著者
柴田 純祐 川口 晃 江口 豊
出版者
滋賀医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

近年、癌の浸潤、移転に関する因子として、各種接着因子やプロテアーゼが注目されている。urokinase-type plasminogen activator(u-PA)はセリンプロテアーゼの一種で、plasminを介してpro-collagenaseを活性化し、細胞間基質を溶解することで癌の浸潤、転移に関与しているものと考えられている。本研究は、消化器癌手術切除標本を用いて、免疫組織化学染色法及びin situ hybridization法により、u-PAを中心とする線溶因子の発見と局在及びその臨床的意義について検討した。その結果、ヒト消化器癌において、u-PAは癌細胞自身が産生しており、その発現率は、食道癌で15例中1例(6.7%)と低く、胃癌では111例中44例(39.6%)、大腸癌で145例中48例(33/1%)であった。さらに、大腸癌u-PA陽性症例では有意にリンパ節転移率が高く、また、胃癌及び大腸癌のu-PA陽性症例で、5年生存率は各々有意にu-PA陰性症例と比し低かった(51.0% VS 77.5%:胃癌、60.2% VS 80.9%:大腸癌)。一方、u-PAの抑制因子である plasminogen activator inhibitor(PAI)の免疫組織化学的検討では、大腸癌において癌細胞周囲近傍の線維芽細胞に、PAI-2は胃癌、大腸癌において癌細胞自身に局在していた。さらに、PAI-1は大腸癌のリンパ節転移を抑制する傾向が、PAI-2に関しては、胃癌、大腸癌の5年生存率において、u-PA陽性PAI-2陰性例が最も予後が悪く、u-PA陰性PAI-2陽性例が最も良かったことより、PAI-1、PAI-2は、癌の浸潤、転移機構を抑制する可能性が示唆された。現在、消化器癌手術は、根治性とquaality of life (QOL)の立場より、拡大あるいは縮小手術の方向にあり、その指標として、真の悪性度、つまり生物学的悪性度が求められている。そこで、術前の組織生検、あるいは手術切除標本におけるu-PA、さらにPAI-1、PAI-2の発現を組み合わせて生物学的悪性度の一指標とし、術式、あるいは術後の化学療法を含めた集学的治療を行う臨床応用が期待される。

言及状況

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こんな研究ありました:食道癌 胃癌の浸潤、転移における局所線溶活性と生物学的悪性度についての検討(柴田 純祐) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/04670776

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