著者
田中 聡
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究はバーチャルリアリティ(VR)技術を利用し仮想環境内で運動療法を行い,健康心理学的にその影響を検討することである。VR運動療法とは,テニスや卓球,スノーボード,空手(瓦割り)時の各動作を利用し,スクリーンに映し出される仮想のスポーツ場面に対して身体運動を行うものである。対象は健常大学生30名(平均年齢22歳)と高齢者10名(平均年齢81歳)とした。大学生群は「VR卓球を用いたラケットスイングを行う上肢運動」と「単調な肩関節の反復運動」(両運動の関節運動方向と可動域は近似)時のPOMS(profile of mood states)及びストレスの定量評価として唾液アミラーゼ活性値測定と心拍数変動(R-R間隔)を計測した。高齢者群はVRスポーツを3ケ月間(1ケ月平均12回施行)行い,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),抑うつ、不安評価としてHADS(Hospital anxiety and depression scale),気分評価としてPOMSを測定し,加えて身体機能として筋力,立位バランス,重心動揺,歩行能力を計測した。その結果,大学生群では唾液アミラーゼ活性値は両運動とも有意な変化を示さなかった。R-R間隔変動では,反復運動時交感神経系の活動が有意となり心理的ストレスを与えている可能性が示唆されたが,VR卓球では自律神経活動の大きな変化は示さなかった。POMSではVR卓球を行った場合に正の気分が高く,負の気分が低い傾向を示し,VR環境下での運動はストレス発生を抑制できる可能性が示唆された。高齢者を対象にした16週間のVR運動療法の影響は,身体機能には大きな変化は認めなかったが,抑うつ感や不安感は平均点が改善しHDS-Rスコアは有意に改善した。VRを用いた運動療法はアミューズメント性を有し,かつ不安感や抑うつ感,軽度の認知症の改善に働きかける可能性が示唆された。

言及状況

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こんな研究ありました:仮想環境における運動療法の健康心理学的な解析手法に関する研究(田中 聡) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/18500553

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