著者
前田 健 水谷 哲也 田口 文広
出版者
獣医疫学会
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.88-93, 2011 (Released:2013-10-08)

最近,新興感染症の原因ウイルスのレゼルボアとして,コウモリが注目されている。コウモリから直接ヒトへの感染による新興感染症の発生は稀であるが,コウモリ由来のウイルスが家畜や他の野生動物に感染し,そこからヒトへの感染が拡大し,致死率の高い感染症となることは,ニパウイルスやヘンドラウイルス感染症,重症急性呼吸器症候群(SARS)の例に見られるように,コウモリ由来ウイルスによる新興感染症の一つのパターンかもしれない。SARSコロナウイルスの起源がコウモリ由来ウイルスの可能性が指摘されてから,コウモリからのコロナウイルス分離に限らず未知のウイルス遣伝子の分離が盛んに行われる様になった。また,遺伝子探索方法も飛躍的に進展し,種々のウイルス遺伝子のコウモリからの分離が報告されるようになった。本稿では,これらのコウモリから分離されたウイルスで新興感染症に関係するウイルスのみならず,新たに分離されたウイルスに付いても言及する。

21 0 0 0 OA コロナウイルス

著者
田口 文広
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.205-210, 2011-12-25 (Released:2013-04-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1 5

コロナウイルス(CoV)はアーテリウイルスと共にニドウイルス目に属するウイルスであり,ゲノムは約30 kb(+)鎖でエンベロープを持つRNAウイルスである.CoVの特徴は,mRNAの構造にあり,ゲノムRNA 3‘側から5‘側に違う長さで伸張する数本のmRNAから構成され,各々のmRNAの5‘末端にはゲノムRNA 5’末端に存在するリーダー配列を持つ.その構造から,mRNAは不連続のRNA合成によりできあがることは推測されるが,その機構については,現在も2つの仮説が存在し,いずれが正しいのか決定的な実験的証明はなされていない.ウイルス蛋白の翻訳は一般に各々のmRNAの5‘末端に存在するORFからのみ翻訳される.ゲノムRNA (mRNA-1) の5‘末端約20kbには2つのORF(1aと1bで802kDaをコードする)からなる.このORF間には,pseudoknot(Pn)と呼ばれる複雑な3次構造を持つ領域があり,そのため1a蛋白だけで翻訳が終止する場合と,Pnにより,1a + 1b融合蛋白が合成されるケースがある.1a + 1b蛋白は16個の調節蛋白に解裂され,プロテアーゼ,RNA polymeraseとして働く他に,細胞の蛋白合成を抑制するような蛋白も同定されている.基本的に,mRNA-2以下のものからは,構造蛋白が翻訳される.マウス肝炎ウイルス(MHV)では,mRNA-3, 5b, 6,7から,それぞれspike(S),envelope (E),integral membrane (M),necleoprotein (N)が翻訳される.合成されたM, E蛋白は小胞体からゴルジ装置に至る細胞内小腔に親和性を持ち,M蛋白にRNA-N複合体とS蛋白が結合し,小腔内に感染性粒子として出芽し,exocytosisで細胞外に放出される.最近,細胞外放出にも宿主のプロテアーゼが関与していることが報告されている.
著者
田口 文広
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.165-171, 2006 (Released:2007-04-20)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

コロナウイルスにはヒト,家畜,実験動物など様々な動物に感染するウイルスが知られている.その中で,マウス肝炎ウイルス(MHV)はマウスに急性致死性肝炎,脱随性脳脊髄炎などを引き起こし,ヒトの疾患モデルとして研究が進んでいる.一方,SARSコロナウイルス(SARS-CoV)は重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体であり,2003年に発見された新しいウイルスだが,医学的インパクトの強さから発見以来精力的に研究が進められ,現在最も解析が進んでいるコロナウイルスの一つである.両ウイルスの受容体は同定され,ウイルスの受容体結合や細胞侵入機構について研究が進められている.最近の研究から,これらのウイルスは異なる経路で細胞内に侵入することが分かってきた.本稿では,両ウイルスの細胞侵入機構について概説し,細胞侵入機構のウイルスの病原性発現への関与について紹介する.
著者
前田 健 水谷 哲也 田口 文広
出版者
獣医疫学会
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.88-93, 2011-12-20 (Released:2012-03-23)
参考文献数
21

最近,新興感染症の原因ウイルスのレゼルボアとして,コウモリが注目されている。コウモリから直接ヒトへの感染による新興感染症の発生は稀であるが,コウモリ由来のウイルスが家畜や他の野生動物に感染し,そこからヒトへの感染が拡大し,致死率の高い感染症となることは,ニパウイルスやヘンドラウイルス感染症,重症急性呼吸器症候群(SARS)の例に見られるように,コウモリ由来ウイルスによる新興感染症の一つのパターンかもしれない。SARSコロナウイルスの起源がコウモリ由来ウイルスの可能性が指摘されてから,コウモリからのコロナウイルス分離に限らず未知のウイルス遺伝子の分離が盛んに行われる様になった。また,遺伝子探索方法も飛躍的に進展し,種々のウイルス遺伝子のコウモリからの分離が報告されるようになった.本稿では,これらのコウモリから分離されたウイルスで新興感染症に関係するウイルスのみならず,新たに分離されたウイルスに付いても言及する。
著者
田口 文広
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.201-209, 2003-12-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
46
被引用文献数
5 4
著者
田口 文広 陸 青 清水 正樹
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.583-585, 2003-09-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
10
被引用文献数
1

マウスコロナウイルス (マウス肝炎ウイルス, MHV) A-59株に対するポビドンヨード (PVP-1) を主成分とする各製剤のin vitro殺ウイルス効果を検討した。PVP-I消毒液, PVP-I含嗽夜, PVP-1手指消毒液, 速乾性PVP-I手指消毒液およびPVP-I喉用液 (0.1~5%PVP-1) の5秒間処理により, ウイルス感染値が1/104以下に減少した。このことは, PVP-1各製剤はマウスコロナウイルスに対して強い殺ウイルス効果をもつことを示している.
著者
田口 文広
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.81-90, 1990-12-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
52
被引用文献数
1 1
著者
田口 文広 松山 州徳
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.215-222, 2009-12-24 (Released:2010-07-03)
参考文献数
40
被引用文献数
1 7

エンベロープウイルスは,エンベロープと細胞膜の融合により細胞内に侵入する.コロナウイルス(CoV)ではスパイク(S)蛋白がその機能を担う.本稿では,2種類のCoV,マウスCoV(マウス肝炎ウイルス,MHV)と重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV)の細胞侵入機構について概説する.感染細胞に細胞融合を誘導するMHV株は受容体結合によりS蛋白が構造変化し,エンベロープと原形質膜の融合により細胞表面から侵入するが,感染細胞融合能のないSARS-CoV及びMHV-2株はエンドゾームに輸送され,その酸性環境下でプロテアーゼによりS蛋白融合能が活性化されエンドゾーム膜との融合により侵入することが明らかとなった.また,細胞表面の受容体に結合したこれらのウイルスは,幾つかのプロテアーゼにより活性化され,直接細胞表面から侵入することが示唆され,SARS-CoVではエンドゾーム経由侵入より効率が高く,感染動物の肺での高いウイルス増殖の原因となる可能性が示唆された.また,MHV-JHM株は受容体非発現細胞にも感染することが明らかになり,その機構はJHMVの高神経病原性と関連すると思われた.
著者
田口 文広 松山 州徳 中垣 慶子 森川 茂 石井 浩二 氏家 誠
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

SARS-CoVは、受容体ACE2に結合後、エンドゾームに輸送され、cathepsin-Lなどのプロテアーゼによりスパイク(S)蛋白の膜融合能が活性化され、細胞侵入するという、エンドゾーム経路で細胞内へ侵入する。一方、我々は外来性のプロテアーゼが存在する場合、細胞表面から侵入する可能性を提唱した。この細胞表面からの侵入は、ACE2結合したS蛋白がプロテアーゼにより解裂され、膜融合活性を獲得するために可能になると考えられている。本研究では、この仮説を検証するため、解裂性S蛋白を持つpseudotypeウイルスを用いて、細胞表面からの侵入が可能か否かに付いて検討した。SARS-CoV S蛋白上の細胞内プロテアーゼ(フリン)により解裂が予想される3か所にプロテアーゼ認識アミノ酸配列を導入した変異S蛋白を作成した。このS蛋白をenvelope上に持つ水泡生口内炎ウイルス(VSV)のpseudotypeウイルスを作成し、その細胞侵入経路を検討した。3か所の変異挿入部位の中で、S蛋白797/798で解裂が起こるよう設計されたS蛋白は、細胞融合性を示し、pseudotype envelope上に発現された。このpseudotypeは、SARS-CoV非解裂性S蛋白を持つpseudotypeと比べ、エンドゾーム経由感染阻止薬による感染抑制はなく、また、SARS-CoVがエンドゾーム内で活性化されるプロテアーゼ阻害剤の影響も低かった。以上の結果から、解裂性S蛋白を持つpseudotypeは細胞表面から侵入することが強く示唆された。即ち、SARS-CoVはプロテアーゼの存在下で直接細胞膜から細胞侵入する能力を有することが確認された。マウス肝炎ウイルス(MHV)のS蛋白のheptad repeat由来peptideは膜融合活性を阻害することでウイルス感染を阻止することが報告されている。SARS-CoVのS蛋白でも同様の実験がなされたが、MHVに比べて阻害効率が著しく悪い事が報告されている。我々は、外来性のプロテアーゼ存在下、細胞表面からの感染が可能な状態で、peptideの感染阻害効率を再評価した。この結果、細胞表面からのウイルス感染では従来考えられていたよりも低濃度のpeptideで効率よく阻害できる事が分かった。このことは、これらのpeptideが潜在的なSARS-CoVに対するinhibitorとなりえる事を示唆するもので、SARS-CoVの感染経路にpeptideをターゲティングする事でSARS-CoVの感染を効率よく阻止できる可能性を示した。
著者
田口 文広 松山 州徳 氏家 誠
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

SARSコロナウイルス(SARS-CoV)は細胞に感染する時、宿主細胞のプロテアーゼを利用することが知られている。細胞に吸着したウイルスにトリプシンなどのプロテアーゼが作用し、スパイク(S)蛋白が解裂されることにより、直接細胞膜から侵入する。また、プロテアーゼにより感染細胞は融合することも報告されている。プロテアーゼの非存在下では、エンドゾーム経由で感染するが、プロテアーゼ存在下と比べると、感染効率は低い。コロナウイルスの中ではSARS-CoVのみならず多くの種がプロテアーゼ依存性に感染し、細胞融合を引き起こす。その中でも、豚の下痢症ウイルス(PEDV)はプロテアーゼ依存性が高く、トリプシンなどのプロテアーゼが存在しないと感染拡大が極めて弱い。今年度は、PEDV感染におけるプロテアーゼの役割について検討した。トリプシン存在下或いは膜貫通型プロテアーゼTMPRSS2発現Vero細胞では、感染性ウイルス粒子が細胞外に効率よく放出され、プロテアーゼ非存在下と比べ、その感染性は100-1000倍高かった。我々は、トリプシン非存在下のVero細胞とプロテアーゼ阻害剤を加えたTMPRSS2発現細胞では、電子顕微鏡による観察で、ウイルス粒子が細胞表面に付着してクラスターを形成しているが、トリプシン付加により、また、プロテアーゼ阻害剤のないTMPRSS2発現細胞では、細胞表面のウイルス粒子のクラスターは消失していることを観察した。これらのことから、PEDV感染におけるプロテアーゼの役割は、細胞外へのウイルスの放出であり、それは、感染細胞外で細胞膜に付着しているウイルス粒子を細胞膜から剥がすのに重要であることが判明した。今後、どのような細胞分子がウイルスと細胞膜との結合に関与しているのかを検討したい。
著者
田口 文広
出版者
日本ウィルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.205-210, 2011-12-01
参考文献数
20
著者
田口 文広 松山 州徳 森川 茂 氏家 誠 白戸 憲也 座本 綾 渡辺 理恵 中垣 慶子 水谷 哲也
出版者
国立感染症研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1)SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に関する研究SARS-CoVは通常エンドゾーム経由で細胞内へ侵入することが報告されているが、我々はSARS-CoVのS蛋白の融合活性を誘導するプロテアーゼ(trypsin, elastase等)存在下では細胞膜径路で侵入することを明らかにした。更に、この径路による感染は、エンドゾーム径路感染より100-1000倍感染効率が高いことが判明した(PNAS,2005に発表)。SARSの重症肺炎の発症機序は、ウイルス感染を増強する様なプロテアーゼの存在が重要ではないかと考え、マウスに非病原性細菌感染で肺elastaseを誘導し、SARS-CoVを感染させることにより、ウイルス増殖及び肺の組織障害が高くなることを観察した。今後、更に重症肺炎に至るウイルス側及び宿主側因子の同定を進めたい。2)マウスコロナウイルス(MHV)に関する研究神経病原性の高いMHV-JHM株は受容体発現細胞に感染し、その細胞から受容体を持たない細胞に感染することが知られている。我々は、JHM株を直接受容体非発現細胞へ吸着させることにより、感染が成立することをspinoculation法(ウイルスが接種された細胞をウイルスと共に3000rpmで2時間遠心)により証明した。また、受容体非依存性感染にはJHM株のS蛋白の自然条件下で融合能が活性化されるという性質によることも明らかにされた(J.Viro1.2006発表)。
著者
田口 文広
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.205-210, 2011
被引用文献数
5

コロナウイルス(CoV)はアーテリウイルスと共にニドウイルス目に属するウイルスであり,ゲノムは約30 kb(+)鎖でエンベロープを持つRNAウイルスである.CoVの特徴は,mRNAの構造にあり,ゲノムRNA 3'側から5'側に違う長さで伸張する数本のmRNAから構成され,各々のmRNAの5'末端にはゲノムRNA 5'末端に存在するリーダー配列を持つ.その構造から,mRNAは不連続のRNA合成によりできあがることは推測されるが,その機構については,現在も2つの仮説が存在し,いずれが正しいのか決定的な実験的証明はなされていない.ウイルス蛋白の翻訳は一般に各々のmRNAの5'末端に存在するORFからのみ翻訳される.ゲノムRNA (mRNA-1) の5'末端約20kbには2つのORF(1aと1bで802kDaをコードする)からなる.このORF間には,pseudoknot(Pn)と呼ばれる複雑な3次構造を持つ領域があり,そのため1a蛋白だけで翻訳が終止する場合と,Pnにより,1a + 1b融合蛋白が合成されるケースがある.1a + 1b蛋白は16個の調節蛋白に解裂され,プロテアーゼ,RNA polymeraseとして働く他に,細胞の蛋白合成を抑制するような蛋白も同定されている.基本的に,mRNA-2以下のものからは,構造蛋白が翻訳される.マウス肝炎ウイルス(MHV)では,mRNA-3, 5b, 6,7から,それぞれspike(S),envelope (E),integral membrane (M),necleoprotein (N)が翻訳される.合成されたM, E蛋白は小胞体からゴルジ装置に至る細胞内小腔に親和性を持ち,M蛋白にRNA-N複合体とS蛋白が結合し,小腔内に感染性粒子として出芽し,exocytosisで細胞外に放出される.最近,細胞外放出にも宿主のプロテアーゼが関与していることが報告されている.