著者
寺田 拓晃 渡邊 誠
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 臨床心理発達相談室
雑誌
臨床心理発達相談室紀要 (ISSN:24347639)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-31, 2022-03-18

本研究では自身を「メンヘラ」という語によって理解しようとしている学生にインタビュー調査を行い、彼女たちが自身のどのような経験を「メンヘラ」として語っているのか、そこで語られる「病む」こととは何かを検討した。協力者たちの語りからは、相手と“繋がりたいのに繋がれない”ことによる傷つき、そのような傷つきを抱えた中で感情にまかせて取ってしまう“行き過ぎた”行動が、「メンヘラ」として表現される「病む」ことであるとの示唆が得られた。先行研究においては「メンヘラ」等の語を用いてセルフ・ラベリングを行うことの否定的な側面が強調されているが、本研究では、困難や生きづらさを抱えた際に「メンヘラ」という視点が、自身を見つめ直す契機となることも示された。このような両義性を踏まえた上で、人々が自らの「病む」経験を語るため利用している「メンヘラ」のような言説と向き合っていくことには、臨床的にも意義があると思われた。
著者
寺田 拓晃 渡邊 誠
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 臨床心理発達相談室
雑誌
臨床心理発達相談室紀要 (ISSN:24347639)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-16, 2021-03-25

匿名電子掲示板群「2ちゃんねる」において初出が見られる、「メンヘラ」という語の歴史と使用の変遷を整理し、考察した。「メンヘラ」は、元々2ちゃんねるの掲示板の一つである「メンタルヘルス板」に書き込みを行う、心の問題を抱えた人々の総称であったが、人々に認知されていく中で、その意味合いは変化している。「メンヘラ」という表現が用いられる背景には、メンタルヘルスに関する専門用語では語り得ない「生きづらさ」や「心の問題」に対する捉え方が存在していると考えられる。それは今後「心の専門家」としての臨床家が向き合っていくべき課題を明らかにするものではないだろうか。
著者
田中 佑典
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 臨床心理発達相談室
雑誌
臨床心理発達相談室紀要 (ISSN:24347639)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.49-69, 2022-03-18

障害当事者が自身の障害を語ろうとするときには何をいかに語ればよいのか、語り手と聞き手の相互作用という観点から「障害」の語りを実験的に検討し、考察した。先行研究では、当事者性の不確かな人が自分を語るときには、何をいかに語ればよいか、という知見が不在であった。そこで本稿では、自身が納得できるような「障害」の語りとはどのような場で何をいかに語ることか、そこでは「障害」はどのように語られていくのかを検討した。その結果、「障害」を語る際には、語り手が一方的に語るのではなく、語り手と聴き手が共に応答し合う必要性が明らかになった。また、引責から免責や主体の解体へ、因果論から現象や状況へと移行するように語り紡ぐことの重要性も示唆された。 なお、本研究では、筆者が医学的診断を受けた脳性麻痺や広汎性発達障害、それらの語義や症状を鍵括弧のつけない障害と定義する。それ以外の語られた物事をすべて「障害」として捉える。
著者
龍野 真愛
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 臨床心理発達相談室
雑誌
臨床心理発達相談室紀要 (ISSN:24347639)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.7-19, 2019-03-28

本稿では、アルコール依存症からの回復過程をスピリチュアリティという視点から考察した。アルコール依存症からの回復において重要な役割を果たし続けてきたAA (Alcoholics Anonymous) という自助グループでは、「自分を超えた大きな力(ハイヤーパワー)」、「自分なりに理解した神」といった概念が度々登場する。だが日本においてAA の霊性(Spirituality) に着目して依存症からの回復を検討した研究はほとんど行われていない。そこでAA における神、霊性(Spirituality) とは何を表現しているのか、さらに当事者2名の語りから、ハイヤーパワーが回復にどのように影響を与えているのかを検討した。