- 著者
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橋場 弦
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2011
古代ギリシア社会において、スタシスすなわち党争は、ポリス社会の宿痾ともいうべき病理現象であった。その中で暴力の行使は、ときにポリスの分裂につながる深刻な打撃を社会に与えたが、同時にそれを回避し、公共の場における議論と合意形成によって国家の統合を図る回路も模索された。都市国家アテナイは、民主政というシステムの実現を通して、この回路の構築にもっとも成功したケースであると言える。民主政の成熟とともに、紛争解決手段としての暴力(ビアー)の行使は、市民団の前での弁論によって置きかえられ、そこにポリス的公共性の担保が求められたのである。