- 著者
-
安井 裕之
吉川 豊
廣村 信
- 出版者
- 京都薬科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2008
数種類の亜鉛錯体について、配位子・錯体の合成、物性解析、インビトロ実験(ラット遊離脂肪細胞、マウス由来3T3-L1培養脂肪細胞、ラット小腸由来α-グルコシダーゼ、ブタ膵臓由来リパーゼ)による活性評価、実験モデル動物を用いたインビボ実験による検討を行った。その結果、天然物であるトロポロンの誘導体を配位子とした亜鉛錯体の中に、従来と比較してより高い血糖効果作用を有する高活性のチオトロポロン亜鉛錯体を見出した。さらに、経口投与による高い血糖降下作用が見出されたチオトロポロン亜鉛錯体に関して、体内動態解析にもとづいた標的臓器の特定、および抗肥満作用の検討を行った。その結果、本錯体は主に肝臓と筋肉に分布し、これらの臓器に作用して糖代謝を改善させた。一方、脂肪組織には分布せず、脂肪組織には作用しなかった。この体内動態特性により、本錯体は肥満抑制効果を示さず、むしろ、高脂血症を亢進させる副作用が認められた。これは、肝臓で産生されたトリグリセライドが脂肪組織へと効率的に蓄積されなかったためと考えた。今後は、糖代謝を司る肝臓、筋肉に加えて脂肪組織にも移行して作用する亜鉛錯体、すなわち、脂肪組織へ高濃度に分布して、その機能を正常化させる亜鉛錯体を分子設計する必要があると結論された。