著者
小野 展克
出版者
嘉悦大学研究支援・論集編集委員会
雑誌
嘉悦大学研究論集 = Kaetsu University research review
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-17, 2014-10

本研究では、昭和金融恐慌を当時の新聞が、どのようなキーワード、キーセンテンスを使用して報じたのかを分析した。具体的には、片岡直温蔵相の失言に端を発した東京渡辺銀行の取り付け騒ぎを東京朝日新聞、読売新聞、中外商業新報がどのようなキーワードを使って記事化したのかを分析した。昭和金融恐慌は、この東京渡辺銀行の取り付け騒ぎ、鈴木商店の経営不振による台湾銀行の信用不安、台湾銀行の休業という3つの波があり、片岡直温蔵相の失言は、その幕開けとなった事件として注目される。また、先行研究として金解禁をめぐる新聞論調の変化を追った中村宗悦や経済報道のゆらぎ現象の増幅効果を指摘した駒橋恵子らの考察を踏まえ、報道が昭和初期の政策決定に与えた影響も考察した。
著者
樋笠 尭士 ヒカサ タカシ
出版者
嘉悦大学研究支援・論集編集委員会
雑誌
嘉悦大学研究論集 = Kaetsu University research review
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.69-84, 2015-10

本稿は、事実の錯誤を考察するに際し、刑法と、その他特別法および行政法規における事実の錯誤の場合を比較し、行為者に必要とされる認識の内実を明らかにするものである。刑法における「事実の錯誤」の「事実」とは、「犯罪構成要件の要素たる事実」を指すものであり、そして、「犯罪構成要件の要素たる事実」とは、所得税法・道路交通法における事実の錯誤においても、刑法の故意概念、すなわち法定的符合説が用いられていると考えられる。ドイツのSchünemannの見解や、ドイツ公課法369条2項の「刑法に関する総則規定は、脱税犯罪行為においても妥当する」という文言に鑑みれば、ドイツにおいても、刑法における事実の錯誤の概念は租税法および経済刑法についてそのまま妥当すると考えられる。こうした理解を基に、学説及び判例を検討し、日本およびドイツでは、事実の錯誤の概念や、行為事情に関する錯誤は故意を阻却するという規範が、刑法以外の法規においても用いられている点、租税逋脱犯においても、両国は、故意の認識対象を「納税義務」と解している点を考察する。そして本稿は、故意が「犯罪構成要件の要素たる事実」の認識すなわち「法定構成要件に関する行為事情」の認識であり、これは刑法および他の法規においても妥当するという結論を導くものである。