著者
柴田 重信 古谷 彰子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.1, pp.34-40, 2018 (Released:2018-01-10)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

哺乳類において1997年に初めて体内時計遺伝子Clock,Periodが見出され,体内時計の分子基盤を追及する研究が盛んに行われ続けている.全ての生物のリズム現象を調べる学問として「時間生物学」が生まれるとともに,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わることから「時間薬理学」という学問領域が台頭してきた.薬と同様に,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性があるため,「薬」を「食品・栄養」に置き換え,体内時計との関係を研究する「時間栄養学」の領域が確立されている.ヒトを含む動物では,体内時計を24時間に合わせるために外界の光刺激に合わせて体内時計を同調させるリセット機構をもつ.最近の研究において,繰り返しの給餌刺激で形成される末梢臓器の体内時計のリセット効果は,光刺激による視交叉上核を介さないことも明らかになってきており,時間栄養学の研究の発展は著しい.肝臓の体内時計の位相変動作用は食餌内容の血糖上昇指数が高く,インシュリンを分泌しやすいほどリセットしやすいことがわかっている.一方,近年様々な疾患予防の観点から脂質の摂取が見直されている.その中でもn-3系脂肪酸は抗肥満をはじめとする様々な疾患に関わり,体内時計が関与する疾患との相関がみられている.筆者らはn-3系脂肪酸を豊富に含む魚油が,肝臓時計に位相変動作用を引き起こすことを明らかにした.魚油は大腸でGPR120レセプターを介するGLP-1分泌を通してグルコース濃度が上昇,さらにインシュリン分泌を強化することで体内時計の同調機構が確立することもわかっている.また,飽和脂肪酸で見られた体内時計の乱れや肥満に関わる炎症反応がDHAで予防されるほか,魚油の摂取時刻違いにより血中EPA・DHA濃度が変わるなどの知見も明らかとなり,今後さらなる発展が期待されている.
著者
柴田 重信
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.30-34, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
6
被引用文献数
1

まず呼吸ケアリハビリテーションと体内時計の関連性があるか否かについて考えてみよう.時計遺伝子は呼吸器にも発現していることから,呼吸機能に日内リズムが見られることになる.実際,安静時の呼吸数には日内リズムが存在し,気管支喘息の発症は明け方に多いという日内リズムがあり,時差ボケの状態では喘息発作が悪化することが知られている.したがって,健全な生活リズムの維持の下で呼吸ケアリハビリテーションを行うことが重要であろう.ところで体内時計は視交叉上核に主時計があり,それ以外の脳には脳時計が,末梢臓器である肺,肝臓,骨格筋・骨には末梢時計がある.体内時計と運動(時間運動学)や体内時計と食・栄養(時間栄養学)の関係について知り,これらの学問が作業療法などを含む呼吸ケアリハビリテーションの実施に如何に役立てるかについて考えることにする.以下に時間栄養や時間運動に関する総説1,2,3,4,5)や著書6)を挙げておく.
著者
野崎 千尋 アンドレアス ジマー 柴田 重信
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第43回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.3-C-S31-2, 2022 (Released:2022-12-26)

カンナビノイドが、今、熱い。その「大麻(カンナビス)」という言葉の響きもあってか、あるいは大麻が持つという様々な難治性疾患への治療効果を期待するからか、現在世界中で大麻由来成分=カンナビノイドを使った様々な製品が爆発的に流行している。現在のところ、他の医薬品などと比べて「確実にカンナビノイドの方が優れている」という科学的根拠はほぼ無いにも関わらず、である。とはいえ確かにある種の疾病の病態を改善し、QOLを上げるということは、例えば患者自身の経験として世に語られていたりする。彼らは一様に「エンドカンナビノイドシステムが鍵だ」というが、さて、一方でエンドカンナビノイドシステムがどこまで理解されているかは、また別の話であろう。エンドカンナビノイドシステム、日本語では一般的に内因性カンナビノイド系と呼ばれて来たシグナル伝達系は、大麻の活性成分が特異的に結合する2つのGタンパク質(Gi/o)共役型受容体CB1とCB2受容体と、これらの受容体の各々に対応する内因性リガンド、そしてこれらリガンド軍の生成酵素や分解酵素などから構築されている。長年CB1は脳や中枢神経系に、CB2は末梢の免疫系細胞に発現していると考えられて来たが、実際のところどちらの受容体も、ある程度の偏りはあるものの、全身に極めて広範に分布しており、それぞれの発現箇所で代謝系・神経系・免疫系など実に様々な生理機能を調節していることが、最近の研究で解って来た。さてここで1つお伺いしたい。これだけあちこちに広範に発現し、様々な生理機能の制御・調節を担うカンナビノイド受容体だが、ではこれらの受容体が無くなってしまったら、我々の身体は一体どうなってしまうのだろうか。つまり内因性カンナビノイド系が無いと、我々の身体には何がおきるのだろうか。我々はこの普遍的な問いに答えるべく、受容体を欠損させた遺伝子改変動物を用いて様々な検討を行ってきた。本講演ではその中でもCB1受容体の欠損が「加齢」や「肥満」に及ぼす影響、またCB2受容体の欠損が「感染症」や「慢性疼痛」にどのような影響を及ぼすかを、我々の最近の知見も併せて紹介する。
著者
柴田 重信 池田 祐子
出版者
日本脂質栄養学会
雑誌
脂質栄養学 (ISSN:13434594)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.53-60, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
29
被引用文献数
2

In mammals, the circadian clock system regulates many physiological functions such as feeding, sleep-wake behavior, hormones and metabolism. Regular feeding pattern can entrain peripheral circadian clock system, whereas circadian clock can control absorption/ metabolism of food and nutrition. Thus, the interaction between food/nutrition and circadian clock is so-called as “chrono-nutrition”. For example, a bigger meal for breakfast is effective for protection from obesity, and also for entrainment of peripheral circadian clock. Intake of high fat diet disturbed the circadian clock and this clock disturbance potentiates the obesity. Circadian clock system exists in the white adipose tissue, and clock gene such as Bmal1 controls the differentiation of adipose cells and accumulation of fat in the cells. We demonstrated that fish oil, especially tuna oil, containing rich DHA/EPA increased insulin secretion and entrained peripheral circadian clock. Talking about nutrition including lipids, the idea of “chrono-nutrition” may become important and provide new aspects of the form of nutrition action.
著者
柴田 重信
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

我々の体内時計は24時間よりずれており24時間に合わせる機構として同調がある。同調刺激には光と食事が重要であることが分かっている。そこで、マウスを用い、朝・昼・夕食のいずれが、同調刺激として有効であるか、また、食事の内容によって同調刺激に差が見られるか否かについてマウスを用いて調べた。その結果、長い絶食の後の食餌(ブレイクファスト)が、血糖値を上げ、インスリン分泌を引き起こしやすい食事内容が体内時計を同調させやすかった。

1 0 0 0 OA 時間栄養学

著者
金 鉉基 柴田 重信
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.401-411, 2020-10-01 (Released:2020-09-16)
参考文献数
83

In mammals, the circadian rhythms have been shown to regulate several physiological functions, including body temperature, sleep-wake behavior, physical activity, hormonal secretions, and metabolism. These processes are controlled by circadian clock genes, and abnormal circadian rhythms are associated with the development of obesity, diabetes, and lifestyle-related diseases. In addition, the timing of behaviors such as food intake, exercise, and stress influence circadian rhythms, including clock gene expression in peripheral tissues. Therefore, the interaction between nutrition and the circadian clock is so-called “chrono-nutrition” is poised to become an important research field of chronobiology. In this review, we review the effects of a timed-nutrition on circadian clocks and their timing-dependent effects on physiological functions.
著者
柴田 重信
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.45-49, 1998-01-01 (Released:2018-08-26)
参考文献数
8

1 0 0 0 OA 時間栄養学

著者
柴田 重信
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.641-646, 2012-09-01 (Released:2013-09-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1
著者
平尾 彰子 柴田 重信
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 = Microscopy (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.83-86, 2012-06-30
参考文献数
12

<p>我々の体内に存在する体内時計は約24時間の周期で毎日時を刻んでおり,体内時計は疾病の発症リズムや投薬治療に影響を与える.体内時計と薬の関係を調べる時間薬理学と同様に,体内時計と栄養・食の関係を調べる"時間栄養学"の重要性について解説した.栄養物の吸収・消化・代謝に関わる酵素のほとんどは体内時計の支配下にあるので,食事のタイミングで肥満が予防できうる.一方,規則正しい食餌のタイミングがマウスの時遺伝子発現リズムをリセットできた.食事の間隔では長い絶食後の給餌でインスリン上昇に伴って体内時計の食餌性のリセットが起こることを見出した.また,食事内容では消化しやすいデンプンの重要性を見出した.現代人の抱える病気の多くが,食事療法を必要としているのが現状であるため,我々はより,臨床応用が可能なモデルマウス作りを目指している.体内時計にやさしい食事パターンが健康維持,改善に役立つと考えている.</p>
著者
柴田 重信 平尾 彰子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.110-114, 2011-03-01
参考文献数
14
被引用文献数
1

哺乳類の体内時計遺伝子<I>Clock</I>,<I>Per1</I>が発見されて以来,体内時計の発振,同調,出力の分子機構が明らかになってきた.時計遺伝子発現は生体の至る所で見られ,視交差上核を主時計,視交差上核以外の脳に発現する時計を脳時計とよび,肝臓や肺,消化器官などに発現する時計を末梢時計と呼ぶようになった.これらの事実は,生体の働きに時間情報が深く関わっている可能性を強く示唆するものである.種々の疾病の症状には日内リズムが見られ,たとえば喘息の症状は朝方悪化しやすく,虚血性心疾患は早朝から午前中にかけて起こりやすいことも知られている.また,コレステロールの合成酵素のHMG-CoA reductaseの活性は夜間に高まることから,スタチン系の薬物は夕方処方が推奨されている.このように,疾病治療における薬の作用を効果的にするために,発症時刻に合わせて,薬を与えるというような治療法が考案されてきた.いわゆる時間薬理学という学問領域である.一方で,最近時間栄養学の研究領域が台頭してきた.食物や栄養などの吸収や働きを考えると,栄養の摂取時刻により,栄養の働きが異なる可能性が考えられる.実際,同じ食物でも夜間に食べると太りやすいと言われており,これはエネルギー代謝に日内リズムがあることに起因する.また,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わるように,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性がある.体内時計の同調刺激に規則正しい食生活リズムが重要であることが指摘されて以来,同調刺激になりやすい機能性食品の開発が試みられている.このことは,たとえばメタボリックシンドロームの治療や予防に,時間薬理と時間栄養の両学問の知識や研究成果の集約が,効果的である可能性を示唆する.
著者
田原 優 平尾 彰子 坪井 琢磨 田中 麻貴 吉田 晶子 柴田 重信
出版者
日本生理学会
雑誌
日本生理学会大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.90, 2008

Glycine is now used as a chemical for promotion of sleep in humans. It has been demonstrated that glycine administration up to 2g/kg causes the increase of NREM sleep in sleep disturbed rat and hypothermia (0.6 C decrease) in rat. The administration of benzodiazepine not only caused the sleep but affected the circadian rhythm; it blocked the light-induced phase advance of activity rhythm and elevation of Per1 gene expression in the suprachiasmatic nucleus (SCN) in hamsters. In the present experiment, we examined the possibility whether glycine affect light-induced phase shift and c-fos expression in the SCN and retina of mice. Glycine dose-dependently decreased the body temperature of mice (1C decrease with 2 g/kg). After extended light exposure for 2 hrs in the night under LD cycle mouse was kept under constant dark condition. Glycine (0.5-2 g/kg) pretreatment before light exposure dose-dependently attenuated light-induced phase delay. Glycine (2g/kg) pretreatment slightly attenuated light-induced increase of Fos immunoreactivity in the mouse SCN. Further experiment should elucidate whether glycine administration itself causes the phase shift or not. The present results suggest that high dose of glycine may attenuate the light-induced phase shift of circadian clock. <b>[J Physiol Sci. 2008;58 Suppl:S90]</b>
著者
平尾 彰子 田原 優 井筒 裕之 本間 さと 本間 研一 柴田 重信
出版者
日本生理学会
雑誌
日本生理学会大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.198, 2008

Daily restricted feeding (RF) with fixed time during daytime causes an advance of circadian rhythm of mouse liver clock gene expression. However, the mechanism of entrainment signal is poorly understood. Here, we examine whether daily administration of various type of nutrition caused entrainment of liver clock gene expression rhythm using Bmal1-luciferase transgenic mouse. Circadian rhythm change of liver bioluminescence was recorded through Lumicycle after 1-6 days of administration of various nutrients. We administered the corn carbon dehydrate, egg albumin or soybean oil after adjustment of each calorie. Among these nutrients soybean oil has most strong effect on phase-shift of gene expression rhythm. Administration of glucose through oral or intraperitoneal caused the phase advance, however the value of change was small. Thus, slow supply of calorie may be important to cause phase shift. We still examine the other nutrients such as amino acids, dextrin and sugar. We also try to find the effect of combination of nutrients on phase-shift of liver clock. <b>[J Physiol Sci. 2008;58 Suppl:S198]</b>
著者
柴田 重信
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

体内時計のリズム性の現象として本研究課題では、週に焦点を当てた研究を展開した。ヒトでは、weekday(平日) とweekend(週末)の過ごし方が異なり、平日は学校・仕事で無理に早起きし、 週末は遅寝・遅起きとなり、週の中で社会的時差ボケ状態になっている。社会的時差ボケマウスでは土日で末梢時計遺伝子発現・エネルギー代謝リズムが大きく後退し、次の金曜日までに戻らないことが分かった。ヒトの髭毛包細胞のPer3発現リズムの評価でも、社会的時差ボケの夜型は、月曜と金曜で遺伝子発現プロファイルが大きく異なった。社会的時差ボケによる時計の乱れが肥満や精神機能に影響を与える可能性が示唆された。
著者
今村 孝史 野田 敦子 柴田 重信 渡辺 繁紀 野田 浩司 小野 容子 後藤 茂 井上 善文
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.113, no.5, pp.400-405, 1993-05-25

A series of pentanthrene type heterocyclic compounds were synthesized and evaluated for anxiolytic activities by three kinds of behavioral pharmacological tests. Several compounds showed anxiolytic activities. In particular, s-triazolo [3,4-a] phthalazine (Tri-P) and 3-propyl derivatives of Tri-P (PTP) showed remarkable activities, although the activities were slightly lower than those of diazepam. The results suggested that Tri-P or PTP is a useful lead compound for the development of the antianxietic agents. The relationship between the structure and anxiolytic activity, and the inducing mechanism of the activity was discussed.
著者
柴田 重信 平尾 彰子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.110-114, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

哺乳類の体内時計遺伝子Clock,Per1が発見されて以来,体内時計の発振,同調,出力の分子機構が明らかになってきた.時計遺伝子発現は生体の至る所で見られ,視交差上核を主時計,視交差上核以外の脳に発現する時計を脳時計とよび,肝臓や肺,消化器官などに発現する時計を末梢時計と呼ぶようになった.これらの事実は,生体の働きに時間情報が深く関わっている可能性を強く示唆するものである.種々の疾病の症状には日内リズムが見られ,たとえば喘息の症状は朝方悪化しやすく,虚血性心疾患は早朝から午前中にかけて起こりやすいことも知られている.また,コレステロールの合成酵素のHMG-CoA reductaseの活性は夜間に高まることから,スタチン系の薬物は夕方処方が推奨されている.このように,疾病治療における薬の作用を効果的にするために,発症時刻に合わせて,薬を与えるというような治療法が考案されてきた.いわゆる時間薬理学という学問領域である.一方で,最近時間栄養学の研究領域が台頭してきた.食物や栄養などの吸収や働きを考えると,栄養の摂取時刻により,栄養の働きが異なる可能性が考えられる.実際,同じ食物でも夜間に食べると太りやすいと言われており,これはエネルギー代謝に日内リズムがあることに起因する.また,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わるように,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性がある.体内時計の同調刺激に規則正しい食生活リズムが重要であることが指摘されて以来,同調刺激になりやすい機能性食品の開発が試みられている.このことは,たとえばメタボリックシンドロームの治療や予防に,時間薬理と時間栄養の両学問の知識や研究成果の集約が,効果的である可能性を示唆する.
著者
柴田 重信 堀川 和政 工藤 崇
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

スケルトン同調のメカニズムを明らかにする目的で、本年度は薬物の噴霧装置や給餌装置を利用して、Bmall-lucのレポーターのトランスゼニックマウスに対してまず、デキサメサゾンの15分間の噴霧吸入および給餌を朝夕の12時間おき(12:12)にした。これらの対照実験としては、光照射を15分間、朝夕12時間おき(12:12)にした。これらの処置を7日間行い、Bmall-lucのレポーター発現リズムの振幅と位相を肝臓、肺で調べた。明暗環境を逆転、新しい明暗環境に慣れるのに最低7日間を有することから、上記の条件飼育を7日間とした。本実験から、視交叉上核を介した末梢時計の同調の様式と末梢時計が直接同調されたときの様式が同じか、否かがわかる。まず朝夕に刺激をおこなうスケルトン同調を行った動物ではいずれの場合でも、肝臓・肺での生物発光リズムのピークは一つであった。さらに、デキサメサゾンでは肝臓より肺に対して強力な作用をもたらす可能性が示唆された。また、餌を朝夕に与えるというスケジュールは、自由に餌をとれるというスケジュールに比較して、位相が前進する傾向が認められた。餌の同調刺激は光のそれより強力であることがわかった。また1日2回の給餌により、夜間の最初の給餌がより強力な同調因子となるために、位相が前進したものと思われる。以上の結果、(1)スケルトン同調でも末梢臓器の時計発現は一峰性である。(2)デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイドや給餌の同調刺激は強力である。(3)スケルトン刺激でも十分同調が可能であるので、人の体内時計の位相維持のためにも、朝夕の同調刺激を受けるようにすることを強く示唆した。