著者
佐藤 正志 張 志祥
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.89-102, 2009-10

「満洲国」において、「満洲産業開発五カ年計画」が動き始めた1937年前後から、星野直樹、東條英機、鮎川義介、松岡洋右および岸信介の「二キ三スケ」と呼ばれた5人の実力者の存在が注目されはじめた。そのなかで、経済産業政策を中心的に担ったのが岸信介である。植民地研究の第一人者である小林英夫は、岸が革新官僚として「満洲国」に渡り、そこでさまざまな統制経済の「実験」を実施し、この「満洲経営」が、戦時統制経済をはじめ、第2次世界大戦後に世界に類例をみない日本の高度経済成長や戦後日本経済のグランドデザインをつくったと指摘しており、戦前と戦後の連続性を主張する最近の論調を代表する。本稿では、岸が「満洲経営」で果たした役割とそれの戦後経済成長との関連性をめぐり、どのような言説が流布され、いかなる主張がなされているのか。また、それをいかに論証しているのか、最近の岸に関する研究動向のみならず一般書や雑誌記事などにおける代表的な言説をレビューし、革新官僚・岸信介による「満洲経営」の経済史的意義を解明する際の課題について考察する。
著者
牧野 幸志
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.37-50, 2007-02

本研究は,青年期の男女が別れに際してもつネガティブな感情や行動的反応が告白の立場と別れの主導権により異なるかを調べた。被調査者は大学生344名(男性135名,女性209名)であった。そのうち,異性とつきあった後に,別れた経験のある223名を分析の対象とした。調査の結果,約40%の対象者が別れた後も相手に対して好意を持っていた。交際期間が短い場合,自分から別れを切り出した場合,相手だけが恋愛関係に夢中で,尽していた場合に別れ後に相手を嫌いであった。別れ後の感情・行動については,自分から告白して自分から別れを切り出した人は泣くことが少なかった。また,自分から告白して相手からふられた人は再び相手を好きになることが少なかった。さらに,別れた後も積極的に相手と会うという人は少なかったが,相手から告白されて自分からふった場合に特に少なかった。全般的に,別れ後の感情や行動に及ぼす告白の立場の影響は小さく,別れの主導権の影響が大きかった。
著者
福田 市朗
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.65-90, 2003-02

本論文は、規範的な意思決定モデルを代表する期待効用理論に対する心理学的な問題点を指摘し、記述的な意思決定モデルとしてカーネマンとタベスキィー(Kahneman & Tversky, 1979)が提示した「見込み理論(prospect theory)」の紹介とその意義について論じている。2つの理論は排他的な関係にあるものではなく、相補的な関係にある。ここで問われていることは意思決定における人々の思考作業の合理性である。規範モデルが批判する"非合理な(irrational)"な私達の意思決定は、状況に応じた価値体系の構成や不確かさに対する心理学的な態度特性を示し、それ自体の目的性を示している。私達の価値体系は決して固定的なものではなく、可変的である。心理学によれば、私達の決定は未完結で開かれた決定であることが多く、公理系によって限定された領域で求められている合理性から逸脱しやすいと考えられる。心理学が問題にする意思決定理論は人間の特性に基づいた理論であり、合理性を前提としている規範的モデルと異なる。選好の逆転やリスクに対する態度変容、決定における信念の主観的な重みづけなどは規範的なモデルの主張する合理性から逸脱しているが、その合目的性は否定できない。意思決定における心理学的なアプローチは規範的なモデルに対する合理性の再検討と私達の決定を導いている思考作業の解明を求めているのである。
著者
川相 典雄
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.55-73, 2011-02

2003〜2007 年における主要大都市圏を取り巻く人口移動にはこれまでとは異なった様相がみられることを受けて、本稿では、関西圏、東京圏、名古屋圏の各大都市圏がこうした動きを示した背景・要因及びその差異や特徴を各種都市機能の集積状況や産業構造等の観点から考察した。その結果、1.東京圏では金融・国際・情報等の多様な高次都市機能が高度に集中し、名古屋圏では工業機能を中心に集積度が上昇している機能が多いのに対し、関西圏では各種都市機能の集積度は長期的に低下傾向が続いていること、2.2001〜2006 年の各大都市圏の雇用環境について、東京圏では産業構造要因と圏域特殊要因が、名古屋圏では圏域特殊要因がそれぞれ雇用成長を牽引しているのに対し、関西圏では圏域特殊要因が雇用成長を大きく抑制し、2000 年代に入っても大幅なマイナスの雇用成長率が続いていること、3.2001〜2006 年の各大都市圏中心部の雇用環境についても上記2.と同様の状況にあり、特に関西圏中心部では地域特殊要因の著しいマイナスの影響により、他の大都市圏中心部との間に大きな雇用吸収力格差がみられること、等が明らかとなった。こうした要因による各大都市圏間の雇用機会格差や雇用成長格差が、2003〜2007 年における関西圏の転入減・転出超過や東京圏・名古屋圏の高水準の転入超過等の人口移動動向に大きく影響していると考えられる。今後も関西圏が純移動数の改善傾向を継続していくためには、高度情報化やサービス経済化等の環境変化に対応した構造転換、圏域固有の地域資源を活用した特色あるリーディング産業の育成等によって圏域固有のマイナス要因を改善し、関西圏、特にその中心部の雇用吸収力を向上することが大きな課題となる。
著者
有馬 善一
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.93-106, 2011-02

本研究の目標は、ハイデガーの芸術論を手がかりにしながら、芸術の本質、つまり、芸術とは何か(Was)という問いに対して、芸術作品はいかに(Wie)あるかという問いを対峙させ、さらにここから、芸術作品の創造とその享受を、単に比喩としてではなく、根源的な意味において「世界の開示」として捉える道を開くことである。そのために、『存在と時間』の世界論における被投性と気分の意義を再確認した上で、世界とは存在者の存在のあり方(Wie)として理解されるべきこと、進んで「芸術作品の起源」における芸術と世界との連関を明らかにした。芸術作品は、ある気分において世界を開示する。そして、それはまさに存在者のあり方を具体的に描出することによるのである。