著者
柿本 多千代 松井 三枝 中澤 潤 吉田 丈俊 市田 蕗子
出版者
富山大学医学会
雑誌
富山大学医学会誌 (ISSN:18832067)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.28-32, 2011-12

Bayley乳幼児発達検査-第3版(Bayley−Ⅲ)は乳幼児の発達を詳細に,かつ客観的に評価でき,世界標準で用いられることの多い検査である。しかし,日本版は未だ作成されておらず有用性は確かではない。本研究では,日本人健常12ヵ月児42名と36ヵ月児81名にBayley−ⅢとBayley式検査-第2版(BSID−Ⅱ),発達質問紙(津守式)を実施し,Bayley−Ⅲの有用性を検証した。米国の健常児と比較した結果,12ヵ月児では言語尺度の得点低下,36ヵ月児では微細運動の得点上昇が認められた。BSID−Ⅱよりは全体的に得点は高く,尺度間には高い相関が確認された。津守式では,両年齢ともに月齢相応の発達を示していた。Bayley−Ⅲの言語尺度においては,日本人小児には見合わない文法が認められたが,それ以外の教示や用具など実施上の不都合はなく,Bayley−Ⅲは日本でも使用可能な検査であった。
著者
市田 蕗子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.674-683, 2014 (Released:2014-10-25)
参考文献数
28

小児循環器医学の診断技術の進歩や内科的・外科的治療により,重症の先天性心疾患でも生存率は飛躍的に向上した.一方で,精神神経発達の異常が予想を超えて高頻度であることが明らかになってきた.この発達の異常には,染色体異常や遺伝子異常などの患者固有の因子,心疾患に伴う脳循環の異常や低酸素,あるいは手術や内科的治療に伴う危険性などの因子のほか,家庭や学校,職場などの環境の因子も影響を及ぼしている.先天性心疾患児の発達障害は,認知,社会性,言語,注意欠陥など高次脳機能の障害が特徴的である.早期から,心理発達検査スクリーニングを行い,発達異常を認識し,心理カウンセリングなどのサポートを始めることが重要である.
著者
岡部 真子 寳田 真也 宮尾 成明 小栗 真人 伊吹 圭二郎 小澤 綾佳 廣野 恵一 市田 蕗子 田口 雅登 芳村 直樹 東田 昭彦
雑誌
第55回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2019-04-26

【背景】フォンタン術後の蛋白漏出性胃腸症(PLE)は、未だ予後不良な合併症である。単心室循環におけるフォンタン/グレン術後の反復するPLEにおいて、タダラフィル (TAD)中止後に症状の軽快を認めた3例を経験した。【症例】症例1)15歳女児、三尖弁閉鎖症で2歳でフォンタン術を施行し、10歳でPLEを発症した。利尿剤やベラプロスト(BPS)・ボセンタンを開始したが、Alb低値が持続しTADを追加した。その後TAD・マシテンタン(MAC)の2剤を使用した。心不全治療目的で硝酸イソソルビドテープを導入し、TADを中止したところ、4か月間 Alb値は維持でき、外来管理が可能となった。症例2) 11歳女児、単心室症で1歳時にグレン術を施行した。術後5年の心臓カテーテル検査で肺動脈圧は26mmHgと高値で、利尿剤・エナラプリル・BPS・TADで管理した。8歳でPLEを発症しMACを追加した。静脈のうっ滞の改善目的で硝酸イソソルビドテープ導入し、TADを中止すると低血圧は改善し、4か月間 Alb値は維持でき、外来管理が可能となった。症例3)13歳女児、左心低形成症候群で2歳でフォンタン術を施行した。7歳でPLEを発症しシルデナフィルを開始したが、副作用のためTADに変更した。再燃を繰り返し、MACを追加したが、体血圧の低下を認めたためTADを中止したところ、低血圧とPLEの症状改善を認めた。モニタリング可能であった症例1,2において、Alb低下時はTADの血漿蛋白非結合型分率が上昇する傾向を認めた。【考察】薬物の効果は血漿蛋白に結合していない非結合型が薬効を示す。血中Albが低値のPLE患者では、TADの血漿蛋白非結合型分率が増加しその薬効が増強する結果、低血圧をきたし、腸管血流低下をもたらし、PLEを助長させる要因になっていた可能性が考えられた。【まとめ】TADは、PLEにおいて肺高血圧を伴う症例に対して比較的よく使用されている薬剤であるが、PLEによる薬物動態の変化を考慮した治療選択を検討することが重要と思われた。
著者
岩﨑 秀紀 廣野 恵一 市田 蕗子 畑崎 喜芳 藤田 修平 谷内 裕輔 久保 達哉 永田 義毅 臼田 和生 仲岡 英幸 伊吹 圭二郎 小澤 綾佳
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
日本小児循環器学会雑誌 (ISSN:09111794)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.237-243, 2016

<i>LMNA</i>遺伝子は,核膜の裏打ち蛋白であるLamin A/Cをコードし,心筋・骨格筋・末梢神経の障害,皮膚疾患など多彩な疾患の発症に関与する.<i>LMNA</i>変異には,拡張型心筋症や伝導障害,心室性不整脈の合併が多いとされ,これらの心不全・伝導障害に対して心臓再同期療法(Cardiac resyncronization therapy; CRT)の有用性の報告が散見される.本症例は乳幼児期発症の先天性筋ジストロフィーの女児で,遺伝子検査で<i>LMNA</i>変異を認めた.8歳以降,徐々に心機能が低下し,完全房室ブロックや非持続性心室頻拍を認め,13歳時より心房細動,徐脈および心不全が進行し,入退院を繰り返すようになった.14歳時に,伝導障害を伴う高度徐脈を合併した心不全に対して,経静脈的に両心室ペースメーカ植込み術を施行し,心不全症状の改善が得られた.<i>LMNA</i>関連心筋症は成人期以降に徐脈性不整脈・心不全や突然死を呈することが多く,成人例でのCRTの有用性が報告されているが,本症例のように小児期発症例においてもCRTの有用性が示唆される.
著者
松崎 多千代 松井 三枝 中澤 潤 市田 蕗子 八木原 俊克
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.308-312, 2008-07-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
12

Bayley乳幼児発達検査 (BSID-II) は先天性心疾患児の発達評価として世界的に使用されているが, 日本版は作成されていない. そこで, 本邦でのBSID-IIの導入を目的として, 1歳心疾患児と健常児にBSID-IIを施行した. その結果, 健常児の値は米国基準より低値であり, 心疾患児は我が国の健常児より運動発達全般が遅延していた. 津守式乳幼児精神発達質問紙では両群に得点差はなかった. BSID-IIと乳幼児精神発達質問紙には項目間の高い相関関係が確認された. BSID-IIを施行するにあたって翻訳上や用具等の問題はなく, 我が国でも乳幼児の発達評価として有用であることが示唆される.