著者
池本 敦
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

必須脂肪酸にはリノール酸やアラキドン酸に代表されるn-6系列及びα-リノレン酸やEPA・DHAなどのn-3系列の2つが存在する。アラキドン酸からは様々な生理活性を持つホルモン様物質が産生されるが、その一つである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は、脳内でカンナビノイド受容体(CB1)を活性化する内在性リガンドであることが報告され、CB1を刺激すると食欲が亢進することが報告されていた。この過程に及ぼす食事必須脂肪酸バランスの影響を調べたところ、n-6/n-3比が高いと脳内2-AG含量が増加し、ラットの摂食行動が促進されることが分かった。2-AGの作用に対して拮抗抑制的に作用するCB1アンタゴニストであるSR141716Aを投与すると、摂食行動の亢進は抑制された。また、脂肪細胞の分化に及ぼす多価不飽和脂肪酸に影響を見たところ、飽和・一価不飽和脂肪酸及びn-6系列多価不飽和脂肪酸は分化を促進した。一方で、n-3系列多価不飽和脂肪酸のDHAは脂肪細胞の分化を顕著に抑制することが示された。マウスを用いた動物実験でも、飽和・一価不飽和脂肪酸やn-6系列多価不飽和脂肪酸を多く含有した動物性脂肪や植物油を摂取した場合と比較して、n-3系列多価不飽和脂肪酸であるDHAを豊富に含有する魚油を与えた場合には、脂肪組織の重量が低い値を示した。以上のように、n-3系列脂肪酸を多く摂取し、食事必須脂肪酸のn-6/n-3比を低下させると、食欲を抑制するのと同時に脂肪細胞の分化や脂肪蓄積を抑制することで、肥満症の予防に有効であることが分かった。このことは人を対象とした食事調査でも確認され、飽和・一価不飽和脂肪酸やn-6系列多価不飽和脂肪酸を多く含有した動物性脂肪・植物油や肉類を多く摂取する食習慣を持つ人は、魚介類を多く摂取する人と比較して肥満度が高い傾向が観察された。

言及状況

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アラキドン酸から生じる『2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)』 これはカンナビノイド受容体(CB1)の内在性リガンドです CB1を刺激すると食欲が亢進します このとき ω6/ω3が高いほど、脳内2-AGが増え、食欲が亢進するそうな https://t.co/hsWPZt8rPx

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