著者
堀井 健一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

18世紀末から19世紀初頭にかけてのギリーズ『古代ギリシアの歴史』とミトフォードの著作『ギリシア史』におけるクレオンの記述の仕方を見れば,2人は明らかにアテネ民主制がデマゴーグに操られた衆愚政治であるかのように記述していることが分かる。また,アメリカ建国期の『フェデラリスト』の記述においてはクレオンなどの政治家の名前は登場しないものの,アテネ民主制が感情的な大衆による愚かな政治であることが度々指摘されている。従って,18-19世紀の英米の歴史家や政治家は概して,アテネ民主制を衆愚政治と見ていたに違いない。他方では,ギリーズやミトフォードが史料として参照したはずの古代ギリシアの歴史家トゥキュディデスによるクレオンに関する記述を検討すると,やはり彼が明らかにデマゴーグぶりを発揮しているとは読み取れない。他方では,古代ですでにクレオンは同時代人のアリストファネスの諸喜劇の中で嘲笑の的になったし,それらの作品をギリーズらの近代人は知り得ていた。それゆえ,ギリーズやミトフォードの著作にみられるクレオンのデマゴーグぶりには明らかにアリストファネスの諸喜劇の影響がうかがえる。だが,アリストファネスの諸喜劇は,ソクラテスの事例に鑑みれば,喜劇作品であるがゆえに問題がある。それゆえ,政治家クレオンについて,歴史家は,その真相を喜劇作家に求めるべきではなく,トゥキュディデスの史料に求めるべきであるので,ギリーズやミトフォードにおける政治家クレオンの像は再検討の必要があろう。かかる再検討の作業を行なうならばクレオンが彼らが描くほどデマゴーグではなかった可能性が見出せるかもしれない。

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