著者
西川 典子 内田 千枝子 波田野 琢 服部 信孝
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第43回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-C-P-044, 2022 (Released:2022-12-26)

【目的】パーキンソン病(PD)における不安症状は頻度が高く、しばしばQOLの低下や治療薬の忍容性の低下につながる。不安症状に対する治療は抗うつ薬などが推奨されているが、患者は服薬量が増えることを懸念することが多い。対面式の認知行動療法(CBT)はPDのうつ症状治療として有用であることが報告されている。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行発生と研究時期が重なったため、来院せずに自宅で受講可能なオンラインCBTに変更した。オンラインCBTは、うつ病、痛み、糖尿病の治療として、対面式CBTに劣らない有効性が示されている。そこで私たちは、パーキンソン病(PD)の不安に対するオンライン少人数グループCBTの実施可能性および有効性を検討した。【方法】本研究では、不安を有するPD患者を対象として、熟練した臨床心理士により、構造化されたCBTプログラムを8セッション実施した。CBTはZOOMを使用してオンライン方式で行われ、少人数グループは臨床心理士1名とPD患者4名で構成した。同意取得してスクリーニングの後、無作為に実施群と待機後実施群に分け、二群間でCBTによる不安症状軽減を評価して比較した。主要評価項目はHAM-A(ハミルトン不安尺度)の改善度、副次評価項目はHAM-D(ハミルトンうつ尺度)、GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)、PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)、PDQ39(Parkinson's Disease Questionnaire-39:生活の質の指標)の改善度とした。臨床試験登録システム(UMIN000044247)に登録後、順天堂大学医学部研究倫理委員会の承認(H20-0080)を得て、本研究を開始した。【結果・考察】不安症状を有するPD患者32名が登録し、そのうち28名が研究を完遂した。研究脱落者4名の内訳は、1名が自己都合による中止、2名が待機期間中の抑うつ症状の悪化による中止、1名が併存疾患の手術による中止であった。群間比較試験では、CBT群と待機群との間でHAM-Aの改善度に有意差はなかった。CBT介入前後で比較すると、HAM-Aの改善度に差はなかったが、HAM-DとPDQ-39は有意に改善した。【結論】少人数のオンラインCBTは、PDの不安は改善しなかったが、うつ病とQOLを有意に改善した。
著者
野崎 千尋 アンドレアス ジマー 柴田 重信
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第43回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.3-C-S31-2, 2022 (Released:2022-12-26)

カンナビノイドが、今、熱い。その「大麻(カンナビス)」という言葉の響きもあってか、あるいは大麻が持つという様々な難治性疾患への治療効果を期待するからか、現在世界中で大麻由来成分=カンナビノイドを使った様々な製品が爆発的に流行している。現在のところ、他の医薬品などと比べて「確実にカンナビノイドの方が優れている」という科学的根拠はほぼ無いにも関わらず、である。とはいえ確かにある種の疾病の病態を改善し、QOLを上げるということは、例えば患者自身の経験として世に語られていたりする。彼らは一様に「エンドカンナビノイドシステムが鍵だ」というが、さて、一方でエンドカンナビノイドシステムがどこまで理解されているかは、また別の話であろう。エンドカンナビノイドシステム、日本語では一般的に内因性カンナビノイド系と呼ばれて来たシグナル伝達系は、大麻の活性成分が特異的に結合する2つのGタンパク質(Gi/o)共役型受容体CB1とCB2受容体と、これらの受容体の各々に対応する内因性リガンド、そしてこれらリガンド軍の生成酵素や分解酵素などから構築されている。長年CB1は脳や中枢神経系に、CB2は末梢の免疫系細胞に発現していると考えられて来たが、実際のところどちらの受容体も、ある程度の偏りはあるものの、全身に極めて広範に分布しており、それぞれの発現箇所で代謝系・神経系・免疫系など実に様々な生理機能を調節していることが、最近の研究で解って来た。さてここで1つお伺いしたい。これだけあちこちに広範に発現し、様々な生理機能の制御・調節を担うカンナビノイド受容体だが、ではこれらの受容体が無くなってしまったら、我々の身体は一体どうなってしまうのだろうか。つまり内因性カンナビノイド系が無いと、我々の身体には何がおきるのだろうか。我々はこの普遍的な問いに答えるべく、受容体を欠損させた遺伝子改変動物を用いて様々な検討を行ってきた。本講演ではその中でもCB1受容体の欠損が「加齢」や「肥満」に及ぼす影響、またCB2受容体の欠損が「感染症」や「慢性疼痛」にどのような影響を及ぼすかを、我々の最近の知見も併せて紹介する。