著者
鳥居 久展 貴志 真也 吉川 則人 和田 哲宏 吉田 隆紀 小川 成敏 北村 有己子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0325, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】夏季のスポーツ活動における熱中症の問題は以前より指摘されている。なかでも熱痙攣は発生頻度が高く、一般的にも「筋肉がつる」といった表現で知られている。われわれは1998年から和歌山県高校野球連盟からの要請により全国高校野球選手権和歌山大会のメディカルサポートを和歌山県理学療法士協会協力のもと実施してきたが、試合中の熱痙攣の対処には苦難する場面が多いのが現状である。今回、過去のサポート中における熱痙攣の発生状況について調査し、現場での高校球児の熱痙攣の特徴や要因、今後の課題についての知見を得たので報告する。【方法】全国高校野球選手権和歌山大会における熱痙攣の発生率、発生時期、発生部位、ポジション別発生状況、試合復帰状況を過去5年間(2000~2004年)のサポートカルテより調査した。【結果】熱痙攣の発生率は、サポート総処置件数335件中24件と全体の7%であった。しかしその割合は増加傾向にあり2004年では全体の18%と高くなった。発生時期としては21件(88%)が試合後半の6回以降に発生しており、守備中11件、投球中7件、走塁中6件の順に多かった。発生部位は下腿13件(両側4、片側9)、両下肢全体4件、ハムストリングス3件(両側2、片側1)、片側下腿+ハムストリングス2件、全身性2件であった。ポジション別にみると投手8例、捕手1例、内野手8例、外野手7例で全員先発メンバーであった。投手は8例中7例が投球中に軸足側の下腿に発生しておりポジション特性がみられた。処置後、試合復帰可能だった例は16例(うち2例が試合中再発、1例が続行不可能)で、8例が試合復帰不可能となった。処置としては水分補給、アイシング、ストレッチ等の応急処置の他、イニング毎に状況確認を行い必要な処置を実施した。【考察】高校球児にとって夏の地方大会は甲子園に直結する重要な大会であり、その独特の緊張感と暑熱環境下での開催の為、選手の身体的・精神的疲労は大きいと考えられる。2004年度に発生率が高くなったのは大会中の最高気温が平均33°Cを超えるなど(2003年は同29°C)、環境要因が大きいと考える。ポジション別では投手の割合が高く、発生時期が試合後半、部位は下肢に集中しており、運動量、疲労との関係が大きいと考える。復帰状況では3人に1人が復帰不可能となっており、両下肢や全身性の痙攣を起こしていた為、回復に時間を要したことが原因である。試合中は自由飲水させているチームが多いが、自由飲水の場合必要量の60~70%程度しか摂取できていないともいわれ、今後はチームレベルでイニング毎の水分補給やミネラル分の補給を促す必要がある。それには各選手、チームの熱中症に対する知識を高めるとともに大会レベルでの取り組みが必要となるため、今後一層サポート側からの啓発活動を行っていく予定である。
著者
安里 和也 比嘉 裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0988, 2005 (Released:2005-04-27)

【はじめに】頚部の動きとして、大後頭顆関節での制限があり、下位頚椎レベルにて代償を行っている患者は多いように感じている。そのような患者に対し、乳様突起部に音叉を用いて振動刺激を入力すると大後頭顆関節での動きが増し、頚部全体の緊張軽減が得られることが多い。これは頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者のみではなく多くの患者についてみられるものである。そこで今回、振動覚刺激入力が頚部の緊張についてどのような影響を及ぼしているのかという疑問を抱き、検討を行ったのでここに報告する。【対象と方法】本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人9名(男性6名、女性3名;平均年齢26.11±3.59歳)に対して行った。乳様突起部への音叉での振動刺激前後で以下の(1)~(3)を比較し、(4)音叉を当てている間の感じ方のコメントを含めて考察を行った。(1)体幹の固定目的にて椅子坐位を用いて日本整形外科学会による頚部の前屈・後屈・側屈・回旋の全てのROM(以下、頚部ROM)を測定する。また、振動刺激前後の頚部ROMの平均値をt-検定にて比較する。(2)椅子坐位にて頚部を動かしてもらい、主観的な変化をコメントとして聴取する。(3)安静坐位の姿勢をデジタルカメラにて撮影し、肉眼にて姿勢を観察する。振動刺激は、坐位にて左右の乳様突起へ128Hzの音叉を用いて5秒間の5回づつ加えた。【結果】振動刺激後は、(1)全ての頚部ROMで有意に拡大した(P<0.005)。特に回旋のROMにて有意水準が高かった(P<0.001)。(2)被験者9名中9名がなんらかの動きやすさを感じた。(3)大後頭顆関節での動きが大きくなることが観察された。(4)音叉での振動刺激入力中のコメントとして、1回目よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。【考察】今回の結果から乳様突起への振動刺激後は頚椎上部でのrelaxationが促され、ROM制限が軽減していると捉えることができた。これは大後頭下筋や頭斜筋などの乳様突起近辺の後頭下筋群に対しrelaxationが促され、大後頭顆関節での動きが円滑になり、ROM拡大という結果に繋がったのではないかと考えられた。また、1回目の音叉刺激よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。その背景を考えると、生理学的には、60Hz以上の振動刺激に優位に反応するパチニ小体が興奮し、ある一定の刺激量を超えたところで、膜電位の変化が起こると言われている。その膜電位の変化に伴い、筋紡錘内筋が反応し収縮した。その収縮後の弛緩としてrelaxation効果が得られたのではないかと考えられた。以上のことから、乳様突起に対し、振動刺激を入力する事で頚部の緊張に影響を及ぼすことも考えられるのではないかと示唆された。【おわりに】今後は、頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者についても検討していきたい。