著者
安里 和也 大神 裕俊 比嘉 裕 石井 慎一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0070-A0070, 2007

【はじめに】 臨床上、腰椎や骨盤の可動性を上げることで、歩行中の「歩きやすさ」や歩幅が増大することが確認される。しかし、腰椎・骨盤の運動前後で変化を明示した研究は見当たらない。そこで今回、実際に腰椎・骨盤運動前後での歩行の変化を調査し、得られた結果と若干の知見を交え報告する。<BR><BR>【対象と方法】 本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人男性7名(平均年齢26.0±7.26歳)を対象とし、骨盤運動前後での歩行変化を比較した。骨盤運動とは、足関節・膝関節・股関節がそれぞれ90度になるようにセットした端坐位にて、体幹を伸ばす・丸めると連動して骨盤を前傾・後傾させる運動を選択した。また検者の手の感触にて腰椎前弯の分節的な動きが確認できるまで運動を繰り返した。歩行分析にはVicon-peak社製三次元動作解析装置を使用し、歩行は自然歩行(以下、歩行)とし、骨盤運動前後に4試行ずつ行った。マーカーは胸骨柄・胸骨剣状突起・第一胸椎棘突起・第10胸椎棘突起・両上前腸骨棘・両上後腸骨棘中間点・左股関節・左大腿骨内側上顆・左大腿骨外側上顆・左外果・左踵骨先端・左第五中足骨頭に貼付し、A:胸郭・B:骨盤の空間に対する角度及びC:骨盤に対する大腿骨(以下、股関節)の角度を求めた。データは前述の4試行の歩行の中からFoot flat時のA~Cを抽出、平均を求め、対応のあるT-検定にて比較した。また、各個人のデータ間の比較として対応のないT-検定を用い、比較した。なお、感想として運動前後の歩きやすさも記録した。<BR><BR>【結果】 骨盤運動前後における歩行に、統一した変化はみられなかった。しかし7例中6例が、骨盤・胸郭・股関節それぞれのXYZ成分9成分中のどれか2つ以上の有意差を認めた。また、全例で骨盤運動後は「歩きやすい」との答えが得られた。<BR><BR>【考察】 結果である、骨盤運動後の「歩きやすさ」という点から察するに、今回の対象者は腰椎・骨盤周辺に不合理な動きがあったと予測される。つまり、腰椎椎間関節・仙腸関節の可動域制限を有していて、骨盤運動により若干、腰椎個々、仙腸関節の可動性が見出され、立位身体質量中心点(以下、重心点)が前方へ移動しやすくなったと考えられる。今回は、そのことへの身体対応の多様さの結果と考えられるのではないだろうか。また統一見解が得られなかったことに関しては、個々の対象者の腰椎・骨盤周辺の不合理さが、研究前からの統一を得ていなかったからでないかとも考えている。<BR><BR>【まとめ】 「ヒトの動き」も物体の移動と同様、力学の本質である重心点移動という視点にたち、動作分析を行うことも一方法に成り得るのではないかと考えられた。
著者
比嘉 裕 安里 和也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0336, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】腰痛により、スポーツ参加が不可能となった症例を経験する機会が得られ、満足する結果となった。それをふまえ定期的に治療が続けられるようになった、平成17年4月から11月について、若干の考察を加えここに報告する。【症例紹介】 症例は、本報告に対して十分な理解の得られた26歳男性で、左腰に痛みを訴える者である。平成5年中学生のころより学校検診にて、腰椎側弯を指摘されるも、無症状であったため放置していた。腰痛は、平成12年頃からスポーツ時に出現し始め、特にマラソン競技、自転車競技時によって惹き起こされ競技続行が不可能になるほどであった。治療は、平成14年頃から医療機関や、医療補助機関等を転々とし、定期的な治療を継続して受けたことはなかった。そのいずれかの医療機関にて特発性側弯症と診断されていた。【身体観察】痛みは、左腰部で(腰椎第1から第5周囲、12肋骨からPSIS周囲)圧痛があり、体幹伸展、右側屈に運動時痛が出現する。立位後面からは、左に凸の腰椎側弯、右肩下制の左右非対称性が観察される。立位体幹前屈は、右に側屈を伴いながら行われ、左腰が膨隆している。座位での体幹側屈時の腰椎の動きは、右側屈は可能だが、左側屈は起こらずより上部での動きが観察される。また左右の臀部挙上運動においても腰椎は、体幹側屈と同様の動きを示した。両側臥位を比較にて、坐骨から頭側に向けて圧迫(以下、座圧)を加えた際、右上側臥位の右骨盤は、腰椎の右側屈と同時に上方移動するのに対して、左上側臥位の左骨盤は、腰椎前屈と同時に後傾をする。【アプローチと考察】局所の痛みに対しては、疎血性の脊柱起立筋外腹斜筋、腰方形筋等の痛みが生じていると考え、直接的にストレッチ等のリラックスを図れる事を施した。また腰椎のアライメントから、左側の痛みを生じる筋は、常に伸張された状態で収縮、弛緩を繰り返しているものと考えられる。それは、体幹の側屈、前屈、骨盤の挙上、また座圧等による、左側屈のない腰椎の動きから考察できるのではないだろうか。またこれらの状態から腰椎は、骨盤に対して水平面上で反時計回りの回旋が生じていると考えた。それに対しては、左右腰椎周囲筋のリラックスを図り、側臥位と座位にて腰椎と骨盤の捻じれを加えた腰椎可動の再構築を図った。それにより、腰椎の可動域に変化が生じ、十分ではないが体幹側屈、前屈等の腰椎の左屈が可能となった。またアライメントでは、より左右の対象性が観察されるようになってきた。結果痛みが軽快、競技への復帰が可能となっていると考えている。【おわりに】腰椎可動の再構築を図ることで、結果的に腰椎のアライメント左右対称性が生じ、最終的に腰痛の軽快が得られたのではないだろうか。
著者
安里 和也 比嘉 裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P1364, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】 我々は「ヒトの動き」というメインテーマで研究をすすめてきた中、これまで得られた見解として、「動き」は様々な環境因子(内的・外的を含む)により決定され、厳密な条件設定を行わなければ一定の刺激で一定の結果が得られるとは限らないと考えている.つまり「動き」という表現形には多くの自由度があるものと捉えている.その自由度の高い「ヒトの動き」ではあるが立位に主眼をおいて、足部をつま先か踵、及び内側か外側の4象限に分割し、主にどの部分で支持しているのかという4スタンス理論を用いて分類してみた際、愁訴部位との関連性を見出せないかと考え、検証したのでここに報告する.【対象と方法】 対象は本研究の主旨に賛同を得た疼痛を訴える外来通院患者133例(男性47例、女性86例、平均年齢58.1±18.36歳)とし、カルテを後方視的に調査した.対象者を、4スタンス理論の分類検査のうち上肢牽引検査、手指牽引検査、足部-体幹回旋検査、下肢筋力検査、上肢引っ張り検査の5つの検査を用い、つま先内側(以下A1)・つま先外側(以下A2)・踵内側(以下B1)・踵外側(以下B2)の4群に分類した(以下、分類1).また調査時の愁訴部位を頚・肩・肘・手・腰・股・膝・足・その他(重複あり)の8つの関節に分けた(以下、分類2).上記により分類した分類1と分類2との関係をχ二乗検定にて検証した.【結果】 検定の結果、4スタンスの分類と愁訴部位との関連性において有意差はみられなかった.対象133例の分類1の内訳はA1が56例、A2が56例、B1が11例、B2が10例であった.分類2の愁訴部位の内訳は全体では腰・膝・頚の順に多く、A1・B1・B2の各群でも同様の順に多く、A2は腰・膝・肩の順となっていた.A2の頚への愁訴は少ない傾向であった.【考察】 結果から廣戸が提唱する4スタンス理論での分類と愁訴部位との関連性はみられなかった.しかし分類1にてA1とA2(以下A群)が多くを占め、B1とB2(以下B群)が少数であったことは興味を引く結果となった.廣戸によるとA群は足底・膝・鳩尾、B群は足底・股関節・頚を運動軸として合わせることにより、そのヒトなりの効率の良い動き方に繋がると述べている.これは臨床的にも立ち上がりなどの動き出しにおいて鳩尾及びその背側部から動きを誘導するとスムースに動き出せる方が多い印象と一致すると感じている.また廣戸はA2及びB1は体幹の動きが後方主導として動いた方が効率の良い動きになりやすいと述べており、頚を運動軸として用いず体幹が後方主導となりやすいA2では頭部前方肢位となりにくく、今回の頚への愁訴が少ない傾向となったのではないかと考えている.【まとめ】 今回の研究では明示できなかったが、「ヒトの動き」の多彩な視点の一つとして4スタンス理論も今後、発展の余地は残されていると考えている.
著者
安里 和也 比嘉 裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0988, 2005 (Released:2005-04-27)

【はじめに】頚部の動きとして、大後頭顆関節での制限があり、下位頚椎レベルにて代償を行っている患者は多いように感じている。そのような患者に対し、乳様突起部に音叉を用いて振動刺激を入力すると大後頭顆関節での動きが増し、頚部全体の緊張軽減が得られることが多い。これは頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者のみではなく多くの患者についてみられるものである。そこで今回、振動覚刺激入力が頚部の緊張についてどのような影響を及ぼしているのかという疑問を抱き、検討を行ったのでここに報告する。【対象と方法】本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人9名(男性6名、女性3名;平均年齢26.11±3.59歳)に対して行った。乳様突起部への音叉での振動刺激前後で以下の(1)~(3)を比較し、(4)音叉を当てている間の感じ方のコメントを含めて考察を行った。(1)体幹の固定目的にて椅子坐位を用いて日本整形外科学会による頚部の前屈・後屈・側屈・回旋の全てのROM(以下、頚部ROM)を測定する。また、振動刺激前後の頚部ROMの平均値をt-検定にて比較する。(2)椅子坐位にて頚部を動かしてもらい、主観的な変化をコメントとして聴取する。(3)安静坐位の姿勢をデジタルカメラにて撮影し、肉眼にて姿勢を観察する。振動刺激は、坐位にて左右の乳様突起へ128Hzの音叉を用いて5秒間の5回づつ加えた。【結果】振動刺激後は、(1)全ての頚部ROMで有意に拡大した(P<0.005)。特に回旋のROMにて有意水準が高かった(P<0.001)。(2)被験者9名中9名がなんらかの動きやすさを感じた。(3)大後頭顆関節での動きが大きくなることが観察された。(4)音叉での振動刺激入力中のコメントとして、1回目よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。【考察】今回の結果から乳様突起への振動刺激後は頚椎上部でのrelaxationが促され、ROM制限が軽減していると捉えることができた。これは大後頭下筋や頭斜筋などの乳様突起近辺の後頭下筋群に対しrelaxationが促され、大後頭顆関節での動きが円滑になり、ROM拡大という結果に繋がったのではないかと考えられた。また、1回目の音叉刺激よりも5回目の方が感じ方が強くなるとのコメントが多かった。その背景を考えると、生理学的には、60Hz以上の振動刺激に優位に反応するパチニ小体が興奮し、ある一定の刺激量を超えたところで、膜電位の変化が起こると言われている。その膜電位の変化に伴い、筋紡錘内筋が反応し収縮した。その収縮後の弛緩としてrelaxation効果が得られたのではないかと考えられた。以上のことから、乳様突起に対し、振動刺激を入力する事で頚部の緊張に影響を及ぼすことも考えられるのではないかと示唆された。【おわりに】今後は、頚部に疾患がある、あるいは症状を訴える患者についても検討していきたい。