- 著者
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木内 敦詞
荒井 弘和
浦井 良太郎
中村 友浩
- 出版者
- 一般社団法人日本体育学会
- 雑誌
- 体育学研究 (ISSN:04846710)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.1, pp.145-159, 2009
- 被引用文献数
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身体活動増強は他の健康行動改善へのきっかけとしての役割が示唆されているものの,大学生の身体活動レベルは低い.Sallis et al.(1999)によるProject Graduate Ready for Activity Daily(GRAD)は,行動科学に基づいてプログラムされた,卒業直前の大学生のための身体活動増強コースである.大学新入生に対しても,GRADと同様の視点に立った身体活動介入を行う必要がある.本研究の目的は,行動科学に基づく宿題を併用した体育プログラムが大学新入生の心理的・行動的・生理的な身体活動関連変数に正の効果を持つかどうかを検討することであった.本プロジェクトは,First-Year Physical Education(FYPE)と名づけられた.近畿圏にある工科系大学の新入生が本研究に参加した(N=993;介入群,N=497;非介入群,N=496).全授業の共通プログラムは以下のとおり(数字はその順序に対応);1:ガイダンス,2:健康関連体力テスト,3-6:実技,7:講義,8-12:実技,13:健康関連体力テスト,14:まとめ.介入群にのみ,行動科学に基づく身体活動増強プログラムが追加された.そのプログラムは,ワークシートによる行動変容技法教育(意思決定バランス分析,セルフトークの修正,逆戻り防止,社会的支援,シェイピングなど)と,授業時間外演習課題のアクティブ・ホームワーク(身体活動に関するセルフモニタリング,目標設定)から構成された.週1回のプログラムの期間は3.5ヵ月であった.心理的変数(運動セルフ・エフィカシー,運動に関する意思決定のバランス[恩恵-負担]),行動的変数(強度別の身体活動量,区分された身体活動の実施頻度),生理的変数(健康関連体力:心肺持久力,柔軟性,筋持久力,体脂肪率)を測定した.これら変数を授業期間の前と後に測定し,介入群と非介入群を比較した.2要因分散分析とその後の下位検定により,心理的変数の運動セルフ・エフィカシーと運動実践の恩恵知覚への有意な介入効果が認められた.行動的変数については,「運動・スポーツ」「日常活動性」といった幅広い強度の身体活動量および区分された身体活動の実施頻度(日常身体活動と健康関連のエクササイズ[有酸素運動・柔軟運動・筋運動])への有意な介入効果が示された.生理的変数としての健康関連体力に関しては,筋持久力への介入効果が認められた.これらの結果は,行動科学に基づく宿題を併用した体育授業が,大学新入生の身体活動関連の心理・行動・生理的変数への包括的な正の効果を持つことを示唆している.