著者
中野 苑香 立石 武泰 杉万 俊夫
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.362-407, 2013-12-28 (Released:2013-12-16)
参考文献数
4
被引用文献数
1

高度経済成長(1960-1970 年代初め)まで、都市部でも、地域コミュニティは、住民が喜怒哀楽を分かち合える場だった。それは、一方では窮屈なしがらみに耐えざるをえない場でもあったが、他方では、住民が、家族を超えて「溶け合える」場でもあった。 子どもは、地域コミュニティの人々が溶け合う接着剤だ。無邪気な子どもに難しい理屈は通用しない。子どもと大人を結び付けるのは、身体の溶け合いだ。近所のおじちゃん・おばちゃんは、子どもを接着剤として、子どもの親とも溶け合えた。 福岡市にある博多部は、そのようなかつての地域コミュニティを保持する数少ない地域の一つである。とくに、同地に継承されている祭り「博多祇園山笠」は、博多部コミュニティの絆を維持する上で大きな役割を果たしている。その姿は、現代の日本社会において、身体が溶け合える地域コミュニティを再生させるときに必要な「忘れられたイメージ」を提供してくれる。 本研究では、博多祇園山笠が博多部の子どもたちにいかなるインパクトを与えているかを調査した。調査結果は、山笠に参加している子ども、さらには、家族も山笠に参加している子どもほど、地域コミュニティの絆に編み込まれていることを如実に示していた。具体的には、山笠に関わりの深い子どもの方が、地域住民と挨拶を交わしていること、学年を超えて近所の子どもたちと遊ぶ頻度が高いこと、博多部という土地に対する愛着が強いことなどが明らかになった。
著者
門間 ゆきの 杉万 俊夫
出版者
一般社団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.242-286, 2017-12-28 (Released:2017-10-07)
参考文献数
20

本研究は、貨幣経済の浸透や大量消費材の普及といった社会変容の中における「地縁技術」の可能性を、東北タイ、カオボンのカティップづくりを事例として示すものである。 <br> 「地縁技術」とは地域内で入手できる素材を用いて製作し地域内のマーケットで流通されていることを特徴とする技術であり、地域に暮らす人々の生活と密接なかかわりをもつ点を特徴とする(Shigeta, 1996)。カオボンでは、主食であるモチ米をカティップという竹籠に入れて食べるという習慣が色濃くある。各家庭には大小様々のカティップが5-8 個必ずあり、モチ米を入れる容器は必ずカティップである。地元の竹を使って手作りされるカティップは、カオボンの「地縁技術」ととらえることができる。 <br> 参与観察とタイ人へのインタビューから、カティップづくりは、複数のつくり手による“分業体制”によって行われていることが明らかになった。その作業は、つくり手が自宅の生活空間で、日常生活の一場面として行っており、著者はその作業を“縁側作業”と呼ぶことにした。 <br> 縁側作業はカオボンの空間的・精神的な開放性という地域の特質に支えられており、カティップづくりを可視化し、人々の交流を生み、カティップづくりの暗黙知を伝達する機能がある。 分業体制は、1980 年代からの東北タイ農村の社会変容に適応して生まれたと考えられる。共同体や世帯が個人へ解体していくなかで、カティップを別世帯のメンバーとつくろうとするとき、「家内的領域の再生産と拡大世帯の形成」(田口,2002)がなされ、分業という新たな関係が生まれたととらえられる。 <br> 地縁技術には空間的・風土的地域特質と地域の変化の歴史が凝縮されている。また、地縁技術は、地域と人、モノの新たな関係を生み出す可能性をもつ。その動態を描き出すことは、地域の特質や変化、将来像を浮かび上がらせる豊かな可能性をもつのではないだろうか。
著者
杉万 俊夫
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
ジャーナル「集団力学」 (ISSN:21854718)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.17-32, 2010-07-01 (Released:2013-04-16)
参考文献数
20

現代日本社会の特徴の一つを、「集団主義-個人主義」をめぐる3つのトレンドによって考察する。ただし、本稿で用いる「集団主義」、「個人主義」の概念は、従来、社会心理学で用いられてきた同名の概念とは、基本的に性格を異にする。すなわち、本稿では、規範を身体の溶け合いから擬制される「第三の身体」の声であると捉える大澤(1990)の規範理論に依拠し、第三の身体が具象的身体とオーバーラップする段階を集団主義、そのオーバーラップを減じ、第三の身体が不可視の抽象的身体となった段階を個人主義と定義する。 欧米では、「集団主義(前近代)→個人主義(近代)→身体の溶け合いへの回帰(ポスト近代)」という歴史的経路を辿ったのに対し、現代日本社会には、①集団主義からマイルドな個人主義へと向かうトレンド、②マイルドな個人主義から本格的な個人主義へと向かうトレンド、③マイルドな個人主義から溶け合う身体へと回帰するトレンドの3つが共存していることを、具体的な社会現象の例をあげつつ指摘した。20年程度の近未来を見通すとき、③のトレンドが急速に主流になるであろうことを予想するとともに、このトレンドを②のトレンドと見誤ってはならないこと(平易に言えば、集団主義の減退を個人主義化と見誤ってはならないこと)を強調した。
著者
向井 大介 近藤 乃梨子 杉万 俊夫
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.66-240, 2017-12-28 (Released:2017-09-13)
参考文献数
22

本研究は、過疎化や高齢化が進行する2 つの地域における地域活性化活動の事例を題材にして、これまで見過ごされてきた地域活性化活動の潜在的な側面を再検討し、より有意義な地域活性化活動の在り方や情報発信の方法を提示しようとするものである。本論文では、参与観察を行って収集した情報を、筆者や活動参加者の人物像を明記したうえで、活動参加者でもあった筆者の当該時点における率直な感想をも記述する「新しいスタイルのエスノグラフィ」を試みた。 <br> 本研究を通じて明らかになったのは、次の4 点である。第1 に、地域活性化活動を数値的に評価する場合、「数値的な成果を高めるもの」として認識されることが多いが、地域活性化活動に参加する個人の視点に立つならば、それは、「幸福を追求するための営み」の一形式にほかならず、地域活性化活動は、あくまでも、その文脈で評価されることが重要であることを指摘した。 第2 に、地域活性化活動における最大の価値は、活動それ自体に「かけがえのなさ」を共同構成するプロセスにあることを主張した。また、そのプロセスにおいて、行為そのものが規範贈与の性質を有することが示唆された。第3 に、地域活性化活動が拡大・発展するための潜在的かつ重要な要因として、「規範贈与の整流化」とも言うべき現象が必要であることが明らかになった。第4 に、上述の「新しいスタイルのエスノグラフィ」は、読者がよりリアルな追体験をすることを可能にすると同時に、インターローカルな協同的実践を喚起し、活動を継続するための内省にも役立つ素材となることが見出された。 <br> 最後に、以上の結果を踏まえたうえで、新しい地域活性化活動の在り方、新しい地域活性化活動支援の在り方、外部の人の扱い方を提示した。
著者
河原 利和 杉万 俊夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.101-119, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
26
被引用文献数
3 5

強い保守性, 閉鎖性を有し, かつ, 少数の有力者が集落運営を支配する体制を引きずる, ある過疎地域で進行している住民自治システム創造の試みを, アンケート調査によって検討した。その過疎地域にある89集落のうち, 住民自治システム創造のための運動に取り組んで4-5年が経過した14集落の全住民 (青少年を含む) を調査対象にした。その結果, これらの14集落は, 同運動に「積極的-中間-批判的」という軸にそって, 分類できることが見出された。また, 同運動に積極的な集落では, 同運動によって導入された新しい集落運営システムが, 古い伝統的な運営システムと対等の地位を獲得しつつあること, 同運動に批判的な集落では, 新しいシステムが古いシステムにのみこまれて, 古いシステムの下位システムに位置づけられていることが見出された。
著者
渥美 公秀 杉万 俊夫 森 永壽 八ツ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.218-231, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

本研究は, 1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神大震災の被災地・被災者を救援するために組織された2つのボランティア組織-西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議-について参与観察法を用いて検討したものである。まず, 各組織の成立過程, および, 活動内容の概略を紹介した。次に, ボランティアに関する一般的な考察を行った上で, 両組織を災害救援における広域トライアングルモデルを用いて比較考察した。両組織には, 地元行政との関係, および, 将来への展望において明確な違いが見られた。
著者
竹内 みちる 樂木 章子 杉万 俊夫
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
ジャーナル「集団力学」 (ISSN:21854718)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.62-75, 2010

親の育児放棄や幼児虐待が報道されるたびに、人々の批判の矛先は母親に向けられる ---- 自分の腹を痛めた子に、なぜそんなむごいことをするのか、と。そこには、「自分が産んだ子は自分が育てるべし」という社会規範を見て取ることができる。 本論では、あえて、「産んだら育てるべし」という規範とは正反対の規範、すなわち、「産んでも育てなくてもよい」という規範の可能性を、筆者が行った現場研究をもとに検討する。それを通じて、社会が子どもを育てるということに関して新たな視座を提供する。 筆者が現場研究を行ったのは、「環の会」という特定非営利活動法人(NPO)であった。「環の会」の活動には、「産んだら育てるべし」という規範とは異なった規範が存在していた。すなわち、「環の会」のリーダーは、予期せずして妊娠した女性からの連絡に昼夜を分かたず対応し、もし自分で育てることができないのであれば、特別養子縁組をすることも一つの選択肢であるとアドバイスをしていた。また、「環の会」では、育て親候補者の募集も行っており、育て親に対しては、産みの親の存在を早期から子どもに伝えること、産みの親への感謝を忘れぬこと、また、産みの親が望む場合には、「環の会」を通じて、産みの親と子どもの接触を保つことを指導していた。 「環の会」の現場研究を通じて、同会の活動には、生まれた子を「産みの親が育てるべし」とするのではなく、「産みの親が育てられない場合には、社会が育てていく」という姿勢を見て取ることができる。同会の活動は、社会が、生まれた子を無条件に受け入れ、育てていくための、いわば窓口としての機能を果たしているものと考察した。
著者
大河内 茂美 杉万 俊夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.63-72, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
11

集団目標の達成を志向するP行動と, 人間関係それ自体の維持を志向するM行動という, 2種類の行動形態によってリーダーシップ行動を把握しようとするP-M論に基づき, P行動とM行動の効果性に関する数理モデルを提出した。P行動の下位形態として, メンバーの能力向上を志向するP行動と, 累積目標達成量の増加を志向するP行動を設定し, これらにM行動を加えた3つのリーダーシップ行動の時間的関数として効果性を定式化した。第1に, 「メンバーの能力」と「人間関係の円滑さ」が, 「集団モラール」に与える効果を, 経済学における生産関数を援用して定式化した。第2に集団モラールは, メンバーの能力向上, 人間関係の円滑化, 累積目標達成量の増加に利用されるものとし, それぞれに対する利用は, 上記3つのリーダーシップ行動によって決まるものとした。数理モデルの解析には, ポントリャーギンの最大値の原理を用いた。本モデルは, これまでの実証的研究の成果に対して, 有効な解釈を与えうることが示唆された。
著者
杉万 俊夫
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.551-561, 2006 (Released:2019-04-12)
被引用文献数
6
著者
矢守 克也 杉万 俊夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-14, 1990-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

本研究は, 横断歩道を横断する人々が形成する群集流の巨視的行動パターンについて検討したものである。まず, 第1研究において, 横断歩道上に観察される巨視的行動パターンを計量する指標を開発した。次いで, 第2研究において, 現実の横断歩道を模した実験的状況を構成し, 巨視的行動パターンの形成過程を検討した。群集状況においては, 群集内の個々人は必ずしも群集全体の動向を考慮して行動しているのではなく, 通常, 自らの近傍に関する情報処理と近傍の他者との相互作用を行なうのみである。しかし, 群集全体に視点を移すと, そこには一つの巨視的行動パターンが次第に形成される。すなわち, 群集内の微視的相互作用によって生じた巨視的行動パターンの「核 (core) 」が, 漸次波及して, 群集全体の巨視的行動パターンを形成する, というメカニズムの存在が示唆されるのである。一方, 確立した巨視的行動パターンは, 翻って, 群集内の個人の微視的な情報処理や相互作用を制約するに至る。第1研究では, 巨視的行動パターンの主要な特性を, 個人の行動を制約することととらえ, その程度によって, 巨視的行動パターンの形成度を計量しようと試みた。具体的には, 横断歩道において反対方向に進行する2つの群集が形成する巨視的行動パターン (数本の人流の帯が形成され, ほとんどの人がその帯上を歩行するというパターン) を観察した。巨視的行動パターンの指標として, 群集流の「分化の程度 (逆に言えば, 個々人が歩行し得る人流の帯がどの程度限定されているか) 」を表す「エントロピー指標」, および, 「流量の程度」を表す「流量指標」を導入した。その結果, 歩行者がある一定数以上の場合, これらの指標は, 横断歩道上に形成された巨視的行動パターンについての視察結果を適切に反映することが確認された。第2研究では, 実験室に, メッシュ状に分割した横断歩道を構成し, 被験者が一斉に進行方向を意思決定し, 一斉に動く, という実験方法を導入することによって, 群集内の個々人の行動を時系列的に追跡し, 群集内の微視的行動・微視的相互作用と巨視的行動パターンとの関係を検討した。その結果, 特定の微視的相互作用の偶然的な生起による巨視的行動パターンの「核」形成という「偶然」の過程と, いったん「核」が生じた後, 個々人がその方向性に追従し, 確立した (ないし, 確立しつつある) 巨視的行動パターンに巻き込まれるという「必然」の過程が並存することが見いだされた。
著者
三隅 二不二 篠原 弘章 杉万 俊夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.77-98, 1977
被引用文献数
4

本研究は, 地方官公庁における管理・監督者のリーダーシップに関して, 客観的測定方式を作成し, その妥当性を検討しようとするものである。<BR>まず, 基礎資料として, 地方官公庁の管理・監督者から, 自由記述によって, 彼らの職場における上司としての役割行動についての行動記述を収集した。この基礎資料をもとに質問項目を作成し, 数回にわたる専門家会議を経て, 調査票を作成した。質問項目はすべて, 部下である一般職員が上司のリーダーシップ行動について回答するという, 部下評価の形式をとった。また, 係長と課長のリーダーシップ行動を各々区別して評定するように調査票を作成した。係長のリーダーシップ行動に関する質問項目は49項目であり, 課長のリーダーシップ行動に関する項目は, 係長用49項目に5項目を追加した計54項目である。調査票には, リーダーシップ得点の妥当性を吟味するための資料として, モチベーター・モラール, ハイジーン・モラール, チーム・ワーク, 会合評価, コミュニケーション, メンタル・ハイジーン, 業績規範に関する質問項目40項目 (モラール等項目) を含めた。なお, 調査票の質問項目はすべて, 5段階の評定尺度項目である。<BR>この調査票を用いて, 集合調査方式により調査を実施した。調査対象は, 栃木県, 東京都, 静岡県, 兵庫県, 北九州市, 福岡市, 久留米市, 都城市の自治体に勤務している一般職員967名である。<BR>分析は, 単純集計に引続いて, 因子分析を行なった。因子分析は次の3つに分けて行なった。すなわち, (1) 係長のリーダーシップに関する49項目, (2) 課長のリーダーシップに関する54項目, (3) モラール等項目40項目, に対する因子分析である。因子分析にあたっては, 相関行列の主対角要素に1.00を用いて, 主軸法によって因子を抽出した後, ノーマル・バリマックス法によって因子軸の回転を行なった。<BR>係長のリーダーシップ行動に関する因子分析の結果, 次の4因子が見出された。すなわち, 「集団維持の因子」・「実行計画の因子」・「規律指導の因子」・「自己規律の因子」の4因子である。「集団維持の因子」は, 集団維持のリーダーシップ行動 (M行動) に関する因子であり, 「実行計画の因子」・「規律指導の因子」・「自己規律の因子」の3因子は, 集団目標達成のリーダーシップ行動 (P行動) に関する因子であると考えられた。<BR>課長のリーダーシップ行動に関する因子分析の結果, 次の4因子が見出された。すなわち, 「集団維持の因子」・「企画・調整の因子」・「規律指導および実行計画の因子」・「自己規律の因子」の4因子である。「集団維持の因子」はM行動に関する因子であり, 他の3因子はP行動に関する因子であると考えられた。<BR>係長と課長のリーダーシップ行動に関する因子分析の結果, 産業企業体でみられた「目標達成への圧力の因子」に相当する因子が見出されず, それに代わって, 規律指導あるいは自己規律の因子のような規律に関する因子が見出されたことは, 地方官公庁におけるリーダーシップ行動の特質と考察された。<BR>また, モラール等項目に関する因子分析では, 予め設定した7カテゴリーの妥当性を検証するために8因子解を求めたが, 全般的に, 予め設定した各カテゴリーは, 各因子と1対1の対応をもつことが明らかになった。ただ, メンタル・ハイジーンと業績規範の2カテゴリーは, それぞれ2因子, 3因子構造を有していた。<BR>係長および課長を部下評定によって分類したリーダーシップP-M4類型の効果について分析した。まず, 係長および課長のリーダーシップ・タイプを測定する項目を因子分析の結果に基づいて選定した。係長の場合も, 課長の場合も, P行動測定項目, M行動測定項目をそれぞれ8項目ずつ選定した。<BR>係長のP-M指導類型とモラール等項目得点の関係をみると, 業績規範のカテゴリーを除く各カテゴリーにおいて, PM型が最高点を示し, M型が第2位, P型が第3位, pm型が最下位の平均値を示した。業績規範のカテゴリーにおいては, M型とP型の順位が逆転した。この傾向は, 三隅他 (1970) が産業企業体の第一線監督者において見出したリーダーシップP-M類型効果差の順位と同じである。また, 相関比の2乗の大きさから, コミュニケーション・会合評価の2カテゴリーにおいて, 特にリーダーシップ類型効果差が著しいことが明らかとなり, これは, 行政体における特徴であると考察された。
著者
杉万 俊夫 谷浦 葉子 越村 利恵
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.136-157, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

大学病院の中堅看護師(卒後数年の看護師)を対象としたリーダーシップ研修において,研修期間中に研修生が自らの職場改善を開始する研修プログラム(Already-Started型研修)を開発した。その研修プログラムでは,まず,2日間の集合研修において,①研修会場で研修生が自らの職場を分析し,職場改善のための行動計画案を策定する,②一旦,職場に戻って上司(看護師長)と計画を練り直した上で,計画実行の第一歩を踏み出す,③再び研修会場に戻り,各自の行動計画と第一歩の成果を発表し合う,というプロセスを踏む。その後4ヵ月の計画実行期間を挟んで,第2回目の集合研修(1日間)をもち,再び上司との話し合いによって,それ以降5ヵ月間の行動計画を固める。通常のOff-the-Job-Training(Off-J-T)では,研修中に意思決定したことが,職場復帰後,実行に移されにくいという問題があるが,本研修プログラムによって,その問題がかなり克服されることが見出された。また,本研修は,上司をはじめ職場集団が変化する有効なトリガーとなることも見出された。
著者
永田 素彦 杉万 俊夫
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.48-64, 1993

"Conflict analysis", a kind of meta-game theory, was applied to a conflict which occurred in the development of the Kyoto terminal building. Through a review of relevant newspaper articles and a series of intensive interviews with the players involved (i.e., Kyoto Station Building Development Co., Ltd., Kyoto Buddhism Association, an anti-development citizen's group, and a collection of ordinary citizens), the options available to each player and their preference for possible outcomes were determined. The most plausible solution to the conflict was then predicted in terms of equilibrium solutions. The results show that conflict analysis can be a valuable method for examining the macrostructure of a conflict situation.
著者
伊村 優里 樂木 章子 杉万 俊夫
出版者
Japan Institute for Group Dynamics
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.409-435, 2013

地域主権を構想する上で、国と地方自治体の関係を見直すのみならず、市町村よりも小さなコミュニティ、すなわち、「風景の共有できる空間」での住民自治をいかにして育むかを考えねばならない。農山村では、戦前ないし昭和の大合併以前の旧村が、「風景を共有できる空間」に相当する。<br> 鳥取県智頭町では、旧村単位に地区振興協議会を設置し、住民自治を育む運動が始まっている。本論文では、同町を構成する6つの地区(旧村)のうち、地区の運動を現場調査に基づき報告する。具体的には、各地区について、①地区振興協議会立ち上げの経緯、②現在までの活動、③活動の成果と今後の課題を報告する。
著者
杉万 俊夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

「住民主導による教育・医療」を軸とした地域コミュニティ活性化の可能性を、当事者との協同的実践を推進、貴重な実例をつくりつつ検討した。同時に、「閉鎖的な専門的組織・専門家集団への依存」を前提に運営されてきた教育・医療制度を、住民の主体的参加を前提にした制度へと転換する方途について、Y.Engestromの活動理論(activity theory)を理論的枠組みにして考察した。具体的なフィールドには、(1)住民主導の教育実践として、大阪府寝屋川市で展開されている「寺子屋Neyagawa」の活動(毎週土曜に学校を舞台に住民が手作りの教育をする活動)、(2)住民主導の医療実践として、京都市小野郷地区における「地域医療の拠点づくり」の活動(無医地区に住民主体で診療所を設営・運営する活動)をとりあげた。いずれにおいても、研究者が当事者と共に活動を推進しつつ、その経過を追尾し、問題点や失敗経験をも含めて発信した(著書「コミュニティのグループ・ダイナミックス」)。とくに、(1)に関しては、学校側の抵抗に抗して敢えて学校を活動の場とすることによって、学校そのもののあり方を問い直し、地域の教育機能を復権させる可能性を指摘した。(2)に関しては、「医者と患者(住民)の上下関係を是認した上で、医者が患者重視の医療サービスを提供すること」をもって理想的な医療とみなす風潮の中、「住民主体の地域医療」という理念に理解を得ること自体が、最初に乗り越えるべき大きな壁として立ちはだかっていること、また、高齢化した地域における住民主体の診療所運営は、医療以外の領域でも住民が地域活性化に積極的に取り組み出す起爆剤になりうることを指摘した。
著者
三隅 二不二 杉万 俊夫 窪田 由紀 亀石 圭志
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-14, 1979
被引用文献数
1

本研究は, 企業組織体における中間管理者のリーダーシップ行動を実証的に検討し, その測定尺度を構成することを目的とするものである。<BR>フィールドは, 自動車部品の製造, 販売を主要な業務とする企業体であった。まず, 中間管理者 (部長, 工場長, 課長) に, 管理・監督行動に関する自由記述を求め, それを分類・整理しながら, リーダーシップ行動を測定するための質問項目を作成した。質問項目作成の過程で, 質問項目検討のための専門家会議を数回にわたってひらき, 中間管理者のリーダーシップ行動が質問項目として網羅的に含まれることを期した。最終的に, (1) 部 (次) 長・工場長用49項目, (2) 事務・技術系課長用92項目, (3) 工場課長用85項目の質問項目を作成した。リーダーシップ行動測定項目はすべて部下が上司のリーダーシップ行動を評価する, 部下評価の形式にした。これに, リーダーシップ測定項目の妥当性を吟味するための外的基準変数を測定する16項目を加えて質問票を印刷した、外的基準変数は, 仕事に対する意欲, 給与に対する満足度, 会社に対する満足度, チーム・ワーク, 集団会合, コミュニケーション, 精神衛生, 業績規範の8変数である。<BR>回答者数は, 部 (次) 長・工場長用533名, 事務・技術系課長用1, 040名, 工場課長用273名であった。リーダーシップ行動測定項目に関して因子分析を行なったが部 (次) 長・工場長, 事務・技術系課長, 工場課長, いずれの場合も, 「P行動の因子」と「M行動の因子」が見出された。<BR>次に, P行動のさらに詳細な構造を明らかにするために, 「P行動の因子」で. 60以上, かつ「M行動の因子」で. 40未満の因子負荷量を持つ項目のみを対象とする因子分析を行なった。その結果, (1) 部 (次) 長・工場長の場合は, 「計画性と計画遂行の因子」, 「率先性の因子」, 「垂範性の因子」, 「厳格性の因子」, (2) 事務・技術系課長の場合は, 「計画性の因子」, 「率先性の因子」, 「垂範性の因子」, 「厳格性の因子」, (3) 工場課長の場合は, 「計画性の因子」, 「内部調整の因子」, 「垂範性の因子」, 「厳格性の因子」が見出された。<BR>M行動のさらに詳細な構造を明らかにするために, 同様の分析を行なつた。<BR>その結果, (1) 部 (次) 長の場合は, 「独善性の因子」 と「公平性の因子」, (2) 事務・技術系課長, 及び (3) 工場課長の場合は, 「独善性の因子」と「配慮の因子」が各々見出された。<BR>従来の研究との比較によって, 第一線監督者と中間管理者のリーダーシップ行動の差異が考察された。すなわち, 具体的な内容には若干の違いがあるものの, 「厳格性の因子」及び「計画性の因子」は第一線監督者と中間管理者に共通している。しかし, 部 (次) 長・工場長及び事務・技術系課長の場合に見出された「率先性の因子」と, 工場課長の場合に見出された「内部調整の因子」は, 第一線監督者を対象とした従来の研究では見出されてはおらず, 中間管理者に特有な因子であると考察された。<BR>P行動, M行動の因子得点を用いてリーダーをPM型P型, M型, pm型に類型化し, 8個の外的基準変数との関連においてリーダーシップPM類型の妥当性を検討したが, いずれの外的基準変数においても, PM型のリーダーの下で最も高い得点, pm型のリーダーの下で最も低い得点が見出され, PM類型の妥当性が実証された。このPM類型の効果性の順位は, 従来の研究における第一線監督者の場合と全く同様であった。<BR>また, P行動測定項目10項目, M行動測定項目10項目を選定した。10項目を単純加算して得られるP (M) 行動得点はP (M) 行動の因子得点と. 9以上の相関を示すこと, PM行動得点を用いてリーダーの類型化を行なった場合のPM類型と外的基準変数の関係が因子得点を用いて類型化を行なつた場合の関係と同じであったことからこれらPM行動測定項目の妥当性が明らかになった。
著者
杉万 俊夫 米谷 淳 佐古 秀一 三隅 二不二
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

災害時の避難誘導方法として, 指差誘導法, 吸着誘導法という2つの対照的な誘導法をとりあげ, それらの誘導法によって引き起こされる群集全体の行動パターンを解析した. 指差誘導法とは, 誘導者が, 大きな声と動作で避難方向を指示して誘導する方法で, 従来, 避難訓練の場で最も広く用いられてきた代表的誘導法である. 一方, 吸着誘導法とは, 各誘導者が, 自分のすぐ近辺にいる1名ないし2名の少数の避難者に対し, 自分についてくるよう働きかけ, それら少数の避難者を実際に引きつれて避難するという方法である. したがって, 吸着誘導法においては, 誘導者が出口の方向を具体的に指示したり, 多数の避難者に対して大声で働きかけるようなことはしない. 第1に, 現場実験により, 吸着誘導法の方が, より迅速な避難誘導を達成できる場合があることが見いだされた. しかし, いかなる場合にも, 吸着誘導法が有効であるわけではない. 特に, 誘導者と避難者の人数比を操作した実験を行なったところ, 誘導者対避難者の人数比が比較的小さいときには, 吸着誘導法がきわめて有効であるが, 人数比が大きくなりすぎると, 吸着誘導法では十分な避難誘導を実現できなくなり, むしろ, 指差誘導法の方が有効であった. 第2に, 2つの誘導法を比べると, 誘導によって生起する群集全体の行動パターンに著しい違いが見いだされた. すなわち, 吸着誘導法が成功する場合には, まず, 誘導者, および, その直接的働きかけを受けた1名ないし2名の避難者から成る即時的小集団が形成され, その即時的小集団が「雪だるま式」に周辺の避難者を巻き込むことによって, 出口に向かう一本の群集流が形成された. 一方, 指差誘導法においては, 吸着誘導法の即時的小集団に相当するような特定の核が形成されることなく, 個々の避難者が, ばらばらのまま, 均質的に出口方向に移動した.