著者
石井 澄 辻 敬一郎 (1985) 木田 光郎 辻 敬一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

本研究は、食虫目トガリネズミ科ジネズミ亜科の1種、ジャコウネズミ(Suncus murinus)を対象に、野生個体を起源とするドメスティケーションを試み、その過程において行動の諸特徴を経代的に観測するものである。野生個体は沖縄県下多良間島で捕獲後、ただちに人為的制御下に移して維持・繁殖を続けてきた。昭和61年度末現在、第2世代を得ている。観測対象とした行動項目は、基本的適応価をもつと考えられるもので、初期行動,生殖(性)行動,および日周活動リズムである。ジネズミ亜科の多くの種に具わる特異な初期行動としてキャラヴァン行動(caravaning)がある。従来詳細な記述がみられなかったこの行動について、ドメスティケーションの進んだ段階の個体(実験動物としてのスンクス)を対象とした組織的観測を行ない、その発現齢,成立パターンおよびその解発刺激,事態特性を明らかにした。それらの成果に基づいて、ドメスティケーション初期段階の個体と進んだ段階の個体とを比較した結果、いくつかの所見を得た。すなわち、前者の場合、出現時期がより限定的でピーク齢が明確であるのに対して、後者においてはキャラヴァンの消失齢が遅延して発現の日齢特性が曖昧化の傾向にあった。また、5種の成立パターンの発達的順序性が前者に比して後者で稀薄化し、母仔関係の障害を示唆するパターン(第【IV】型)が後者のみに認められた。このように、ドメスティケーションに伴って母仔関係の行動的発現が非特殊化する傾向が指摘できる。この種には雌に発情周期がなく、排卵は交尾刺激によって生起する。従って、生殖行動における雌雄の行動的相互作用がもつ意味は大きい。交尾の成立は、雌の攻撃に対する雄の宥和に依存するが、この宥和に一種の行動的退行と考えられる発声が有効に働くことが確かめられた。ただし、ドメスティケーションの効果は検討中である。

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スンクスの実験動物化とそれに伴う行動変容については、科研でこういうのがありました。 https://t.co/GGfzvVGqGA

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