著者
大出 良知
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

わが国における刑事弁護は、明治初年に治罪法(1880年)によって近代的な刑事手続が導入されると同時に制度確立への第一歩を踏み出すことになった。とはいえ、公判段階(治罪法、旧々刑訴法)だけか、せいぜい予審段階になって(旧刑訴法)選任が認められていただけであり、官選弁護も限定されていた。これに対して、戦後改革は、日本国憲法34条、37条によって、被疑者段階からの弁護人依頼権を保障し、被告人に限定のない弁護士による国選弁護権を保障することになった。しかし、現行刑訴法が、被疑者段階からの弁護人「選任」権を保障したにとどまるかのような規定を置き、複疑者段階の国選弁護の規定を置かなかったこともあって、被疑者段階での弁護人選任率は、確たる統計数値はないものの低率にとどまっていたことは間違いない。そのことが、自白偏重捜査を消極的にであれ支えていた。それゆえ、学説は早くから当事者主義刑事訴訟法理論の体係化とともに、解釈論として被疑者段階の弁護権の伸張を主張してきた。自由接見交通の原則と取調立会権であり、その実効性を担保するための憲法の解釈可能性を前提とした被疑者国選弁護の導入である。これらの主張は、司法の危機といわれた司法状況の展開と弁護士の状況から生まれた「刑事弁護離れ」によって実践的には顧みられなかった。しかし、死刑確定囚4人までもが無罪であったというわが国の刑事手続の実情の打開に刑事弁護の充実・強化が不可欠であるとの認識の広がりが、日弁連刑事弁護センタ-を発足させ、当番弁護士制度を生むことになった。本研究は、このような状況変化までの経緯を総括し、その上で憲法34条、37条を基礎とした、刑事手続の全場面での弁護人の援助を可能にする解釈論を追求したものであり、その可能性を示している。

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こんな研究ありました:刑事弁護の理論と実践的課題についての研究(大出 良知) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/02620024

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