著者
大清水 裕
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は研究計画の最終年度であり、これまでの研究をまとめ、公開することに精力を傾けた。他方、研究計画に沿って小アジアの諸遺跡、特にエフェソスやアフロディシアスの調査も行なっている。まず、学会での口頭発表としては、5月の日本西洋史学会第61回大会で「『マクタールの収穫夫』の世界-3世紀北アフリカの都市参事会の継続と変容-」と題した報告を行なった。「マクタールの収穫夫」とは、チュニジア中部の高原地帯に位置する都市マクタールで発見された3世紀後半の墓碑に登場する人物である。この碑文は、現在、ルーヴル美術館の所蔵となっており、2010年5月に行なった実地調査の成果を交えて報告を行なった。従来、「3世紀の危機」を反映したものと扱われてきた有名な碑文だが、その内容だけでなく、碑文の刻まれた石の形状や遺跡のコンテクストも含めてその位置づけを見直し、「危機」とされる時代の再評価を行なっている。次に、雑誌等に発表したものとしては、「マクシミヌス・トラクス政権の崩壊と北アフリカ」(『史学雑誌』121編2号、2012年2月、1-38頁)がある。この論文では、238年の北アフリカでの反乱で殺害された人物の墓碑の再評価を行なった。従来、その文言から、親元老院的な都市名望家とされてきたこの人物を、その石の形状や発見地などの情報をもとに、帝政期の北アフリカ独自の文化環境に生きた人物として描き出している。また、Les noms des empereurs tetrarchiques marteles: lesinscriptions de l'Afrique romaine,Classica et Christiana,6/2,2011,549-570も公表されている。四帝統治の時代の碑文から皇帝たちの名前が削り取られた理由を検討したもので、従来想定されてきた理由とは別に、碑文の刻まれた石の再利用という目的を重視するよう指摘した。遺跡での現地調査としては、今年度は9月にトルコの諸遺跡を訪れた。その成果は、今後何らかの形で公開していきたいと考えている。

言及状況

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こんな研究ありました:「碑文習慣」の衰退に見るローマ社会の変容(大清水 裕) http://t.co/cH2FckXgt4

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