著者
門間 ゆきの 杉万 俊夫
出版者
一般社団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.242-286, 2017-12-28 (Released:2017-10-07)
参考文献数
20

本研究は、貨幣経済の浸透や大量消費材の普及といった社会変容の中における「地縁技術」の可能性を、東北タイ、カオボンのカティップづくりを事例として示すものである。 <br> 「地縁技術」とは地域内で入手できる素材を用いて製作し地域内のマーケットで流通されていることを特徴とする技術であり、地域に暮らす人々の生活と密接なかかわりをもつ点を特徴とする(Shigeta, 1996)。カオボンでは、主食であるモチ米をカティップという竹籠に入れて食べるという習慣が色濃くある。各家庭には大小様々のカティップが5-8 個必ずあり、モチ米を入れる容器は必ずカティップである。地元の竹を使って手作りされるカティップは、カオボンの「地縁技術」ととらえることができる。 <br> 参与観察とタイ人へのインタビューから、カティップづくりは、複数のつくり手による“分業体制”によって行われていることが明らかになった。その作業は、つくり手が自宅の生活空間で、日常生活の一場面として行っており、著者はその作業を“縁側作業”と呼ぶことにした。 <br> 縁側作業はカオボンの空間的・精神的な開放性という地域の特質に支えられており、カティップづくりを可視化し、人々の交流を生み、カティップづくりの暗黙知を伝達する機能がある。 分業体制は、1980 年代からの東北タイ農村の社会変容に適応して生まれたと考えられる。共同体や世帯が個人へ解体していくなかで、カティップを別世帯のメンバーとつくろうとするとき、「家内的領域の再生産と拡大世帯の形成」(田口,2002)がなされ、分業という新たな関係が生まれたととらえられる。 <br> 地縁技術には空間的・風土的地域特質と地域の変化の歴史が凝縮されている。また、地縁技術は、地域と人、モノの新たな関係を生み出す可能性をもつ。その動態を描き出すことは、地域の特質や変化、将来像を浮かび上がらせる豊かな可能性をもつのではないだろうか。
著者
近藤 乃梨子
出版者
一般社団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.321-376, 2017-12-28 (Released:2017-10-30)
参考文献数
21

過疎地域において、人口減少という問題は依然進行しているが、過疎地域を「気候や自然に恵まれた場」、「ロハスやスローライフのできる場」、「自給自足のできる場」、「子育てに適した場」として、暮らしや自己実現の観点から肯定的に捉える機運が生まれており、田園回帰志向が高まっている。過疎地域の活性化のためには、過疎地域への移住を促進するとともに、とくに若者世代、子育て世代の仕事づくりを実現することが重要である。 <br> 移住者が地域づくりの主体として、過疎地域に眠る埋もれていた地域資源をヨソモノ視点によって利活用し、「地域のなりわい」を生み出すことは、地域の価値を創造することにほかならず、過疎地域の地域づくりに新たな価値を上乗せする。この移住者による「地域のなりわい」づくりの社会的意義は計り知れない。 <br> 購入型クラウドファンディングは、過疎地域で「地域のなりわい」を起業する移住者のリスクを少しでも軽減し、金銭的負担をわけあい、心理的な応援者を獲得し、万が一失敗しても再チャレンジすることのできる簡便に導入できる資金調達の方法である。過疎地域における購入型クラウドファンディング活用の意義は、起業のための資金が調達できることにとどまらず、資金調達のためのプロジェクト終了後も、過疎地域に人とお金の流れをつくることにある。本稿では、過疎地域の移住者による購入型クラウドファンディング活用の有用性について、山口県長門市油谷向津具半島の移住者の事例を用いて、過疎地域への人とお金の流れを生み出すことを確認した。 <br> また、購入型クラウドファンディングの活用によって得られた、目標達成のために支援メンバーを事前確保したうえで、より多くの「ファン」を効率的に獲得するスキルが、新たな地域資源活用商品の販売プロモーションや都市農村交流及び移住の促進など、過疎地域に人とお金の流れを呼び込むための様々な活動に応用することができると指摘した。
著者
近藤 乃梨子
出版者
一般社団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.196, 2014-12-28 (Released:2014-03-10)
参考文献数
11

本稿は、日本海に突き出す本州最西北端に位置する過疎の半島で始まった、ある小さなグループによる村おこしの取組みの記録である。2010-2013 年初夏の黎明期から萌芽期にあたる様子を書き記した。 山口県長門市油谷に位置する向津具半島は、過疎高齢化の進行著しい地域である。65 歳以上の高齢者が集落人口の半数を超える限界集落の存在も珍しくない。2007 年に家業である寺院経営を継承するためにU ターンした一人の青年、田立氏の呼びかけで始まった村おこしの取組みは、災いを焼き尽くすといわれる「柴燈護摩」と、かつてこの地に楊貴妃が難を逃れて漂着したと語り継がれる「楊貴妃伝説」とを掛け合わせて生み出された楊貴妃「炎の祭典」と呼ばれる祭りである。衰退していく故郷を目前に、地域活性化の定義も定まっておらず、何をすればよいのかもわからない。けれども、このままではこの地域はダメになる。そのような思いから、目標を定め、行動に移していく。いかにして、無から有が生み出され、広がっていったのかを、本稿は記している。 しかし、順調なことばかりではない。むしろ困難なことの方が多いように思われる。田立氏が帰郷した当初、荒れ果てた行政施設「楊貴妃の里」を村おこしに活用したいと役場に相談した時には、適切な対応がなされないばかりではなく、宗教的活動には使用させられないと、門前払い同様の扱いであった。資金獲得のために助成事業に申請すれば、助成元の財団からも、宗教団体ではないかと調べられたり、詳細すぎるほどの説明を求められたりした。楊貴妃つながりで中国の留学生や領事館との交流が芽生えたかと思えば、祭りに私服警官が何人も配備されるほどの厳戒態勢で臨まねばならないこともあった。取組みを「二尊院の祭り」と言われ、地域の祭りとしての協力を仰ぐことが難しい時期も続いた。 幸いにも運営ボランティアは集まったが、遊びの延長のような状態であったため、打ち合わせはバーベキュー方式や「決めない」会議になった。「欣ちゃんがやるから、てごする二尊院の祭り」を脱却して「みんながしたいからやる向津具の祭り」にいかにして変化を遂げられるのか。この問題に直面していた時、新たにボランティアに参加した、移住してきたばかりの若者、松本氏から疑問の声が上がった。なぜ会議で物事を決めないのか----。 この問題提起をきっかけに、膠着した動きに新たな風が吹いた。本稿では、村おこしの取組みの初期段階から、今後の展開に影響を与えうる重大な局面に至るまでを記録した。