、炭酸ガスの過剰吸入により安楽死させ、全身オートラジオルミノグラムを作成した。投与後代謝ケージに収容し、採尿区間は投与開始後0~4時間、4~8時間、8~24時間の3時点とした。【結果・考察】投与後8時間、24時間の膀胱に放射活性が高く、投与したOCAのほとんどが膀胱へ移行していることが観察された。一方、肝臓や腎臓などの臓器への分布はほとんど観察されなかった。尿中排泄率からも投与後8~24時間の間で投与したOCA濃度の86%が排泄されており、これらの結果から、OCAは投与後、速やかに経皮吸収され、膀胱等に高濃度で移行する。また、24時間以内に投与濃度の大部分が尿中へと排泄され、肝臓や腎臓への蓄積が少ない物質であることが示唆される。