著者
橋場 弦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

古代ギリシア社会において、スタシスすなわち党争は、ポリス社会の宿痾ともいうべき病理現象であった。その中で暴力の行使は、ときにポリスの分裂につながる深刻な打撃を社会に与えたが、同時にそれを回避し、公共の場における議論と合意形成によって国家の統合を図る回路も模索された。都市国家アテナイは、民主政というシステムの実現を通して、この回路の構築にもっとも成功したケースであると言える。民主政の成熟とともに、紛争解決手段としての暴力(ビアー)の行使は、市民団の前での弁論によって置きかえられ、そこにポリス的公共性の担保が求められたのである。
著者
桜井 万里子 橋場 弦 師尾 晶子 長谷川 岳男 佐藤 昇 逸身 喜一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

古代ギリシア世界、とりわけポリス市民共同体において、前古典期までに成立、発展してきた社会規範と公共性概念に関して、その歴史的発展の様相を明らかにするとともに、古典期におけるそれらのあり方、とりわけ公的領域と私的領域の関係性を、法や宗教など諸側面から浮かび上がらせた。
著者
橋場 弦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.まず第1の課題として、古代ギリシア人の公共圏と民主政コードの歴史的形成を跡づける証拠を、碑文史料および古典史料の解読を通じて収集し、民主政コード全体の構造を把握することに努めた。その結果として、アテナイにおける民主政コードとは、近代的憲法とは異なり、首尾一貫した体系を持つものではなく、歴史的に形成された社会的諸規範、文化コードの複雑な連合体であることが判明した。いわば民主政とはアテナイ人にとって制度というよりは伝統文化であり、生活様式に他ならなかった。2.第2に、特に古典期のアテナイ社会において,常設された警察権力なしにどのようにして市民たちが日常の社会的紛争解決を実現していたかを,おもに前4世紀の法廷弁論に描かれた公私の紛争事件を素材として探究し,そこに超越的権力の介在なしに働いていた市民的公共性の理念を読み取ることに努めた。その結果として、市民同士の紛争解決にあたっては、当事者の親族友人、あるいは地縁共同体を同じくするメンバーが司法的な援助を行うのみならず、純粋に善意の第三者といってよい「通りすがりの人々(hoi parontes)」が不正を見かけた場合に、市民の公的な立場から助勢を申し出ることも重要であることが分かった。3,以上の考察から、アテナイ民主政の公共圏は、親族・友人・同年齢集団・同区民・フラトリアなどの中間団体を構成要素として多重的な構造を備えており、また各市民は、時にはそれぞれの帰属集団の利害を超えた公共心から行動することが期待されていたと結論できる。