- 著者
-
斎藤 芳郎
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.S4-5, 2020 (Released:2020-09-09)
必須微量元素であるセレンは反応性が高く、強い毒性を持つ元素であるが、生体はセレンの特性を巧みに取り込み、生体防御に利用している。セレンはセレノシステイン(Sec:システインの硫黄がセレンに置換したアミノ酸)の形で主にタンパク質中に含まれ、過酸化物を還元・無毒化するグルタチオンペルオキシダーゼやレドックス制御因子チオレドキシン還元酵素の活性部位を形成する。セレンは、これらの抗酸化酵素の生合成に必須であり、生体の酸化ストレス防御において要となる栄養素である。しかし、近年セレンの代謝異常が糖尿病など生活習慣病に深く関与することが明らかとなった。高血糖・高脂肪により誘導された血漿セレン含有タンパク質セレノプロテインP(SeP)が、インスリン抵抗性やインスリン分泌を悪化し、糖尿病の発症進展に“悪玉”として作用することが明らかとなっている。 食品中に含まれるセレンは消化された後、消化管から吸収され、セレン含有タンパク質の合成経路に入るが、その代謝経路はセレンの形態によって異なる。Secは生体により“セレン”と認識され、Secリアーゼにより分解されて生じた無機セレンがSec合成系に入る。一方、体内に吸収されたセレノメチオニン(SeMet:メチオニンの硫黄がセレンに置き換わったアミノ酸)は生体内でセレン・硫黄の区別されずに代謝され、一部はタンパク質中にも取り込まれる。本発表では、セレンと硫黄代謝の接点、特に各元素を含むアミノ酸の代謝経路および生体内における各元素の識別機構について概説する。さらにセレンと硫黄代謝のクロストーク、特に親電子性物質に対する生体応答・解毒作用について議論する。