- 著者
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安里 和也
比嘉 裕
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.C0988, 2005 (Released:2005-04-27)
【はじめに】頚部の動きとして、大後頭顆関節での制限があり、下位頚椎レベルにて代償を行っている患者は多いように感じている。そのような患者に対し、乳様突起部に音叉を用いて振動刺激を入力すると大後頭顆関節での動きが増し、頚部全体の緊張軽減が得られることが多い。これは頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者のみではなく多くの患者についてみられるものである。そこで今回、振動覚刺激入力が頚部の緊張についてどのような影響を及ぼしているのかという疑問を抱き、検討を行ったのでここに報告する。【対象と方法】本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人9名(男性6名、女性3名;平均年齢26.11±3.59歳)に対して行った。乳様突起部への音叉での振動刺激前後で以下の(1)~(3)を比較し、(4)音叉を当てている間の感じ方のコメントを含めて考察を行った。(1)体幹の固定目的にて椅子坐位を用いて日本整形外科学会による頚部の前屈・後屈・側屈・回旋の全てのROM(以下、頚部ROM)を測定する。また、振動刺激前後の頚部ROMの平均値をt-検定にて比較する。(2)椅子坐位にて頚部を動かしてもらい、主観的な変化をコメントとして聴取する。(3)安静坐位の姿勢をデジタルカメラにて撮影し、肉眼にて姿勢を観察する。振動刺激は、坐位にて左右の乳様突起へ128Hzの音叉を用いて5秒間の5回づつ加えた。【結果】振動刺激後は、(1)全ての頚部ROMで有意に拡大した(P<0.005)。特に回旋のROMにて有意水準が高かった(P<0.001)。(2)被験者9名中9名がなんらかの動きやすさを感じた。(3)大後頭顆関節での動きが大きくなることが観察された。(4)音叉での振動刺激入力中のコメントとして、1回目よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。【考察】今回の結果から乳様突起への振動刺激後は頚椎上部でのrelaxationが促され、ROM制限が軽減していると捉えることができた。これは大後頭下筋や頭斜筋などの乳様突起近辺の後頭下筋群に対しrelaxationが促され、大後頭顆関節での動きが円滑になり、ROM拡大という結果に繋がったのではないかと考えられた。また、1回目の音叉刺激よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。その背景を考えると、生理学的には、60Hz以上の振動刺激に優位に反応するパチニ小体が興奮し、ある一定の刺激量を超えたところで、膜電位の変化が起こると言われている。その膜電位の変化に伴い、筋紡錘内筋が反応し収縮した。その収縮後の弛緩としてrelaxation効果が得られたのではないかと考えられた。以上のことから、乳様突起に対し、振動刺激を入力する事で頚部の緊張に影響を及ぼすことも考えられるのではないかと示唆された。【おわりに】今後は、頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者についても検討していきたい。