著者
峯岸 佳
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.16, pp.153-169, 2020-03

HSP(Highly Sensitive Person)とは,Aron(1997)が提唱した概念で,生得的な特性として,高度な感覚処理感受性を持つ人のことである。赤城ら(2017)の研究では,HSPの人たちは他者の感情刺激を敏感に受け止めているにも関わらず,自身の感情コントロールが困難なため,生きにくさを抱えていると述べられている。また,大塚ら(2018)による研究では,生きづらさの一カテゴリーとして過剰適応が分類されており,他者の感情刺激に敏感なHSPは,その分他者に気を遣いやすく,その結果として過剰適応になりやすい可能性が考えられる。しかし,HSPは近年提唱された概念のためまだ明らかになっていないことが多く,HSPの生きづらさの詳細やHSPと過剰適応との関連については未だ研究がなされていない。本研究では,「HSP特性と自尊感情が過剰適応傾向及び過剰適応行動に与える影響について明らかにすること」を目的1,また「HSPの“生きづらさ”の詳細を自由記述によって探索的に捉えること」を目的2とし私立X大学の大学生らに対し質問紙調査を行った。目的1に対して,分散分析・重回帰分析を行った。その結果,HSP特性は過剰適応傾向に関連があるが,その緩衝要因として想定した自尊感情に緩衝効果はなくそれぞれの主効果がともに有意であり,HSP特性・自尊感情がそれぞれ独立して過剰適応傾向に関連していることが分かった。また目的2で行ったKJ法に準じた内容分析では,HSP特性が高い群は,HSP特性が低い群よりも生きづらさを感じる状況が多岐にわたっており,したがって多くの,より繊細な生きづらさを抱えていると推測することができた。本研究の結果からは,HSPの生きづらさはそのまま自尊感情の低い者や過剰適応傾向の高い者の生きづらさであるともいえる。加えて,HSPの生きづらさが詳細に分かったことにより,この生きづらさを解消していくことで、HSPの自尊感情を高め,過剰適応を抑制する一助となるであろう。
著者
大崎 詩生
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.19, pp.3-12, 2023-03

女子大学生における就職活動は,先行研究から,精神的健康やストレス反応において男子学生との間に差が認められることが示唆されている。本研究は,女子大学生の就職活動において,彼女らの持つ性役割態度がどのように就職活動ストレスに機能しているのかについて検討することを目的として質問紙調査を行った。 調査対象者は関東圏内の4年制女子大学に通う大学3・4年生209名であった。質問紙の構成は,(1)属性と就職に関する質問,(2)就職活動ストレス尺度(就職活動を経験した者のみ回答),(3)平等主義的性役割態度スケール短縮版(A short-form of the Scale of Egalitarian Sex Role Attitudes : SESRA-S)(点数が高いほど性役割の平等志向性が高い),(4)自尊感情尺度よりなる。209名のうち,就活群(就職活動を経験した群)117名,非就活群(就職活動を経験していない群)92名に分類した。 2群の比較では,就活群は非就活群よりも自尊感情が有意に高かった。就活群においての検討では,就職活動ストレスに対する性役割態度の調整変数としての機能を検討するために階層的重回帰分析を行った。就職活動ストレスに対し性役割態度と自尊感情は負の影響が認められた。重決定係数の変化量が有意であり,SESRA-Sと自尊感情の交互作用項における標準偏回帰係数も有意傾向を示したため,SESRA-Sと自尊感情の交互作用における単純傾斜検定を行った。 この結果から,性役割態度と自尊感情の高さは,就職活動ストレスを低くすることが示された。さらに,性役割態度が低い場合であっても,自尊感情が高ければ,就職活動ストレスをより軽減する可能性が示唆された。就職活動を行う女子大学生の心理的健康のためには,平等志向的な性役割意識をもつこと,自尊感情を高めることにより意識を向けるべきであろう。
著者
荒井 美音里
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.12, pp.63-72, 2016-03

本研究では,自己嫌悪感の肯定的側面を探究することを目的に,自己内省,自己形成意欲,アイデンティティ達成との関係を検討した。質問紙調査を女子大学生340名に行った。結果,実証的な先行研究では,自己嫌悪感と自己内省は負の関係があったが,本研究では関連性がないことが明らかになった。また,自己嫌悪感高群は中群に対して5%水準で有意に自己形成意欲が高いことが明らかになった。さらに,自己嫌悪感と自己内省は自己形成意欲に対して正の影響を与えていたが,その決定係数はR2=.055であり,影響力は低いことが示唆された。加えて,自己嫌悪感,自己内省,自己形成意欲はアイデンティティ達成に対して正の影響を与えており,決定係数はR2=.397であった。しかし,回帰係数を見てみると,自己嫌悪感がβ=-.592,自己内省がβ=.143,自己形成意欲がβ=.097とその影響力は従属変数ごとにばらつきがあった。これらのことから,本研究の結果は,自己嫌悪感が青年期の自己形成において重要な意味を持つという従来の指摘を支持するものであったが,それはごく一部に過ぎず,青年期のアイデンティティ達成に至る道筋をすべて説明することはできないという事が分かった。
著者
宮崎 圭子 篠崎 恵
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-38, 2016-03

本研究の目的は、現代の女子学生が結婚・育児を通して「働く」ということへのイメージとジェンダー・アイデンティティ、キャリア成熟度および結婚願望との関連を明らかにすることであった。関東圏内の女子学部生50名および大学院生(女子)13名を対象に調査を行った。2種類の刺激文を提示し、物語を作成してもらった。また、ジェンダー・アイデンティティ尺度15項目(佐々木・尾崎,2007)、成人キャリア成熟尺度27項目(坂柳,1999)および将来家庭を持ちたいと思うかの1項目(2件法)の質問に回答してもらった。作成された物語を3群(仕事と家庭の両立群、仕事を辞めて家庭を選択した群、葛藤群)に分類した。上記2つの尺度を従属変数、家庭を持ちたいかを独立変数とした2要因分散分析を行った。その結果、将来家庭をもちたいと回答した人の方が1%水準で「展望的性同一性」の得点が高く、5%水準で「自己一貫性同一性」の得点が高いという結果になった。また、判別分析も行った。その結果、展望的性同一性と自己一致的性同一性、人生キャリア自律性の得点が高い傾向にある学生ほど家庭をもちたいと思っている傾向にあり、他者一致的性同一性と人生キャリア計画性の得点が高い傾向にある学生ほど家庭をもちたくないと思っている傾向が見られた。
著者
米沢 美冴
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.15, pp.207-219, 2019-03

近年,10代,20代のインターネット利用率,中でも,ソーシャルメディアのひとつであるLINEの利用率が上昇している。LINEには便利な機能が備わっている一方で,「既読無視」や「未読無視」によるLINEいじめや不登校などの問題が生じている。そこで本研究ではLINEの既読無視や未読無視に対してどのような気分状態が生じるかについて,また受け手の愛着形成や送り手に対する好意との関連についても検討することを目的に,関東圏内の女子大学1年~2年生189名を対象に,フェイスシート,POMS2成人用短縮版,内的作業モデル尺度,日本語版Love-Liking尺度からなる質問紙調査を行い,記述統計,相関分析,一要因の分散分析を行った。その結果,LINE既読無視,未読無視をされた際に感じる感情と愛着とは関連がみられないこと。「どちらも不快に思わない」と答えた回答者より,「既読無視をされた方が不快」または「未読無視をされた方が不快」と答えた回答者のほうがPOMS2のネガティブな感情5因子「怒り・敵意」「混乱・当惑」「抑うつ・落込み」「疲労・無気力」「緊張・不安」を感じやすいことが明らかとなった。
著者
菊川 紗希
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.13, pp.91-108, 2017-03

本研究の目的は,女子大学生を対象にぬいぐるみ所持前後の抑うつおよび状態不安の変化を明らかにすることであった。予備調査(N=285)にて,移行対象の有無,愛着のタイプ,抑うつ得点を調査し,実験プログラムの協力者を募集した。愛着のタイプ(The xperiences in Close Relationships Inventory for The Generalized Other : ECR-GO)「恐れ型」の多さ,抑うつ得点(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale : CES-D)の高さより,予備調査協力者である女子大学生の危機的な状況,特定の愛着対象が不在である,もしくは,その関係が不安定である可能性が伺えた。介入研究(N=10)にて,X年Y月中の3週間,1日約15分間3条件を設定して,ぬいぐるみを抱く実験プログラムを行った。日常活動をせずにぬいぐるみを抱いていた期間の抑うつ得点および状態不安得点の平均値は,介入前より後に有意に下がる(抑うつ得点:t=2.832,df =9,p<.05*),また,下がる傾向(状態不安得点:t=2.127,df =9,p<.1†)にあった。介入前後において日常活動をせずにぬいぐるみを抱くことが,抑うつおよび状態不安に影響することが示唆された。
著者
三村 遥 宮崎 圭子
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.17, pp.109-123, 2021-03

本研究では、メールカウンセリングにおける繰り返し技法の効果を量的及び質的に明らかにすることを目的とした。対象者は私立X女子大学学部生102名であった。質問紙は、①心理専門職への援助要請に対する態度尺度、②ポジティブ感情尺度(pre)、③刺激文、④ポジティブ感情尺度(post)、⑤自由記述(感想文)とし、回答を求めた。対象者を4群に分け、Google formのURLを配付し回答を得た。刺激文(就職活動主訴・対人関係主訴)は、①就職活動主訴の繰り返し技法なし、②就職活動主訴の繰り返し技法あり、③対人関係主訴の繰り返し技法なし、④対人関係主訴の繰り返し技法ありとした。刺激文の返信は、学生相談室のカウンセラーが送信したという設定になっている。3要因の分散分析(混合計画)を行った結果、メールカウンセリングにおいては、繰り返し技法を使用しない方がポジティブ感情下位尺度の快適さや共感、素朴な安らぎを感じることが明らかとなった。以上のことから、メールカウンセリングにおいて、カウンセラーは繰り返し技法を多用しないことに留意することが重要である。