著者
山西 正子 Masako YAMANISHI 目白大学外国語学部アジア語学科
雑誌
目白大学人文学研究 = Mejiro journal of humanities (ISSN:13495186)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.137-147, 2006

本稿は、明治以降における動詞「別れる」と共起する格助詞について考察し、以下の5点を指摘する。(1)現代語では「~と別れる」が優勢であるが、「死別」に関しては、辞書で「~に別れる」が記載されることもあり、認知度は高いといえる。(2)「死別」に関して「~に別れる」が認知されるのは、格助詞「に」の性格に由来するからであろう。すなわち「に」は「と」に比して固定的・一方的な性格が感じられ、「死の世界に止まってもはや動かない相手」が「に」で表現されやすいと考えたい。(3)古典語の「名残り」ともいうべきか、空間的な別れをいう「~に別れる」も命脈を保っている。 20世紀前半までの文学作品はもとより、以後の作品でも、時代小説であれば使用されることがある。(4)格助詞「と」の相互性によって、生きている人間同士の「今後の変動があり得る/対等の別れ」を「と」が分担するのではないか。(5)格助詞「に」は、固定的・一方的な状況と結びつきやすい性格がある。「~に別れる」は、その性格と、古典語からの伝統とで、現代語の中でも命脈を保ちつづけている。