著者
宮宅 潔
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、張家山漢簡「二年律令」をはじめとした新出法制史料を中心としつつ、中国辺境地域から出土した木簡史料にも依拠して、秦漢時代の刑罰制度、爵制、地方統治制度などに改めて考察を加えた。刑罰制度については、主に労役刑制度に焦点を絞り、数種類の無期労役刑が労役の強度という単一の基準によって段階づけられていたのではなく、家族・財産の没収の有無、刑徒の地位が子孫に継承されるか否か、といった複数の条件の相違によってそれらの軽重が定められていたことを明らかにした。同時に、没収制度が前漢文帝期に廃止されていることに着目し、この時代に無期労役刑が消滅し、すべての労役刑に刑期が設けられたことの背景、意味についても新たな見方を提示した。文帝期はまた、漢帝国の地方制度にも変革が起こった時代、具体的には諸侯王に対する締め付けが強化され、郡県制を通した全領土の直轄統治に向けて舵がきられた時代と考えられてきた。だが「二年律令」に見える諸侯王関連の規定は、必ずしも皇帝と諸侯王たちとの、不断の緊張関係が存在したことを明示するものではない。少なくとも文帝期には、諸侯王国の存在を前提とした地方統治が志向されていたものと考えられる。爵制に関していえば、「二年律令」には有爵者の特権を規定した条文が数多く含まれる。従来の爵制研究では、中国での研究は特権の存在を自明のこととして捉える傾向にあった一方で、我が国においては爵の持つ本質的な意義はそれら特権とは別の部分にあるとの所説が有力であった。改めて「二年律令」の諸規定を検討すると、確かにその中には実効性のない、やがては空文化したであろう特権も含まれるものの、いくつかの特権は確かに存在していた。それらが有爵者の社会的地位を規定し、君主への求心力を生み出していたと考えるべきである。

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こんな研究ありました:張家山漢簡による中国漢代制度史の再検討(宮宅 潔) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/16520415

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