著者
北林 孝顕
出版者
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会
雑誌
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会論文誌 (ISSN:18846939)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.34-54, 2016 (Released:2017-05-19)
参考文献数
29

日本の鉄道は大量輸送能力や安全性が高い.その要因として,インフラ整備,メンテナンス,オペレーション人材が注目されているが,その要諦となる鉄道車両の開発マネジメントに関する研究はほとんど見当たらない.本論文では,日本の鉄道車両開発マネジメントの特徴を明らかにすることを目的として,鉄道事業者Z社(匿名)の近郊車両T3系(仮称)の開発プロセスとマネジメントの実態を記述し,その実態と自動車や航空機の開発マネジメントの特徴を比較した.分析 の結果,日本の鉄道車両開発マネジメントには,ユーザーである鉄道事業者が開発責任者となって,サプライヤーである鉄道車両メーカーを効率的かつ効果的にマネジメントしながら,開発全体のフロントローディング活動を牽引しているという特徴があり,その特徴が日本の鉄道車両開発プロセスとマネジメントを今後グローバル展開する上での課題につながっていることが明らかになった.
著者
櫻井 秀彦
出版者
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会
雑誌
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会論文誌 (ISSN:18846939)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.48-63, 2019 (Released:2020-03-09)
参考文献数
74

サービス研究では,内部サービス品質が従業員満足と組織ロイヤルティに影響し,それが顧客の知覚サービス品質,更には顧客満足を高めるというサービス・プロフィットチェーンの枠組が広く知られている.一方で,専門サービスに限れば逆因果,すなわち顧客満足こそが従業員満足の源泉とする報告もある.そこで本研究では,専門サービスを対象とした顧客満足と従業員満足の因果の方向性を検証する目的で,実証研究を行った.大手薬局チェーンにて,薬局利用患者には顧客満足やサービス品質に関して,薬剤師には職務満足や組織ロイヤルティに関しての質問紙調査を行い,店舗ごとでの回答平均値を分析データとして構造方程式モデリングで分析した.結果として,顧客満足が職務満足に有意に影響し,専門職の組織ロイヤルティへの影響も有意傾向を示した.よって,薬局のような専門サービス提供組織では,顧客満足を高める施策は顧客ロイヤルティのみならず,職務満足や組織ロイヤルティも高めるという二面性を有する可能性が示唆された.
著者
椙江 亮介
出版者
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会
雑誌
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会論文誌 (ISSN:18846939)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.20-37, 2023 (Released:2023-10-19)
参考文献数
32

情報システムを導入する際にユーザ企業の経営層・ユーザ部門・IT部門の連携と整合性が重要であると既存研究では言われている.近年,情報システムをユーザ企業だけで導入する企業は少なく,ベンダー企業と契約して情報システムを導入していく.そのため,ベンダー企業の能力も情報システムを導入する際のパフォーマンスに影響があることが考えられる.本研究では基幹系システムの導入プロジェクトを実施した6社の日本企業を対象にして探索的な事例研究を実施した.事例研究の結果,基幹系システムの導入にはユーザ企業のITケイパビリティだけでは無く,ベンダー企業のITケイパビリティも導入する際のパフォーマンスに影響を与えていることがわかった.これまで多く議論されてきたユーザ企業のITケイパビリティだけでは無く,ユーザ・ベンダー企業の両方のITケイパビリティが重要であることを提案する.
著者
田中 章雅 佐藤 亮
出版者
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会
雑誌
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会論文誌 (ISSN:18846939)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.55-69, 2016 (Released:2017-05-19)
参考文献数
47

プラットフォームがビジネスや産業構造として重要性を増している一方で, プラットフォームの戦略策定の方法は進展してない. 本論文では, 変化の激しい日本のソーシャルゲームのプラットフォームが高収益を得る戦略を分析する. そのために, ダイナミック・ケイパビリティの立場から,プラットフォームと補完ユーザグループの依存関係を精緻化した概念を提案し,サンプル事例として日本の2006 年から2012 年のソーシャル・ネットワーク・プラットフォームの3 社に適用した. その結果, 高業績のソーシャル・ネットワーク・プラットフォームのダイナミック・ケイパビリティは, (1) 推進的補完ユーザグループを感知し捕捉して, (2) その補完ユーザグループと深い融合となる再配置をすることを示した. 本論文の結論は, 企業がプラットフォーム戦略を考える場合のひとつの指針となるものである.
著者
富田 純一
出版者
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会
雑誌
オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会論文誌 (ISSN:18846939)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.91-107, 2012

本稿の目的は,トライアドの情報処理モデルを用いて,生産財開発における提案のあり方を検討することにある.トライアドの情報処理モデルとは,生産財メーカーと消費財メーカーだけでなく消費者を含めた三者間の関係を想定し,設計情報の流れを図式化したものである.生産財開発の場合,顧客である消費財メーカーが専門知識を有し,必要とする生産財のコンセプトやスペックを提示できるケースが多いので,顧客の指示に従えばよいと考えがちである.しかし,時折消費財メーカーが消費者ニーズの翻訳を誤ることがある.この場合,生産財メーカーはどのようなタイミングでどんな内容の提案を行っているのだろうか.本稿では,事例分析に基づいてその提案プロセスを明らかにするとともに,「ダイナミックな評価能力」の重要性を指摘する.この能力は,「生産財メーカーが,製品開発の過程で自社製品が組み込まれる顧客製品の機能要件を,エンドユーザー (消費者)のニーズの視点から評価することで獲得しうる知識・能力であり,再評価の結果,業務範囲の拡大・縮小を柔軟に遂行しうる知識・能力」である.生産財メーカーが提案をより効果的に進めるためには,この能力の蓄積・活用が重要であると考えられる.