著者
村田 修
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学水産研究所報告 (ISSN:09117628)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-101, 1998-03-31
被引用文献数
6

養殖魚における品種改良の歴史は栽培植物および家畜のそれに比べまだ著しく短い。しかし, 水産養殖業の将来の一層の進展を計るためには, 養殖魚の品種改良によって, 成長, 外観, 肉質, 環境ストレスおよび病気に対する耐性など経済的特質の向上を期待する必要がある。このような観点から, 本研究では海水養殖対象魚として重要な数種の魚類について, 選抜育種, 交雑育種, 導入育種および倍数体育種による品種改良を行い, 作出した魚類の特性を調べそれらの養殖効果について検討した。I.農畜産物および養殖魚における品種改良の意義と歴史について述べた。II.天然マダイよりも成長の早い養殖用マダイ種苗を生産することを目的として, 選抜育種によるマダイの品種改良を試みた。すなわち1964年前後に天然幼魚を飼いつけて親魚になるまで育て, それから仔魚を得て育成し, 成長の速いものを選んで親魚とする選抜法を25年以上に亘って繰り返した。その結果, (1)選抜世代回数を重ねる毎にその4歳親魚の平均体重は増加し, 1世代目では2,000gであったものが, 6および7世代目では5,009gになった。(2)選抜マダイ種苗の成長も世代を重ねる毎に明らかに速くなり, 商品サイズの1kgに達するまでの平均日数が約320日も短縮された。(3)各世代4歳親魚の平均体重と各世代の成長曲線より求めた実現遺伝率は0.33±0.28であった。さらに, 長期間に亘り選抜育種されたマダイ種苗についてアイソザイムを遺伝標識とする集団解析を行った。その結果, 本実験に用いたマダイ種苗では, その長年に亘る継代交配にも関わらず, ホモ接合体過剰すなわち近親交配の影響は認められなかった。しかし, 1遺伝子座当たりの平均対立遺伝子数および多型的遺伝子座率の減退より, 集団としての遺伝子保有量は天然魚に比べ著しく減少していることが示唆された。このことは, 優良形質の獲得と固定化をめざす選抜育種の観点からすれば, 本学のマダイ種苗が選択育種系として遺伝的に均質化されているとみなすことができる。III.海水養殖魚類の生産効率を高めるための手段の一つとして交雑による品種改良を試みた。1.マダイ♀×クロダイ♂(以下, マクロダイと呼ぶ), マダイ♀×ヘダイ♂(以下, マヘダイと呼ぶ), イシダイ♀×イシガキダイ♂(以下, キンダイと呼ぶ), ブリ♀×ヒラマサ♂(以下, ブリヒラと呼ぶ)およびカンパチ♀×ヒラマサ♂(以下, カンヒラと呼ぶ)の特性を明らかにする目的で, これらの交雑魚の成長, 生残率, 外部形態および環境ストレス耐性などをそれぞれの親魚種と比較した。その結果, (1)マクロダイおよびマヘダイの成長は孵化後8〜10ヶ月目まではそれぞれの両親魚種よりも速かったが, 約3ヶ年目になるとマダイと他の親魚種との中間となった。(2)マクロダイの環境ストレス耐性はクロダイよりも弱いがマダイよりも著しく強がった。(3)マヘダイでは海水比重低下耐性だけがヘダイよりも弱くマダイよりも強かった。(4)外部形態や体色などから, マクロダイはクロダイに, マヘダイはヘダイに近く, いずれも父系遺伝が強いことが示唆された。(5)キンダイは, イシダイよりも速く商品サイズにまで成長した。またその生残率は両親魚種イシダイおよびイシガキダイよりも高かった。さらにキンダイの外部形態はイシダイよりもイシガキダイに近いことが分かった。(6)ブリヒラとヒラマサを比較した場合, ブリヒラの方が成長が良く, 約1年6ヶ月間養成後の平均体重はヒラマサの約2倍であった。飼料効率でもブリヒラはヒラマサ, ブリに優った。またブリヒラの高水温ストレス耐性はヒラマサとブリの中間であった。(7)カンヒラはカンパチおよびヒラマサよりも飼料効率が高く, 増肉係数は6.2となり, またその高水温および低水温に対する耐性も両親魚種より高かった。これよりカンヒラは今後の養殖対象魚として注目される。2.前節に記した各種交雑魚における産卵期の生殖腺成熟の様相を調べ, 次の結果を得た。(1)マクロダイおよびマヘダイは雌雄ともに生殖不能すなわち雑種不妊であった。(2)キンダイの雌はすべて正常に成熟し, かつ雌の割合が90%以上を占めた。一方, 雄のそれは6%にすぎないにもかかわらず, その成熟状態から生殖能力をもった正常な雄が存在することが分かった。(3)ブリヒラおよびカンヒラの成熟は親魚種のカンパチおよびヒラマサよりも容易に進むことが分かった。3.交雑魚の遺伝生化学的, 細胞遺伝学的分析を試みた。すなわち, 次の3種の交雑魚マクロダイ, マヘダイおよびキンダイのアイソザイムおよび染色体分析を行いそれぞれの両親魚種との比較を行った。その結果, (1)各交雑魚の染色体は両親魚種の半数染色体の和で構成された二倍体雑種であることが確認された。(2)イシダイとイシガキダイとの間の遺伝的距離が, マダイとクロダイおよびマダイとヘダイとのそれらよりも比較的近い位置にあることが示唆された。このような違いは, マクロ
著者
滝井 健二 石丸 克也 吉田 幸功 井上 修一 日高 久美 眞岡 孝至 谷本 文男 伏木 省三
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学水産研究所報告 (ISSN:09117628)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.11-18, 2006-03-25

飼料への自己消化酵母Hansenula anomala(Ha)の添加が,アユの飼育成績やレンサ球菌症の自然発症率に及ぼす効果について調べた。チリ魚粉をタンパク質源とした飼料に,Haを18,9および3%配合した飼料(Ha-18,-9および-3)を,体重35.7gのアユに1日4回,1週間に6日飽食給与して12週間飼育したところ,Ha-9およびHa-3区の成長および飼育成績は,対照のHa無配合飼料区(Ha-0)やHa-18区より優れていた。また,終了時におけるレンサ球菌症の発症率は,Ha配合区がHa-0区より僅かに低かった。ついで,レンサ球菌症の発症を抑えるための,Ha-3飼料の効果的な給餌法を検討するため,平均体重33.0gのアユにHa-0およびHa-3をそれぞれ連続給与する区,Ha-3とHa-0を毎日交互に給与する(Ha-3, 0)区などを設けて10週間飼育したところ,増重率はHa-3給与によって向上し,発症率はHa-3, 0区で28.6%で低く,Ha-0区の45%,Ha-3区の50%の順に増加した。以上の結果から,飼料のHa添加は成長促進だけでなく,レンサ球菌の感染防御にも効果のあることが示唆された。
著者
大家 正太郎 清水 壽一 堀川 芳明 山本 慎一 中村 元二
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学水産研究所報告 (ISSN:09117628)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.129-142, 1984-10-30

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著者
宮下 盛
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学水産研究所報告 (ISSN:09117628)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-171, 2002-03-25
被引用文献数
19

水産業における国際的重要魚種の一つであるクロマグロは, 資源量の減少から年毎に資源保護の機運が高まりつつあり, 放流および養殖用の人工種苗生産技術の開発が強く求められている。しかしながら, 本種が大洋横断回遊を行い, 親魚が巨大であることと, 擦れ易く扱い難いことから増養殖に関する研究は著しく少なく, 現在まで人工種苗を養殖用に供したという報告がない。クロマグロ人工種苗量産のためには, 安定採卵技法の確立とともに, 仔稚魚の発育に伴う総合的な基礎知見の集積が不可欠であり, これに基づいた飼育技術の開発が重要である。このような観点から, 本研究では養成親魚の産卵生態, 卵発生, 仔稚魚の発育に伴う外部形態および内部形態, 遊泳能力と減耗期などの種苗生産に関わる一連の基礎知見集積を図るとともに, 人工生産魚の養殖用種苗への実用化を試み, 各発育段階における仔稚魚の飼育技法に検討を加えた。I.1987年に採捕した天然産幼魚を親魚に養成し, 成熟および産卵を観察し, 次の結果を得た。(1)串本周辺海域での産卵期は, 6月中旬から8月中旬の約2ヶ月間と推定された。(2)自然産卵が認められた水温範囲は21.6〜29.2℃であった。(3)成熟雌個体の卵巣内の卵径組成は多峰型を示し, 産卵様式は多回性であると断定した。(4)精子は全長約35μmで, 頭部, 中片部および尾部から構成され, 硬骨魚類の一般的な形態を示した。(5)卵は無色透明, 球形の分離浮性卵で, その平均直径は0.926〜1.015mmの範囲を示し, 水温が高いほど小さくなる傾向を示した。II.採卵から孵化までの卵管理技術の基礎となる発生に伴う生物学的, 化学的変化を調べた。1.卵発生過程を観察するとともに, 発生速度, 孵化所要時間および孵化率に及ぼす水温の影響を調べ, 次の結果を得た。卵内発生の各段階は一般硬骨魚と大差なく, 水温24℃の条件下で産卵32時間後から孵化した。50%以上の正常孵化率を示した水温範囲(孵化限界水温)は21.2〜29.8℃, 最高正常孵化率および最低奇形率を示した水温は25℃付近であったことから, クロマグロ卵の最適孵化水温は25℃付近と推察した。2.発生に伴う卵の生化学成分と酵素活性の変動を調べ, 次の結果を得た。発生に伴う卵の水分, 全窒素およびリン脂質含量に変化はなかった。遊離アミノ酸含量は発生に伴って僅かに減少したが, タンパク質含量は徐々に増加した。卵割初期の主要構成成分であるトリグリセライド(TG)含量は, 嚢胚後期以降急激に減少し, 孵化直前には初期の1/3に達したことから, 主にTGを卵発生中のエネルギー源として消費することがわかった。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ, アラニンアミノトランスフェラーゼ, クレアチンキナーゼ, 乳酸デヒドロゲナーゼおよびアルカリフォスファターゼなどの活性の変動から, クッパー胞出現前後に器官の分化および形成が促進されることが示唆された。III.仔稚魚を飼育して, 発育に伴う外部形態の変化, 消化器官の形成と酵素活性の変動, 並びに体側筋の発達と酸素消費量の変動を調べた。1.初期発育に伴う外部形態の変化を調べ, 次の結果を得た。孵化仔魚の平均体長(BL)は2.83mmで, 20日目(10.6mm BL)までの成長はマダイと大差なかったが, 以後, 顕著に速くなった。孵化仔魚は約4mm BLまでに, マグロ属の前屈曲仔魚に特有の黒色素胞パターンを発達させた。マグロ類仔稚魚を同定する上で形態上の特徴として役立つ赤色素胞は4.63mm BLで躯幹部背側後部に, 以後, 尾鰭鰭膜, 下顎および下尾骨にそれぞれ出現したが, これらは体長19.72mmまでにすべて消失した。顎歯は5〜6mm BLで出現した。頭部の棘は, おおよそ7mm BLまでに発達し, 38mm BLまでに消失した。脊索末端の屈曲は6〜8mm BL(10日齢前後)で認めた。鰭条数は10mm BL(20日齢前後)で成魚と同数に達し稚魚期へ移行した。鱗の出現は27mm BLで始まった。体各部の相対成長は, 3〜4個の成長屈折点を持つ多相アロメトリーで, 前期仔魚から後期仔魚への移行期, 脊索末端の屈曲期, 後期仔魚から稚魚への移行期に, それぞれ成長屈折点の集中が認められ, 生理生態学的な変化が示唆された。2.稚魚から若魚における外部形態の発育過程を調べ, 次の結果を得た。稚魚期以降の絶対成長(平均体長)は, 既往の種苗生産魚種の何れに比べても著しく速く, 29日齢, 32.5mm;50日齢, 140mmとなり, 串本海域で毎年8月を中心に採捕される幼魚の体長200〜300mmに達するのに要する時間は約2.5カ月であることが分かった。魚体各部の相対成長は, それぞれ体長80〜100mmの間に成長屈折点が集中してみられ, これ以降多くの部位で体長に対する比率が一定となり, 成魚のそれにほぼ等しくなることが分かった。またこの頃, サバ型魚類の特徴である小離鰭の独立および尾柄主隆起縁の発現が観察され, 遊泳行動にも大きな変化が認められたことなどから, 体長80〜100mmが稚魚期から若魚期への移行期に当たることが分かっ