著者
今岡 典和
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 = The journal of the Department of Social Welfare, Kansai University of Social Welfare (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.55-60, 2009-03

戦国期の地域権力の性格の捉え方には様々な見解があるが,近年は特に「戦国大名」の概念を求める立場と,守護の概念を重視する立場が並存している.本稿では,戦国期の地域権力における守護職・守護権の意義を重視する立場から,その意義について改めて論じ,さらに具体例として越前朝倉氏を取り上げ,朝倉氏における守護職・守護権の意義について検討した.朝倉氏は,応仁の乱の時に越前守護代となり,長享・延徳の相論で斯波氏との間で越前の支配権と自らの家格をめぐって争い,その後守護家として幕府から認定されるにいたる.戦国期においては,守護権(国成敗権)は守護家という家によって体現されるのが大きな傾向であり,朝倉氏も守護家として認定されることと越前の支配権は深く結びついていた.そこに,戦国期の地域権力の中でも守護家を独自の存在として捉える意義が存するであろう.
著者
藤岡 純一
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 = The journal of the Department of Social Welfare, Kansai University of Social Welfare (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-14, 2014-09-20

本稿は,生活権を基軸にすえて,現代におけるスウェーデンの福祉財政の特徴を究明することにある.スウェーデンは世界で有数の福祉国家として知られ,GDP に占める社会支出が最大の国のひとつである.近年,フランスやデンマークに後塵を拝しているが,依然として高い水準にあり,財政の効率化を進めながらも,社会支出の額は増加し,福祉国家を堅持している. 財政は,基本的人権のうち社会権,すなわち,生存権,教育権,労働権,環境権を,人々の生活権として保障する経済的基盤である.本稿では,福祉財政ないし生活権財政を,財政学,社会福祉学,そして憲法上の規定から位置づけている.そして福祉を人々のwell-being として広く捕らえている. OECD によると,スウェーデンは幸福度(well-being)の高い国で,平等度も世界で最も高い国に属する.財政はそのすべての要因ではないが,重要な要素と位置づけられる.近年,社会的に排除されてきた人々を,コミューン(市)が協同組合やNPO を共同で包摂する取り組みが進められている.現代の財政を研究するとき,生活権を基軸にすえるとともに,社会的包摂の観点も不可欠になっている.
著者
半田 結
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 = The journal of the Department of Social Welfare, Kansai University of Social Welfare (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.31-42, 2016-03-25

本論は,『日本絵巻大成』を手掛かりに,わが国で最初期の絵である絵巻に描かれた病の絵を分析し,病の図像の意味と意義について述べ,病の図像は古代中世の我々の祖先が生き延びていくためには必要欠くべからざるものであったことを明らかにしている.絵画は仏教と共に伝えられたため,その歴史は,礼拝の対象である仏画として描かれることに始まる.平安後期になるとわが国独自の文字や絵の描き方が生まれる.このころから貴族階級や仏教関係者を中心に絵巻が盛んに制作され,鎌倉時代には武家から庶民階級にまで広がっていく.この時期の絵巻を集めたものが『日本絵巻大成』である.ここに描かれた病の図像を抽出・分類して,その描かれ方を整理した.その結果,当時の病の概念は広く曖昧なものだったこと,姿の見えない曖昧な病に対応するには病を可視化した絵がふさわしかったこと,見えない病を描く図像には病の原因と共に仏の御力が描きこまれていること,病を取りまく多数の人々の存在は様々なレベルでの病への関わり方があることが明らかになった.病という個人の体験に形を与えて普遍化し,共有することは,芸術の機能であるとともに,社会の一員として生きる大きな支えであったと結論づけている.