著者
大塚 雅和 桑原 義典 本村 秀樹
雑誌
第55回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2019-04-26

【背景】鋳型気管支炎(Plastic Bronchitis:PB)は気管支内で形成された樹枝状の鋳型をした粘液栓(cast)により気道閉塞から呼吸不全を呈し時に致死的となることがある疾患である。Fontan術後だけでなく気管支喘息や呼吸器感染などでも発症する。今回、Fontan手術11年後でマイコプラズマ感染による気管支喘息発作時にPBを発症した症例を経験したので報告する。【症例】PA-IVSの14歳女児。生後2ヶ月でBTシャント、BAS、9ヶ月にGlenn手術、1歳にcoil塞栓(内胸動脈collateral)、3歳にTCPC(EC)を施行。3歳、4歳で肺炎のため入院既往あり。外来で気管支喘息もフォロー中(FP吸入、LTRA内服)。3年前の心臓カテーテル検査ではCVP9mmHgで良好なFontan循環だった。数日前より咳嗽があり、入院当日に39℃まで発熱し呼吸苦、胸痛も出現した。SpO2 84%(通常95%)でサルブタモール吸入したが改善せず、胸部レントゲンで肺炎があり入院した。酸素投与、抗菌薬AZM投与、PSL全身投与を開始した。入院翌日から断続的にcastの喀出がありPBと診断。Castの喀出で呼吸状態は徐々に改善した。入院11日目より呼吸理学療法を開始すると、さらにcastが排出され、入院16日目に退院した。なお、マイコプラズマ抗体PA法320倍であった。【考察・結語】PBは気管支疾患に多い1型(inflammatory type)と先天性心疾患術後に多い2型(acellular type)に分類される。高い静脈圧、慢性的な高リンパ圧などがFontan術後cast形成に関係する因子とされるが、今回の症例は良好なFontan循環であった。本症例のcastは1型、2型の要素を含んでおり、良好なFontan循環でも気管支喘息発作、肺炎によりPBを発症する可能性がある。PBに確立された治療はないが、呼吸理学療法を積極的に導入し排痰を促すことも重要であると考えられた。
著者
小山石 隼 森 礼佳 山本 洋平 三浦 文武 嶋田 淳 北川 陽介 大谷 勝記 伊藤 悦朗 高橋 徹
雑誌
第55回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2019-04-26

【はじめに】褐色細胞腫(pheochromocytoma:PCC)はカテコールアミン産生能を有する腫瘍で,主な症状の高血圧や頻脈は心疾患の症状と類似している.PCCを合併した成人先天性心疾患患者の2例を経験したので報告する.【背景】近年,チアノーゼ性先天性心疾患とPCCの合併の報告が散見され,慢性的な低酸素とPCCの関連が示唆されている.【症例】症例1は両大血管右室起始の女性,乳児期よりEisenmenger症候群の病態を呈し酸素飽和度70%台で推移していた.20歳台に糖尿病と診断され,高血圧,発作性の頻脈を呈するようになっていた。30歳時に腹痛の精査で左副腎腫瘍を認められ,左副腎のPCCと診断した.腫瘍摘出術は周術期のリスクから適応外とされ内科的治療を継続した.32歳時に心不全進行し死亡した.症例2は両大血管右室起始,肺動脈閉鎖の男性で,4歳時にleft original BT shunt(BTS),15歳時にright modified BTS(35歳時に閉塞確認)が行われた.36歳時に左肺梗塞発症し再度のright modified BTSが行われ,酸素飽和度80%台で推移していた.46歳時に喀血の精査で偶然に左副腎腫瘍が認められ,左副腎のPCCと診断した.【考察】慢性的な低酸素や先天性心疾患とPCCの発症には低酸素誘導因子の活性化の関与等が推測されている.症例1,2とも乳児期からチアノーゼが持続しており,長期の低酸素がPCC発症の誘因になった可能性がある.【結語】PCCはチアノーゼを呈する成人先天性心疾患患者における全身合併症の一つとして認識することが重要である.
著者
岡部 真子 寳田 真也 宮尾 成明 小栗 真人 伊吹 圭二郎 小澤 綾佳 廣野 恵一 市田 蕗子 田口 雅登 芳村 直樹 東田 昭彦
雑誌
第55回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2019-04-26

【背景】フォンタン術後の蛋白漏出性胃腸症(PLE)は、未だ予後不良な合併症である。単心室循環におけるフォンタン/グレン術後の反復するPLEにおいて、タダラフィル (TAD)中止後に症状の軽快を認めた3例を経験した。【症例】症例1)15歳女児、三尖弁閉鎖症で2歳でフォンタン術を施行し、10歳でPLEを発症した。利尿剤やベラプロスト(BPS)・ボセンタンを開始したが、Alb低値が持続しTADを追加した。その後TAD・マシテンタン(MAC)の2剤を使用した。心不全治療目的で硝酸イソソルビドテープを導入し、TADを中止したところ、4か月間 Alb値は維持でき、外来管理が可能となった。症例2) 11歳女児、単心室症で1歳時にグレン術を施行した。術後5年の心臓カテーテル検査で肺動脈圧は26mmHgと高値で、利尿剤・エナラプリル・BPS・TADで管理した。8歳でPLEを発症しMACを追加した。静脈のうっ滞の改善目的で硝酸イソソルビドテープ導入し、TADを中止すると低血圧は改善し、4か月間 Alb値は維持でき、外来管理が可能となった。症例3)13歳女児、左心低形成症候群で2歳でフォンタン術を施行した。7歳でPLEを発症しシルデナフィルを開始したが、副作用のためTADに変更した。再燃を繰り返し、MACを追加したが、体血圧の低下を認めたためTADを中止したところ、低血圧とPLEの症状改善を認めた。モニタリング可能であった症例1,2において、Alb低下時はTADの血漿蛋白非結合型分率が上昇する傾向を認めた。【考察】薬物の効果は血漿蛋白に結合していない非結合型が薬効を示す。血中Albが低値のPLE患者では、TADの血漿蛋白非結合型分率が増加しその薬効が増強する結果、低血圧をきたし、腸管血流低下をもたらし、PLEを助長させる要因になっていた可能性が考えられた。【まとめ】TADは、PLEにおいて肺高血圧を伴う症例に対して比較的よく使用されている薬剤であるが、PLEによる薬物動態の変化を考慮した治療選択を検討することが重要と思われた。
著者
上田 秀明 田村 義輝 杉山 隆朗 野木森 宣嗣 加藤 昭生 若宮 卓也 小野 晋 金 基成 柳 貞光
雑誌
第55回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2019-04-26

【背景】フォンタン術後の蛋白漏出性胃腸症PLEは、治療抵抗性で予後不良とされている。PLEを発症して4年以上のフォンタン術後PLEの治療および中・長期予後を検討した。【対象】当院で経過観察中のPLE発症4年以上のフォンタン術語PLE10例(男6、女4)。年齢は中央値14(8-24)歳。主心室は左室1、右室6、無脾症3例であった。【結果】フォンタン術式は APC1、心内導管型TCPC1、心外導管型TCPC8例。TCPC時にフェネストレーション作成を行ったのは6例。導管直径は16mm 4例、18mm 3例、20mm 2例。PLEの診断は、血中蛋白濃度、消化管蛋白漏出シンチグラムや便中α 1 アンチトリプシン・ クリアランス値より行なった。【治療】内科的治療として、ステロイド療法3例で1例ブデゾニド使用例。全例入院加療中に持続ヘパリン療法を行なった。カルベジロール6例、肺高血圧治療薬5例に導入した。皮下注用免疫グロブリン製剤ハイゼントラ使用継続中3例。高タンパク食などの栄養療法4例。側副血管コイル塞栓術1例、末梢性肺動脈狭窄に対するステント留置術1例を行った。外科的介入例なし。【結果】 死亡例は初期のAPC1例で、9例生存、現在NYHA心不全分類でI度 3、II度 6例。ステロイド療法3例とも継続中で、低蛋白血症が消失しているのは、ハイゼントラ使用例を含む4例。中心静脈圧、肺血管抵抗、心係数はそれぞれ中央値13(10-15)mmHg、中央値1.3(0.7-2.3)units・m2、中央値3.6(2.3-4.1)L/min/m2。造影上の主心室の駆出率は中央値46(38-56)%。【結語】遺残病変の修復、病初期からヘパリン療法、利尿薬の増量に加え、抗心不全療法、皮下注用免疫グロブリン製剤の導入により、予後は改善してきているものの、運動耐容能の低下から日常生活上制限を受けていることが多い。今後、注意深い経過観察や新たな抗心不全療法が求められる。