著者
濱中 春
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今年度は、1800年頃の教育書や医学書における庭園や造園に関する記述を収集し、分析した。主要なテクストは、十八世紀の教育学の重要な潮流を形成するとともに、デッサウという、当時のドイツにおいて庭園文化が先進的に発展した場所を基点とする汎愛主義教育関連の著作である。それらの言説における庭園の位置づけの特徴は、教育の一環としての造園や園芸作業および植物学という側面がクローズアップされていることである。それは具体的には、当時の教育学や医学において論争されていた子どもの性教育、とくにオナニーの問題に関連し、汎愛主義教育においては、庭園の植物を性教育の材料とすることや、造園や園芸作業をオナニーの防止手段とすることが示されている。十八世紀にはしばしば、子どもは植物に、教育はその栽培にたとえられているが、汎愛主義教育には、その子どもの身体という自然を訓育するために庭園という自然が利用されるという、「自然」の二重の規律化が見出される。なお、現在はこれらの考察結果を論文としてまとめる作業を行っており、その成果を学術雑誌に発表する予定である。三年間の研究を総括すれば、1800年前後のドイツにおいては、「自然」という概念が、自然環境だけではなく、身体、健康、子どもなど多様な対象にわたって適用されている。それは、悪しき文明の対極としてポジティヴな価値を持ち、かつ人間による制御の対象でもあるという両義的な概念である。風景庭園という人工的につくりだされた自然の空間は、まさにそのような両義的な自然概念を具現化した空間であり、そこに、もう一つの「自然」である身体(健康や子どもの身体を含む)の問題系が交差することによって、この時期の庭園観に身体性のさまざま局面が浮上してくることになったということができる。

言及状況

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こんな研究ありました:1800年前後のドイツの庭園文化における身体性に関する研究(濱中 春) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/15720059

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