著者
田口 文広 松山 州徳 氏家 誠
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

SARSコロナウイルス(SARS-CoV)は細胞に感染する時、宿主細胞のプロテアーゼを利用することが知られている。細胞に吸着したウイルスにトリプシンなどのプロテアーゼが作用し、スパイク(S)蛋白が解裂されることにより、直接細胞膜から侵入する。また、プロテアーゼにより感染細胞は融合することも報告されている。プロテアーゼの非存在下では、エンドゾーム経由で感染するが、プロテアーゼ存在下と比べると、感染効率は低い。コロナウイルスの中ではSARS-CoVのみならず多くの種がプロテアーゼ依存性に感染し、細胞融合を引き起こす。その中でも、豚の下痢症ウイルス(PEDV)はプロテアーゼ依存性が高く、トリプシンなどのプロテアーゼが存在しないと感染拡大が極めて弱い。今年度は、PEDV感染におけるプロテアーゼの役割について検討した。トリプシン存在下或いは膜貫通型プロテアーゼTMPRSS2発現Vero細胞では、感染性ウイルス粒子が細胞外に効率よく放出され、プロテアーゼ非存在下と比べ、その感染性は100-1000倍高かった。我々は、トリプシン非存在下のVero細胞とプロテアーゼ阻害剤を加えたTMPRSS2発現細胞では、電子顕微鏡による観察で、ウイルス粒子が細胞表面に付着してクラスターを形成しているが、トリプシン付加により、また、プロテアーゼ阻害剤のないTMPRSS2発現細胞では、細胞表面のウイルス粒子のクラスターは消失していることを観察した。これらのことから、PEDV感染におけるプロテアーゼの役割は、細胞外へのウイルスの放出であり、それは、感染細胞外で細胞膜に付着しているウイルス粒子を細胞膜から剥がすのに重要であることが判明した。今後、どのような細胞分子がウイルスと細胞膜との結合に関与しているのかを検討したい。

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2010 日本獣医生命科学大学 田口 文広 SARS及びマウスコロナウイルスの細胞侵入の分子機構と病原性発現に関する研究 https://t.co/mhMtXbuHbt

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