著者
片山 善博 Yoshihiro Katayama
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.131, pp.1-16, 2015-03

遺族が故人とのつながりを維持することがグリーフケア(特に遺族のケア)にとって重要であるという研究が様々な課題を抱えながらも主流になりつつある.とはいえ,遺族の個人に対する関係は一方的なものである.近年の承認論の研究では,自己と他者との間の承認関係が自己の成り立ちやアイデンティティにとって極めて重要であることが指摘されている.従って,遺族が故人との承認関係を維持するためには,故人が他者の地位にあることが望ましいことになる.遺族ケアの課題として,できるだけ双方向的なつながりを維持できるための故人の他者化が必要である.しかし,故人はいわゆる実在する他者ではない.そこで本論では,どのような他者化が可能なのか,また双方向的なつながりの維持のために何が必要なのかを考察した.精神的な他者化を推進する個別的なケアと同時に,こうした関係を安定的に維持させる社会・文化的な価値の創造が必要であると結論づけた.死別,遺族,悲嘆,ケア,承認
著者
井上 准治
出版者
日本福祉大学
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.127, pp.1-24, 2013-03-31

この作品は,近代英国の自立の初期的段階におけるヘンリー八世の国王としての資質の獲得過程を,あえて理想化して描こうとするものである.それは,ジェームズ一世が即位して10 年経った時点で,すでに神格化が起こっているエリザベス女王の繁栄と栄光の時代に対する観客の郷愁的幻想に繋いで,ことさら豪華な仕立ての舞台で試みられる.しかし,一方で,極めて下世話な民衆的,祝祭的笑いのエピソードによる権力闘争のパロディーや,王の離婚問題におけるセクシュアリティの意義のほのめかしによって,価値逆転を起こしたり相対化する視点も提供するものである.本稿は,このような文脈の中で,有力貴族のバッキンガム公と成り上がりの実力者のウルジー枢機卿の間で争われる主導権争いや,王の離婚・再婚問題の劇的過程とその歴史的意味を考察するものである.