著者
古川 典代
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.3, pp.1-16, 2014-03

「文化は経済力の強いほうから弱いほうへと流れていく」という。日中間の音楽のカバー情況からしても、過去には日本の流行曲が数年後に中国語(北京語、広東語、台湾語)にカバーされることが多かった。ところが昨今は、カバーソングに時差が無くなった。日本で流行っている曲がネットの活用により同時期に中華圏でも中国語で流れるようになった。さらに近年では、中国語曲の日本語カバーも散見されるようになり、一方通行だった文化の流動が、時差なく双方向となった。これは両国にとってより豊かな音楽シーンを味わえるという意味で福音である。2007 年から始まった「全日本青少年中国語カラオケ大会」および、2010 年から始まった「西日本地区中国語歌唱コンクール」においては、出場者の選曲がこれまでに多かったカバーソングから、現地の若者に人気の楽曲へと変遷し、同時代同時並行で日本人の若者にも歌われるようになった。かくも情報がワールドワイドに流れ、中国語の歌が溢れるようになった現況においては「中国語で一曲!」はもはや日常のワンシーンと言える。本稿では日中カバーソングの歴史と変遷、歌による語学教育の効用および歌をテーマとした語学学習テキストの日中比較を論じる。
著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.8, pp.31-42, 2019-03

Boys Love をテーマとするマンガは、過激な性行為を描きながらも、男性向け成人マンガとは明らかな相違を見せる。性行為の場面において、男性向けマンガが常に女性の裸を提示することに専心するのに対して、BL ジャンルは〈受け〉と〈攻め〉の両方の身体を描写する。これは女性が両者に感情移入可能な性であるばかりでなく、〈攻め〉=男性としてふるまいたいという欲望を持っていることも示している(ファルス願望)。この欲望は、精神分析学的には、〈父〉の登場によって母の独占を禁じられた女児が、父に「変身」することによって、父が母を所有していたように母を得ようとしているのだと考えられる。しかし、母と同じ性である彼女にそれがかなうはずがない(=彼女がまとっている父の性は「仮装masquerade」でしかない)。そこで、娘は性的体制が確立する以前(=前エディプス期)の母との関係の回復を目指す。そうすることで、彼女は母との合一を果たし、性器体制の外にある愛を成就しようとする。ここにBL ジャンルが同性愛をテーマとした理由がある。女性達は、ファルス願望の実現を通して、実は「非性」という「同性愛homosexual」の物語を楽しんでいるのである。
著者
マレット ピーター J.
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.6, pp.37-47, 2017-03

ジェーン・オースティンは、作品名にもなっている主人公、エマについて、「私以外だれも好きになれそうにないヒロイン」と書いている。このように、文学作品では好感が持てるとは言い難い語り手や人物が登場する場合も多い。『嵐が丘』のヒースクリフ然り、さらには『ジーキル博士とハイド氏の怪事件』のハイド氏、『ロリータ』のハンバート・ハンバート、『華麗なるギャツビー』のジェイ・ギャツビー、『日の名残り』のスティーブンス、そして『ソーラー』のマイケル・ビアードもまた然りである。本稿は、2016 年10 月30 日に徳島大学で開催された第9 回Japan Writers Conference (JWC) で発表しており、今回は人から好かれにくい人々が登場する作品がどのように成功をおさめ、主人公が魅力的でないにもかかわらず、なぜ読者が物語に引き込まれるのかを考察する。"I am going to take a heroine whom no one but myself will much like," wrote Jane Austen of her eponymous protagonist Emma. Literature is populated with narrators and main characters who are not likeable: Heathcliff (Wuthering Heights), Mr Hyde (The Strange Case of Dr Jekyll and Mr Hyde), Humbert Humbert (Lolita), Jay Gatsby (The Great Gatsby), Stevens (Remains of the Day) and Michael Beard (Solar). This paper, originally presented at the 9th Japan Writers' Conference at Tokushima University on 30 October 2016, will examine how the novels in which these characters appear achieve success, and why we care what happens, despite the unlikeable protagonists.
著者
秋本 鈴史
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-15, 2015-03

ここに紹介するのは、大正8 年から昭和3 年までの大阪の芝居の絵入役割番付43 種である。本学図書館に寄贈するにあたり、目録と共に資料の紹介を行い、近代歌舞伎や近代演劇などの研究資料として活用されることを願う次第である。本稿では次の3 つの側面を中心にして紹介する。第1 はこの時期、東京の歌舞伎界が歌舞伎座を中心に災害で混乱していたことであり、第2 は近松門左衛門の200 年忌の記念行事の時期にあたることである。さらに第3 として歌舞伎と大衆演劇・活動写真(映画)などとの関係などについても考えたい。The Forty-three kinds of Kabuki Banzuke of Osaka with pictures, from 1919 to 1928, which are all donated to the University Library by the author, are discussed in this article. The discussion focuses on the three facets of the situation surrounding the Banzuke. First, the period between 1919 and 1928 was an era when the Tokyo kabuki scene was still struggling in the chaos after the Kanto Earthquake. Second, the period conincides with the two hundred-year memorial of Chikamatsu Monzaemon, a prominent playwright in the Edo period. Finally, one could analyze the Banzuke in the light of the relationship between kabuki and the popular theater or movies.
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.2, pp.19-34, 2013-03

本稿は、借用語の無声摩擦促音に見られる非対称性に関与する物理条件を明確 にし、それが音韻知識と音声実現のフィードバックループの中でどのように機 能しているかを議論したものである。結論として、摩擦成分に含まれる極周波 数遷移の重要性を実験によって検証し、それが音韻境界の手がかりとなることを主張する。