著者
川那部 和恵
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

日仏の中世末期とは、いずれにおいても、聖と俗の関係性がとりわけ強く人々の意識を捉えた時代であったが、当時の文学や演劇はその表出の一端を担っている。本研究の目的は、フランスと日本の中世末の聖俗をめぐる精神風土のありようを、アルヌール・グレバンの『受難の聖史劇』(15世紀中期初演)をはじめとするフランスの聖史劇と、世阿弥の一連の能楽論(『風姿花伝』『至花道』等)を対象として、とくに両者においてそれぞれに聖俗の観念に包括的に係わる根本的イメージとして提起されている「花」もモチーフに焦点を定め、双方の「花」の比較をとおし、相違と協応による相互対照の視点のもとに捉え直すことであった。その成果を総括すれば、これらフランスと日本の宗教家と能芸家の言説に現れた「花」は、まずは前者では「愛」を媒介とする聖と俗の交流の概念の表出であるとすれば、後者では「美」を軸とした俗から聖への超越性のイメージを担っており、この点において、各々のジャンルの根ざす文化的背景が起因の違いが認められるが、しかし視点を引いて、両者をそれぞれの内容に準じて、神の救済成就にみる予定調和の運行であれ、あるいは芸的求導行程であれ、いわば巨視的な時間の流れの中で眺めるならば、両者とも包括的には聖・俗の和合と調和の志向において照応しているのであり、聖と俗の間の遠大な循環運動に組み込まれた異次元空間の表象としての「花」というのが、協応点として確認された。

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こんな研究ありました:日仏中世末演劇における聖と俗の関係性の歴史的比較研究:「花」のテーマを中心に(川那部 和恵) http://t.co/XBUsnuqEz1
こんな研究ありました:日仏中世末演劇における聖と俗の関係性の歴史的比較研究:「花」のテーマを中心に(川那部 和恵) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/13610606

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