- 著者
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稲葉 奈々子
- 出版者
- 茨城大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2011
新自由主義は社会的排除という新しい形の貧困を生み出した。それにともなって、これまでの反貧困運動とは異なる特徴を備えた社会運動が1990年代の西ヨーロッパを中心に展開した。本研究はフランスと日本の反グローバリズム運動のなかで、社会的排除を経験する当事者に対するインタビューを行い、その特徴を明らかにした。経済的な貧困のみが問題ではなく、市場原理のみを基準として判断されて自己の存在価値を無用とされた個人の尊厳回復の過程を含む運動として立ち現れていた。そのため運動は、公正な再分配を求める運動であるとともに、傷ついた自己の尊厳を取り戻すアイデンティティ・ポリティクスとしての特徴も兼ね備えている。