著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.105-150, 2018-03-05

日本語に音節構造が存在するかという問題については、これまでに多くの議論がなされてきた。Labrune (2012) は日本語に音節が存在することを否定しているが、窪園・本間(2002) や川原(2014) は、日本語に音節が存在する多くの証拠を提出している。この問題に答えるため、本研究は撥音・促音・長音を含む付属モーラの構造と素性に注目した。結論として、付属モーラは“C/V”スロットを持っておらず、付属モーラの異音を引き起こす要因はコーダ位置という性質であることを述べる。このことは、日本語がモーラの上位構造として音節を持つことを示す。さらに、促音は空のスロットではなく、撥音と同様に基底形の段階で音韻情報を持っていることを提案する。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.20, pp.89-126, 2017-03

差異の体系は分節音の構造に本質的な役割を果たす。しかし、要素理論で使われる音韻要素は、こうした体系を直接的には表現できない。そこで本稿では、C/D モデル(藤村2007) に立脚しながら、差異の体系を支える音韻要素の内部構造について検討を行う。The system of distinction plays an essential role in the structures of segmental sounds. The phonological elements of the Element Theory, however, cannot expresses the system of difference directly. This paper explorers the inner structures of the phonological elements that support the system of distinction from the view point of the C/D model (Fujimura 2007).
著者
松井 理直
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.55-69, 2015-08-30 (Released:2017-08-31)

The C/D model (Fujimura 1992, 2007) is an explicit framework that calculates the continuous physical gestures and quantitative phonetic information of speech sounds from the input data which consist of the qualitative phonological information. Fujimura proposes that this input information is given in the form of a syllable-based set of unary and underspecified phonological features rather than a set of binary features used by many phonological theories. This study argues for the structure of the syllable-based input information with 'mora sets', and representations of unary features that define the qualitive characters of the impulse response functions. This argument is developed based on a discussion of vowel devoicing in Japanese.
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.17, pp.67-106, 2014-03

日本語の有声破裂音における声立ち上がり時間(Voice Onset Time, VOT) の分布は、しばしば双極的な性質を持つ。2つの分布ができることを説明する1つの可能性として、声帯振動の開始時点を決める基準点が1つではなく、2つあることが考えられる。例えば、1 つは破裂音の開放時点、もう1つは子音・母音間の音韻境界を過程できよう。本稿は、この子音・母音間の音韻境界が日本語の母音無声化、阻害音の有声性、借用語における促音挿入/促音抑制といった様々な音韻現象に影響することを考察する。また、最後に、母音・子音間の音韻境界に基づくモデルが、VOT の分布をよくシミュレートできることを述べる。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:24352918)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.49-56, 2020-03-05

本研究では,C/D モデルの観点から日本語音声の時間特性について概観する.結論として,基底状態におけるモーラの重要性および基底状態に対するある固有の子音が持つ等時間性の性質について述べる.
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.19, pp.57-100, 2016-03

弁別素性の概念はローマン・ヤーコブソン以降、様々な形で研究されてきた。近年でも、弁別素性間の階層理論や過小指定、最適性理論における入力情報の完全指定と多様性といった形で議論が続いている。その中で、これらの概念が持つ多くの利点と、いくつかの問題点が明らかにされてきた。例えば、ソシュールの言う「差異の体系」に関する表示の問題や計算システムの並列性/直列性に関わる問題などが挙げられるであろう。その中で、統率音韻論などの要素理論で採用されている「音韻要素(phonological elements)」は、過小指定や素性階層の性質を反映すると共に、表示の完全性という点でも、離散的カテゴリーとプロトタイプカテゴリーの統合という点でも、こうした問題をクリアできる利点を持つ。しかし、その内部構造については十分な議論がなされていない。本稿では、C/D モデル(藤村2007) に立脚しながら、要素理論における「閉鎖要素」と「摩擦要素」の性質について検討を行う。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.2, pp.19-34, 2013-03

本稿は、借用語の無声摩擦促音に見られる非対称性に関与する物理条件を明確 にし、それが音韻知識と音声実現のフィードバックループの中でどのように機 能しているかを議論したものである。結論として、摩擦成分に含まれる極周波 数遷移の重要性を実験によって検証し、それが音韻境界の手がかりとなることを主張する。
著者
上田 功 松井 理直 田中 真一 野田 尚史 坂本 洋子 三浦 優生 安田 麗
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度の研究成果は大きく4つの領域に分けることができる。最初は音声産出の生理面である。松井は自閉症児に見られる外国語様アクセント症候群と呼ばれる障害に関して、ほぼ純粋にこの障害のみを引き起こしている言語障害者1名を対象に、その特徴と脳内機序に関するケーススタディを行った。行動レベルでは有アクセント語についてはほとんど誤りがなく、無アクセント語が有アクセント語に変異するというパターンが多くを占めること、またその時のアクセント核の位置が多くの場合に ディフォールトのアクセント位置 (後部から 2 モーラないし 3 モーラ目) に生じることが明らかとなった。続いて成人の外国語訛りとの平行性に関する研究領域で、野田は非母語日本語学習者の読解過程を調査し,どこをどのように読み誤るのか,わからない部分をどのように推測するのかを分析した。また,読解時に辞書を使用しても,適切な理解に至らないケースも分析した。このような読み誤りや辞書使用の問題点の中には,発達障害児に見られるものと共通するものもあると考えられる。田中は韓国語を母語とする日本語学習者の誤発音について、とくにリズム構造に焦点を当て分析した。韓国語話者が目標言語(日本語)における有標のリズム構造を極端に避けるのに対し、無標のリズム構造を過剰産出することを明らかにした。上記の分析結果をもとに、リズム構造の有標性と自閉症スペクトラム児のプロソディー産出との並行性について考察した。安田は日本人ドイツ語学習者の声帯振動制御に関して、音響的分析を前年度に引き続きおこなっている。次に三浦は語用論的側面に関して、小学生児童を対象にプロソディの特徴について、コーディングを行っている。最後に臨床応用面では、坂本がロボテクスの教育への導入が、学習不安の軽減に繋がる可能性を発見し、自閉症児の学習においてロボットを活用できる可能性を見いだしている。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:24352918)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.27-44, 2021-03-05

日本語の開拗音に関する解釈には、“CjV”,“CjV”,“CiV”という可能性が存在する。音韻情報としては、一般的に/CjV/と捉えられることが多い。音声情報としても、Nogita (2016)およびHirajama&Vance (2018)は[CjV]という構造が妥当である根拠を提出している。本研究では、コーパスや調音運動に関する生理学的データの性質から、拗音の音声情報について検討を行った。測定の結果、先行研究と同じく開拗音は[CjV]構造を持つと考えるのが妥当と考えられる。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-82, 2002-03-21

情報の構造化は、認知機構の処理する情報のエントロピーの減少として捉えることができる。情報が構造化されるにつれ、エントロピーが減少し、探索に必要な範囲が限定されていく。こうした認知機構の情報構造化過程を形式的に表現する方法の一つに、タイプ継承という手法がある。本研究は、主辞句構造文法 (HPSG) における音韻情報の構造と制約の相互作用を、タイプ継承という点から議論したものである。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究i委員会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.53-83, 2015-03-05

日本語の東京方言では、無声子音に挟まれた狭母音や語末にある狭母音がほぼ義務的に無声化を起こす。この無声化母音については、母音が残存しているかそれとも脱落しているのかという点で多くの議論がなされてきた。本稿では、日本語の母音無声化は音声学の観点からも母音脱落ではないことを主張する。また、この音声過程が素性指定やC/D モデルなどによって適切に説明できることを見る。
著者
松井 理直
出版者
大阪保健医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

関連性理論の中心的な概念である関連性の認知原理および関連性の伝達原理のうち、認知的関連性の数学的性質について研究を行った。その結果、回帰係数の特性を持った多値論理の枠組みが適切であり、情報の既定性と関連性が日常推論や日本語の様々な条件文の理解過程に重要な影響を与えていること、また各種認知バイアスが特に否定情報のフレームの大きさに強く影響されていることを明らかにした。また、この主観的確率の生成過程に関する数学的性質から、先入観や固定観念といった誤りの信念形成や、事実であっても信じられない現象について、その事実を排除してしまう数学的な性質の一部も解明できた。
著者
田窪 行則 有田 節子 今仁 生美 郡司 隆男 松井 理直 坂原 茂 三藤 博 山 祐嗣 金水 敏 宝島 格
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

日本語共通語、韓国語、英語、琉球語宮古方言のデータにもとづいて、日常言語の推論にかかわるモデルを構築し、証拠推論の性質、アブダクションによる推論と証拠推論との関係を明らかにした。時制、空間表現、擬似用法と推論の関係を明らかにした。関連性理論を用いた推論モデルの構築に関して推論の確率的な性質について研究を行い、一般的な条件文と反事実条件文の信念強度を共通の計算によって扱える計算装置を提案した。
著者
松浦 年男 松井 理直
出版者
北星学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題では日本語の諸方言における有声阻害重子音の音響音声学的実現ならびに形態音韻論的分布について明らかにしてきた。特に天草市の諸方言における実態を詳しく調査し,同じ形態論的環境でも地域によって有声阻害重子音で実現するか否かが異なることを明らかにした。また,山形市周辺部についても調査を行い,声帯振動の実現が九州(天草)と異なることを明らかにした。さらに,九州地方の複数の地点において語根複合(助数詞,二字漢語)で有声阻害重子音が見られるかを調査し,一部の地域において生産性が高いことを指摘した。
著者
西垣内 泰介 郡司 隆男 松井 理直 松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、「焦点」とスコープに関わる言語現象を取り上げ,形式化の整った統語論・意味論・音韻論の方法で理論的に分析するとともに,音声実験や言語コーパス調査などによって理論的考察を実証することを目的とする。具体的には,主題文,(指定的)分裂文など,様々な構文にあらわれる,いわゆるWH(疑問)要素,量化表現,否定対極表現などスコープに関連する統語・意味的要素と,イントネーションなど「焦点」に関する多様な音韻的要因の間の相互関係を分析し,統語論・意味論と音韻論との密接な関係を明らかにする。また,理論的背景の下にデザインされた音声実験を用いて,その結果を文法的分析の中に組み込んでいく。関連する言語事象の方言などによる言語変異について考察する。
著者
西垣内 泰介 郡司 隆男 松井 理直 シュペルティ フィリップ 松田 謙次郎 EMONDS Joseph
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

レキシコンと文法の制約について、文法論、形態論、意味論、音声音韻の各分野で理論的研究を行い、国会議事録などの発話コーパスを用いて実証的な研究を行った。具合的には述語の語彙的特性と再帰表現の単文内での束縛関係といわゆる長距離束縛の関わり、…を示した。平成20 年度の最後にあたってレキシコン、文法の制約が同一指示の現象に関与する諸相についての国際ワークショップを行った。