著者
栗原 久
出版者
東京福祉大学・大学院
雑誌
東京福祉大学・大学院紀要 (ISSN:18837565)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-13, 2017-10-25

コーヒー/カフェイン摂取と神経変性疾患との関連について総括した。複数の疫学研究によって、中程度のコーヒー/カフェイン摂取を生涯にわたって続けている高齢者では、年齢に応じた生理的な認知機能低下が軽微であり、特に、80歳以上の女性において顕著であることが示されている。それらの研究では、生涯のコーヒー摂取量とアルツハイマー病の発症リスクとの間には逆相関関係(摂取量が多いほど発症リスクが低い)がみられるという好ましい効果を指摘している報告が少なくないものの、結果については相違点が大きく、しかも大規模コホートを対象とした前向き調査が行われていないので、確実という結論には至っていない。パーキンソン病に関しても、発症リスクとコーヒー摂取量との逆相関関係を示す疫学調査がある。その関係には用量-効果相関性があり、効果の信頼性を高めている。動物実験でも、コーヒー中のカフェインがパーキンソン病の予防に有効性の高い成分であると示唆されている。さらに、コーヒー摂取による神経保護作用の機序について明確になっているわけではないが、コーヒー摂取が脳卒中リスクを低減する可能性が示されている。コーヒーに含まれるカフェインは、アデノシンA2A受容体に対するアンタゴニストとして作用することは知られているが、コーヒー中の他の成分が脳血管系、脳神経細胞、炎症などに作用している可能性もあり、今後の検討結果が待たれる。
著者
尹 文九
出版者
東京福祉大学・大学院
雑誌
東京福祉大学・大学院紀要 (ISSN:18837565)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.75-86, 2011-08

日本を始めとして東アジア、さらに今後はアジアの多くの地域で速いスピードで少子・高齢化が進行している。人口高齢化速度を欧米先進国とアジア諸国と比較すると、高齢化社会から高齢社会に至るのに欧米先進国は平均約 80年も所要した一方で、アジアの場合は約 20年が予測されている。このように短期間に少子・高齢化が進行することによって、社会保障を始め、社会に大きなインパクトを与えている社会を「圧縮・少子高齢化社会」という。本稿では、まず、「圧縮・少子高齢化社会」概念に基づき、アジア地域における人口変動の実態を概観した。つまり、少子・高齢化が進む背景と、それに伴ってライフサイクルがどのように変化しているのかについて概括した。そして、アジア共同体に対する機能的なアプローチの一つとして東アジア型福祉政策あるいはモデルの模索のため、1990年代以後、一般的に論じられている「ワークフェア」という用語を「DJウェルフェアリズム」論を中心に検討し、さらに、それがアジア型福祉モデルとして相応しいかどうかを検証した後、最後に、残された課題や問題点についていくつかの提案をしたい。
著者
立松 英子 太田 昌孝
出版者
東京福祉大学・大学院
雑誌
東京福祉大学・大学院紀要 (ISSN:18837565)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.123-131, 2012-03

保育や特別支援教育では、発達過程をふまえた指導計画の作成や実践が強く求められている。本研究は、シンボル機能と視覚-運動機能を指標とした独自の評価法「LDT-TOB」の発達的意義を確認しつつ、認知発達と日常行動との関係を明らかにすることを目的とした。対象は、定型発達児481名(平均年齢4歳4ヶ月)と知的障害児615名(11歳11ヶ月)で、知的障害児群には自閉症スペクトラム(ASD)を伴う対象が約半数含まれていた。LDT-TOBと「改訂行動質問票(CBQ-R)」、「本郷一夫版『気になる』行動質問票」を実施し、シンボル機能の5Stage、視覚-運動機能の6タイプと年齢、言語表出、診断、行動との関係を検討した。LDT-TOBの結果と年齢や言語表出等の発達指標とは強く関係していた。また、それらの水準と行動との強い関係が明らかになった。